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このブログは企画系創作作品をまとめたブログです。主更新はオリキャラRPG企画になっております。
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30 2009 / 10
概ねヒュー国モブ話。
最後にちこっとカルーアが出てきます。




その沼はインテグラの郊外にあった。
郊外といっても気軽に行けるような場所ではなく、街道を逸れ、深い森林をぬけた先。木々の開けた湿地にひっそりと点在している沼の一つ。地元の者は子供たちに「鬼火が出るから近づくな」「神隠しに遭うから近づくな」と言い伝えている湛え。実際年に10人はその沼の周囲で人が消えていた。
男は沼を見渡してため息を吐いた。雪化粧した地にぽっかりと開いた泥の口は周囲の沼と変わりはしない。水面すれすれを舞う青白い光を除けば。
「居るんだろう、沼の主とやら」
男が呼びかける。
辺りに人の影は無く、どころか動物の気配も無い。
否、気配は在った。気配だけ。しかも、人でも動物でもない。生き物ですら。
男の呼びかけに応えるように、沼の中心に一際大きな光が灯った。周囲を舞ってた光球達が親の元に向かうかのように新たに現れた光球に寄っていく。光球は徐々に収束し、やがて人の形を取った。青白く輝くローブを纏ったような人の型。青白く整った顔はひどく中性的で、人間味のなさが際立っている。
「ふぅん、人の型を取れるのか」
『―――――…迷い子ではないようだ。名指すからには私に用か。何用か?』
ぼそぼそと小さく口を動かして、だがその声は沼の辺り八方から響くように聞こえてきた。《沼の主》が喋る度に、薄く開いた口から白む息が出るように青い炎が細く零れる。
「お前が沼の《鬼火》で間違いないな?」
『私は応答にて肯定した筈だ。して、何用か』
「単刀直入に言う。お前の力を寄越せ」
表情一つ変えず、男は切り出した。
《鬼火》も、能面のような貌を崩さず男の言を聞いた。
しばしの沈黙の後、沼の周囲から笑い声のようなざわめきが起こった。幾人もの人間が笑っているように聞こえる。《鬼火》も表情を変えることなく笑っているようだった。
『力を求む? 私が力をか? 面白いことを言う』
「笑い話をしてるつもりはない」
『戯言だろう。強きを求めるならばこんな泥溜まりの主の、100や200月多く生きた程度の妖精になぞ縋らぬ』
「何にしろ、個々人の求めるところに違いがあるのは当たり前のことだろうが」
『ほう?』
《鬼火》の声に、好奇の色が混じった。話してみよ、と促すように《鬼火》は口を閉ざした。
男は心底面倒くさそうにため息を吐いた。
「……俺には死者の姿が見える。声も聞こえる。代々そういう家系に生まれついたんだ。小さい頃からずっと死者を見聞きして育ってきた。だが、俺から死者に何を伝える術は持たない。触れることも、俺の声を伝えることも叶わん。それをどうにかしたくて来た」
『なるほど、なるほど。なれば私が力は有用かもしれぬな。私が火は死者を導く灯火故』
「導く?」
はっ、と小馬鹿にしたように男が笑う。
「そんな義理なぞ俺には無い。亡者が生者の邪魔をするなと言ってやりたいだけだ。言っても聞かぬなら薙ぎ倒すまで」
『穏やかでないな』
「沼に迷い込んだ人間とり殺してるような妖精に、そんな清い志を持って力を乞う奴がいるか」
《鬼火》はそれもそうかと納得した。
『して、その穏やかではないお前は、どのように私が力を得るというのだ。私にお前を助く義理は無いぞ?』
「協力は要らん」
男は《鬼火》を真っ直ぐ見据えたまま、正中を隠すように斜に立った。
男の意図を察し、《鬼火》もニヤリを笑う。今度は表情をしっかりと変えて。
「力ずくで貰っていく」
『面白いニンゲンだ!』
叫ぶ《鬼火》の吐息が渦を描き、大鎌へと形を変えた。青白く輝く炎の鎌―――――その光は魂を灼くウィルオウィスプの力の具現だった。
大鎌を振り上げたまま、一直線に飛んできた《鬼火》を男は横に飛び退いて避けた。鎌の軌跡が青い火の尾を引いて宙に残る。これに触ってもダメージになるのだろう。男は小さく舌打ちをした。
《鬼火》は次々に大鎌を振るった。男は切っ先すれすれのところで器用にかわす。
『なかなかはしこいじゃないか、ニンゲン。大口を叩くだけの事はある』
もちろん、ただ褒められている訳ではないことは男も理解していた。
男は徐々に沼の縁まで追いつめられていた。《鬼火》はわざと大きな動作で攻撃を仕掛けているのだ。沼に落ちるか、沼に足を取られて避けられなくなることを狙っている。
沼の端、あと一歩で落ちるという距離で、男は《鬼火》と正面から対した。
『これで詰みだ!!』
《鬼火》は勝利を確信し、大鎌を振り下ろした。
刃が首に届く直前、とっさにコートを脱いだ男は、コートを絡めて大鎌の軌道を逸らせた。なびいたコートにぱっと青い炎が走り、一瞬《鬼火》の視界を奪った。
『小癪な…っ!!』
すぐさま大鎌をはらってコートの焼け残りを視界から除く。その鼻先に白い棒のような“何か”が突き出された。
《鬼火》には束の間、それが何か解らなかった。
「これで詰みだな」
白いブラウスを泥で汚し、男は“何か”を抱きかかえて沼の端に居た。半ば座り込む体勢をしているのは、沼の端から“何か”を引き上げたせいか。
《鬼火》の大鎌が柄の中ほどから真っ二つに折れた。
「コイツは柄だったか」
『おのれ…!』
《鬼火》は折れた大鎌の上半分を持ち、吐息の炎で再び柄を作り直した。
男は抱きかかえていたものを棄て、沼に手を突っ込んだ。直ぐに手についたものを引き上げ、《鬼火》にかざす。
今度は鎌の刃先が砕け散った。
「これは刃か」
引き上げたものを見て、男は呟いた。
長く時間が経っていたようで、関節が脆くなっていたのだろう。引き上げる勢いの余り肘のところで千切れてしまった。それでも自らと認識したのは、この手首に嵌められた腕輪のおかげか。
うろたえる《鬼火》を尻目に、男は沼から次々と死体を引き上げていく。その度に《鬼火》の持つ大鎌の炎が消えていった。
《鬼火》の炎は魂を燃やす。つまりこれが纏っている火も、誰かの魂ということだ。
「“神隠し”なんて大層なものか。お前はお前の火にくべるために、沼に人を沈めてただけだろう」
『くっ………確かにその通り。だが、それが解って何になる。火を消すだけでは私を仕留めることは適わぬ』
「そうかもな」
死体が上がる度に大鎌の一部が崩れてはいる。だが、《鬼火》が息を吐くと崩れた部分はまた元に戻った。武器を為す魂がなくなるまで死体を見つければ意味があるかも知れないが、とても男の体力が持ちそうにない。
「“火”では仕留められぬだろうさ」
引き上げた死体を《鬼火》に投げつけ、男は沼に飛び込んだ。先程まで手を突っ込んでいたから予想はしていたが、やはり深い沼ではなかった。膝丈程の入りから沼の中心部へ向かう。この分だと中心部は男の鳩尾くらいの深さだろうか。
『!! まさか貴様…っ!』
突然の男の行動に《鬼火》は目を見開いた。男を追いかけようとしたが、度々男が投げつけてくる死体によって大鎌の炎が消され、追いつくまでに時間がかかった。
男は沼の中心部で、沼の底をさらった。手につくもの、他とは違うモノ…時折手についた死体を《鬼火》に向かって投げつけながら、男は探した。
その手に、骨とは違う硬質なものが当たった。
(これだ!)
すさまじい水の抵抗に耐え、男は掴んだものを引き上げた。
水しぶきと共に現れたのは、鎖でがんじがらめになった布の塊。いや、布の隙間から綺麗に肉の落ちた人骨が見えた。形から察するに布はローブで、胸の辺りに鎖と同じく赤錆びた短剣が刺さっている。人骨の首には『Novalis』と刻まれた金のネックレスが絡まっていた。
顔はもう判らないが、ローブや背格好からして―――――人骨は《鬼火》のもののようだった。
「これが、お前の原型?」
男が人骨を掲げると、《鬼火》の姿に大きく罅が入った。まるで硝子が砕けるように《鬼火》の人の型が砕け、欠片が青い火となって沼に墜ち消える。
『―――――…あぁ…』
幽かな断末魔と共に《鬼火》の姿が消え去った。後には小さな青い火の球が一つ、残った。
男は火の球を救い上げ、引き上げた人骨と共に岸に上がった。戦いの最中に岸から上げた死体の山は、少し考えてから沼に戻した。量が量だし、男一人でどうにかなるものではない。
手には弱弱しく輝く火の球がある。恐らくはこれが《鬼火》の本体。彷徨う死者を導く…いや、彷徨う《鬼火》自身の標火なのだろう。
男の傍らにあるローブを着た人骨は、死した後でこの光に縋った。
今、生きてこの力に縋る自分もまたこの人物のようになるのだろうか?
そんな考えが過ぎり、男は思わず噴き出した。何もせずとも間もなく死ぬのだから、考えても仕方のないことだ。
笑い混じりの息を吐いて、男は火の球を飲み込んだ。


「その後、その男はインテグラに住み着いて葬儀屋を営んだのですよ」
「それがヘブのじいちゃんの話?」
「はい」
カルーアの問いに、ヘブンリィはとてもいい笑顔で答えた。
「その後生まれた男の子供は、鬼火で染まったような輝く青の両目と髪の毛を持っていたそうです。ほら、俺やディールも目と髪が青いでしょう?」
ヘブンリィが抱えているのは昨日図書館で借りてきたという吟遊詩人たちの語る物語をまとめた本だ。その本に記された物語の一つを示し、ヘブンリィは先程の話をした。
「いつまでもそんな話信じてんなよ、兄さんは。あるわけ無いだろ、幽霊とか妖精とか」
ヘブンリィの弟、レディローズは呆れたようにため息を吐く。
「おやおや、ちょっと前まで夜枕元に立つ影が怖いから一緒に寝てほしいと言っていたのは誰でしたっけ」
「それは…っ! 気の迷いだよ! とにかくそんなのありえない!! つかなんで兄ちゃん俺の部屋に居るんだよ!」
「カルーア君が遊びに来てくれたからじゃないですか」
二人の家に遊びに行く度、二人は同じような喧嘩をしている。カルーアはそれを楽しそうに見ていた。カルーアにも姉が居るが、異性だとやはり喧嘩の勝手が違う気がする。
言い合っている二人を見ていると、ノックの音がした。
喧嘩をしている二人に代わり、カルーアが戸を開ける。すると、戸の隙間から二人の母親が顔を覗かせた。
「あらこんにちは、カルーア君」
「久し振りです、ノヴァーリスさん。相変わらずお美しい」
「うふふ、お上手ね」
「なにか用? 母さん」
喧嘩を中断し、レディローズが戸口に来た。入れ替わるようにカルーアは戸口から下がった。
「お友達が来てるっていうから、飲み物持ってきたの」
「ああ、ありがと……………母さん」
差し出されたお盆を見て、レディローズが言葉を詰まらせた。
レディローズの体で死角になっていたカルーアには分からなかったが、ヘブンリィはその理由が分かったようだった。あちゃー、とわずかに首を傾けた。
「母さん、今日カルーアしか来てないんだけど」
母親が持ってきたお盆には、ヘブンリィとレディローズ其々の専用マグと、来客用のマグカップが3つ乗っていた。
「えっ? えっ?」
「あのね、お母さん。俺の左後ろに居る二人は、もてなしとか要らないんだよ」
「えっ!?」
ヘブンリィの言葉に、カルーアは思わずヘブンリィの居るほうを振り返った。もちろんカルーアには何も見えることはなく、改めて部屋を見回しても、新たに現れた二人の母親を含めて4人しか居ない。はずだ。
「なんで母さんは俺たちより長生きしてるのに区別がつかないんだよ…」
「ええっと…ゴメンね、レディローズ」
ぶつくさ言いながらもレディローズは3人分のマグカップを受け取った。残り2つのカップはお盆と共に母親に返した。
受け取った飲み物を一口すすり、部屋の戸が閉まったのを見届けてから。
カルーアはどちらにともなく尋ねた。
「…で、幽霊は居るの?」

「居ない」「居ますよ」

レディローズとヘブンリィは同時に答えた。
声が被ったことに気づき二人は互いに顔を見合わせたが、今度は喧嘩になることはなかった。




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