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■ ヒューフロスト王城外、城扉前

閉ざされた城の扉の前には、陣を組むように冒険者と宰相私兵が並んでいた。陣の最前列、扉のすぐ前にはファーレンハイトが居る。陣の後ろにはタングレイを先頭に情報局員が整列し、氷刃騎士団は陣から離れたところに待機している。
その陣を結ぶように、ベリルは雪の上に黒い粉を撒いていた。
「それは、聖別ですか? それとも何かの魔法陣?」
「これ自体に効果がある訳ではない。ただの矢印みたいなものだ」
足元に撒かれる粉が描く線を見ながら、リフィルが尋ねた。ベリルは相変わらずの男声で応える。
「魔力の誘導を促すものだよ。印があったほうが流れやすいのさ」
「そんなもんか?」
「そんなものさ」
線がタングレイの元まで到達すると、ベリルは手に付いた粉を払い陣を確認するように周囲を見回した。不備が無いことを確認するとファーレンハイトに向かって恭しく礼をする。
「呪紋の準備は滞りなく、我が王よ」
「ご苦労、クウォン…と言うにはまだ早いか。では始めよう。皆、用意はいいか?」
「用意ってもこんなことするの初めてだし、なんとも言いようないけど」
「今はこれが最善ですし、やる他ありませんよねえ」
ファーレンハイトの直ぐ後ろで武器を構えるあおいと百足が口々に言った。
城を覆う結界を破る一番のネックは解析者の不足だった。まともに術式を読むことが出来るのはファーレンハイトのみで、複雑な術を解除するには頭数が足りず、しかもファーレンハイト自身の体調のせいで長時間の解析は出来ない。
故に、ファーレンハイトが提案したのは解除作業の分担だった。読むことの出来るファーレンハイトは読む作業のみに集中し、それらを元に解除は別の者が担当する。説明だけ聞けば簡単そうだが、通常の複合魔術と違い、担当作業以外を『行わない』ということが難しい方法だ。
ベリルが敷いた呪紋は解析者のファーレンハイトを起点に、解析結果を基に解除式を構成するジル・リフィル・蚕蛾を経由して、直接突破を行うあおい・ルミナス・トリス・百足・蜻蛉を結ぶように延びていた。突破役にはそれぞれ異なった種類の武器を持つ者が選ばれ、武器の呪的意味が解除式の威力に上乗せされる仕組みだ。
「拙者たちに何も出来ないのが歯がゆいな…」
「………」
「腐るな、若者。今が見せ場じゃないだけだ」
陣から離れ、キサラと蟷螂は仲間を見守る。突破にはある程度の魔術素養が必要だったため、二人は解除作業からは外されていた。その二人に話しかけたグレフを始めとする氷刃騎士団も解除作業には関わっていない。役割にそぐわないという理由もあるが、結界解除後の城の探索人員を確保するためでもある。
「大丈夫だよ君らは。ぼくらよりかマシ」
「『役目』に不満があるなら言ってくれ。今回は止むを得ないが、次回からは検討するぞ」
「まさか。国のために使い捨てられるならば、この情報局員一同本懐を遂げられるというもの」
「使い捨てるつもりは無い」
「陛下、それ使い捨てるよりもより酷くなってます」
ファーレンハイトにかかる負担と魔力の消費を肩代わりするためだけに呼ばれたタングレイは、わざとらしく敬礼をする。
「疑問なんだが、魔力の供給と負担の肩代わりなんてそんな簡単に出来るものなのか?」
「簡単ではありませんよ。だからこそ、ぼくが窓口として局員の魔力を束ねて、負担の配分をしている訳ですし。まあ、難しさを踏まえた上で陛下ならではなんですけどね」
首を傾げるグレフに、タングレイは識者の優越が混じった笑みで応えた。
「魔力吸収はマリオセンパイの十八番ですよ。そして陛下はセンパイの教え子でもある。学問教養礼儀に常識、魔術も武術も一切全てをセンパイ一人から教わっているんです」
「喋りすぎだタングレイ」
「ごめんなさい陛下。やっぱりせっかくお呼ばれしたのに蓄積筒代わりじゃあ納得いかなくて。ぼくのお願い聞いてくれませんか?」
「なんだ?」
「突破役にうちから二人出させてください。解除式に上乗せする『意味』にはバリエーションあったほうがいいでしょ」
「…いいだろう」
ファーレンハイトの了承を得ると、タングレイは嬉しそうに後ろにいる集団から二人、呼び出した。聖服に不釣合いなサングラスをした男と、聖服の上からやたら大仰な黒いマントを羽織った男だった。
「クーロン3級官と、セレディア4級官。今居る人たちとは違った『意味』を持ってますから役に立つかと。そこのセンパイの手駒さんならエンチャントも合わせられるでしょ」
「…本来居るはずのない者と馴れ合うつもりは無い。が、今は有事だ。よろしく頼む」
「よろしくね。宰相猊下の私兵さん」
クーロンは真面目な面持ちで、セレディアは柔和な微笑みで挨拶をする。薄く開かれたセレディアの口元から覗く牙を見て、蚕蛾は嘲り混じりの口調で応えた。
『こちらこそ。…そっちの男はミディアンか。情報局の手駒はずいぶんとおかしなものが居るのだな』
「それはお互い様じゃない? 日の下に出られないようなの持ってるセンパイも相当物好きだと思いますよぉ?」
「喧嘩するようならお前のお願いは取り下げるが」
「たびたびすみません陛下。これは挨拶みたいなものですから、お気になさらず。じゃ、がんばってねユナ、ディール」
「「了解」」
返事と共に、二人は突破役の居る陣の最前線に向かって行った。歩きながら、クーロンは吐き出した息から青い炎が生じそれが双頭の大鎌の形を成し、セレディアはなびくマントが蝙蝠の翼のように一つ羽を撃った。
それぞれが所定の位置に就くと、ファーレンハイトは杖を構え、《スノウエンプレス》を開いた。宝典から発せられる魔力はファーレンハイトの血が持つ魔力と同質であり、そして城を覆う結界に流れる力と同質だった。ヒューフロストに根付く大いなる冬の力にして、かつてこの地に居たという氷妖種族がその身に宿していた魔力だ。
ファーレンハイトの動きに呼応するように、解除式構成を担当する者達とは別の枝に別れた場所に立っていたベリルも、術式を展開する。彼女の式は今編んでいるものではなく、元々編んであったものを呼び出しただけであった。
「これは我が城のデータベースから抽出した氷妖種族の魔術に対する解除プログラムだ。汎的な定型式はこれで全て取り払える。が、術者個人が独自に編んだ部分は我が王が読み解く他は無い。ご武運を、我が王よ」
ベリルが放った術式は、城の扉に当たると染み込むように結界に溶けていった。傍目から見れば結界に波紋を渡らせただけに見えるが、魔術師の目には結界を構成する柱の幾つかを確実に消し去っていく様子が映る。
その開いた隙間から、ファーレンハイトは意識を滑り込ませ、結界の術式を読み始めた。結界を構成する式は、広大であり精密だった。上等なキルトかタペストリーのように数多の要素が重なり合い、芸術的とも言える編み目が出来上がっている。人の身でこれを編むとすれば、一生を費やしでもしなければならぬほどの精度だった。
(あるいはそのためだけに居るのかもしれない)
膨大な術式を前にして、ファーレンハイトは驚きと焦りと、わずかに笑みをこぼして解読に臨んだ。


ファーレンハイトが解析した結界の情報は、クウォンが敷いた呪紋に沿って解除式を構築する者の元に送られる。構築者はそれを基にして、突破役それぞれの武器に見合った解除式を組み立てていった。
「こんな感じでどうかな?」
「とりあえず攻撃してみるか」
元からコンビを組んでいるからか、いち早く式のエンチャントを終えたリフィルとルミナスが扉に向かって攻撃を加えてみた。物理攻撃力が解除式の効果に上乗せされるように構築されているため、解除方法としてはこれで合っているはずだが、攻撃は結界の表面にわずかに波紋を渡らせただけだった。
「威力が足りないのかな? せーの、でいくよルミナス。せーーのっ!!」
気合の入った号令と共に、続いてエンチャントが成されたあおいが結界に挑む。ルミナスと同時に攻撃をしてみるが、先よりも大きな波紋を渡らせるにとどまった。
「やっぱり威力不足かなあ…」
「威力もアレだけど、タイミングとかも関係してるんじゃないかな」
ひとまずは他の突破役のエンチャントが完了するまで待つことにする。と言っても残りの5人は構築を蚕蛾一人が請け負っているため、簡単にはいかない。様子を見るにトリスと百足の付与までは終わり、今は蜻蛉の分を調整しているところのようだ。
「やはり一度に5人は難しいだろうね。どれ、」
あおいのエンチャントを終えていたジルは呟くと、陣の前方に居るクーロンに声をかけ、二言三言交わした。そして彼が持つ炎の鎌に合う解除式を紡ぎ出す。
魔力の加護を受け炎とは異なった輝きを宿した自身の武器を見、クーロンはサングラスの奥で炎と同じ色の目をわずかに見開いた。
「たったこれだけのことで最適な術を組めるとは。貴公は相当な手練と見受けしました」
「なに、その手のものに知り合いが多いだけだよ。そなたこそ、使役するのはよく見るが人の身のままで妖精の力を宿すとは珍しい」
「…貴公はこの火が何だか解るのですか?」
「知り合いが多いからね」
あからさまに身構えたクーロンに、ジルは飄々と答えた。
警戒を解かないまま、数瞬の黙考の後、クーロンは慎重に言葉を返す。
「俺の『炎』は魂を焼くものです。魔術自体を打ち破ることはできなくても、それを制御する魂を打ち砕くことは、出来る」
言って、クーロンは双頭の大鎌を手の中で滑るように回転させ結界に叩き付けた。青白い軌跡を描いて当たった鎌はエンチャントによる波紋だけではなく、炎による構成式への揺らぎも引き起こしていた。
「なるほど。確かに私達のパーティには無い力だ」
ジルは感心したように呟いた。
『これで仕舞いだ』
「わあ、ありがとうございます、私兵さん」
黒い皮手袋をはめた手を楽しそうに2、3度握り、セレディアは雪原を蹴り宙に跳び上がった。マントが端から無数の蝙蝠へと変わり、本来ならば重力に従い落ちるはずの身を支える。日の下ではあったが、その姿は御伽噺の吸血鬼に相違なかった。
「遊んでいるなよ、ユナギリアス・セレディア3級官」
「上からのほうが見えるものもあるのさ」
クーロンの忠言を笑顔で流し、セレディアは上空から城を見渡す。2階正面にある1枚の窓を標的に見据えると、墜落するかのように特攻し、落下エネルギーを上乗せした拳を叩き込んだ。2度、3度と拳を繰り出し、最後に真正面からの中段蹴り。その反動で着地したセレディアは、結界に渡る波紋を見て明るく笑った。
「あはは、結構難しいねえこれ。一応は装甲薄いところ狙ったんだけど」
『脚には術式をかけていない。最後の蹴りは無意味だ』
「あ、そうか」
『それにただ攻撃して壊せるものなら、ファーレンハイト様がこんなに苦労していない』
術式維持のため動作を最小限に抑え、蚕蛾は視線だけでファーレンハイトを示す。杖と宝典を構え扉の前に立つファーレンハイトは、目を閉じ一見平静に見える。だがそれは、表面的なアクションを起こす間も無いほどに解析に意識を費やしているということだ。
『表層からでは気付かない内部の弱点を探し当てること、もしも無ければ弱点となる部分を作り出すこと。そうでもしなければ結界は破れない』
「短時間でも、氷妖の魔術師を募ればいいのにね」
『氷妖は“すでに絶滅している”。無いものを募ってどうするんだ』
「そうなの? てっきりまだヒューフロストの何処かに里でも作って暮らしてるんだと思ってた」
ちょこちょこと定期的に扉に攻撃をしつつ、あおいが尋ねてきた。冒険者であれば依頼などで氷妖の遺跡に行ったこともあるだろう。遺跡や文化レベルを見れば、簡単に滅ぶような種族ではないと思うのも無理はない。
蚕蛾は思うところがあったのか少し目線を外し、そして静かに言った。
『…そうだ。氷妖は、ヒューフロストの建国前に滅んだ。今は居ない。だからこそ彼らの遺産たるモノリスの機能を解析し、実用にこぎつけたシュバルツシュタインは《要石》と呼ばれる王従となったのだ』
そのシュバルツシュタインの僕、ベリルはこちらに背を向けていた。聞こえていない訳ではないだろうが、彼女もまた何かの役割を負ってあの場所に立っているのだ。こちらの話に反応を示しては来なかった。
突破役と構築者は、結界を破る最良の機が訪れるのを待った。


構成する式は気が遠くなるほどの綿密さを持って、消失点に消えるそれが地平なのか深遠なのか、或いは天上なのかすら解らぬほどに広がっている。ところどころに空いている穴はクウォンが使った定型解除式のものだ。穴と言ってもちょっと結界の軽量化を図った程度しかない。
その只中にファーレンハイトは居た。
圧倒的な量の術式に意識を通し、その構成を理解していく。
試しに数箇所を壊してみたが、クウォンが空けたのと同じような穴が開いただけで決定的な決壊を起こすには至らない。要素を様々な場所に分散させ、また要素を様々な場所から引っ張り出して縒り合わせるように組み立てているためだった。荒縄の藁を一本ちぎったところで縄が切れるはずもない。
また、一箇所を壊しても他の場所がセーフティのように働き補う特性があることも知った。これでは、安易に攻撃していても破ることは出来ない。
(だからこそ、この結界には主軸となる何かがあるはずだ)
結界はただ守るためだけのものではない。攻撃を、或いは反撃をするために一時の間を稼ぐためのものもあれば、相手を惑わすために作られたものもある。当然ながら目的が違えばそれぞれに構成や性質も変わってくる。攻撃の間を稼ぐための結界ならば強度以上に即効性が必要になってくるし、相手を惑わすものならば範囲が重要な要素となる。
そしてこの結界は―――――ファーレンハイトが今対面しているこの結界は、徹底的に守ることに特化されている。相手に反撃するではなく、相手を惑わすこともしない。どんな攻撃をされても、その存在を確認されても『守る』ために構成されている。
(それほどまでに守りたいものとは何だ? 何のために“お前”は作られた?)
張り巡らされた場所を考えれば、これが『侵入を阻害する結界』だと判断することも出来ただろう。守りが堅ければ、内に入るのは容易ではない。
だが違う。恐らく、今解除に携わっている多くの者も気付いていないだろう。この術者にとって、“扉を閉ざすことは『守る』ための手段に過ぎない”ことを。
(守る術を使うなら、その中心には守りたいものがあるはず。それが解れば、この術式の方向性が見えてくる―――)
あの女の声はヒューフロストと言った。聞けば胸が張り裂けそうな悲痛な声で、ヒューフロストと叫んだ。
ファーレンハイトは自分が呼ばれたと思った。ヒューフロストはこの国の名前であり、この国の王族の名前であり、王の名前だからだ。
だが違った。あの声は自分に向けられたものではなかったし、術式を読み解いている今も、彼に対する反応は無い。
(では何なのだ。ヒューフロストとは。お前にとってのヒューフロストとは一体何だっ!?)
頭痛がした。解析に没頭するあまり、頭を使いすぎているようだ。が、もしかしたら原因は別かもしれない。それでもファーレンハイトは解析をやめず、結界の深層へ潜っていく。
幾重にも張り巡らされた防御の式の最奥で、ファーレンハイトは確かに、ゆっくりと首をもたげる透き通った竜の姿を見た。
竜は悲しげに、何かを否定するように首を横に振る。それは聡い子供が総てを理解しつつも、最後の手段として子供じみた手を使っているように見えた。
そして竜を諭すように、聞き知った声が響いた。いつか向けられたことのある、優しい声音だった。
『―――――それでも今は、彼らがヒューフロストなのです』


「クウォン! 解析記録の準備はいいか!?」
「無論だ、我が王よ」
結界術の解析を行っていたファーレンハイトが叫ぶと、ベリルは楽しげな男声で応えた。つられて解除式の構築者と、突破役も気を引き締める。
「こんなに簡単なことだったのに、手間取ってしまったな」
わずかに疲労の見える顔で笑い、ファーレンハイトは《スノウエンプレス》の頁をめくった。必要な解析式を構築者へ転送し終えると、杖を大きく振りかぶり、扉に叩きつける。すると甲高い打撃音と共に、騎士団や突破役の者達がどれほど攻撃を加えてもびくともしなかった氷壁の表面に無数の罅が走った。
「結界のほころびを可視化する術をかけた。この罅に向かって攻撃しろ!!」
罅は実際に入ったのではなく、入ったように見せかけた魔術だった。結界の構成式を読み取ったファーレンハイトが、突破役にも解り易いようにしたのだ。
そうしている間に、結界の解除術の構成を任された者達は今しがた送られてきた解析式を基にして術式を編み上げた。突破役もエンチャントがしっかり掛かっていることを確認すると、武器を構え、互いのタイミングを計るように頷き合った。
「じゃあ、先ず僕からね」
セレディアは鋭い犬歯を見せて笑うと、地面すれすれを滑るように移動し、城扉の上辺まで飛び上がった。扉の上まで入った罅を、何度も殴る。波紋が渡るのは先程と同じだったが、今度は先には無かった氷の破片が拳を打ち据える度に宙を舞った。
「今度は脚にもエンチャントしてくれましたよねえ?」
「解っているのなら聞くんじゃない。冗長な」
扉の天辺から落下する際、宙で一回転して繰り出されたサマーソルトと、続くクーロンの攻撃はほぼ同時だった。魔術の光を有した脚で雪上に着地すると、セレディアは転がるようにその場を退く。直後彼が居た場所に、青い炎の軌跡が疾った。罅に突き刺さったクーロンの大鎌は、クーロンが手を離すと同時に炎に戻り、罅に沿って広がり氷壁を灼いた。
クーロンが扉の前を飛び退くと、入れ替わるように百足と蜻蛉が前に出た。まだ青い火が消えきらない扉に、それぞれが一撃を見舞う。それなりに氷壁が削れたのを確認すると、二人はさっさと扉の前から離れた。
「ちょ、ずっこい。私兵さん達もちゃんとやってよ」
「団内方針なもので」
「ボクらこの後やることあるからー。今は蚕蛾ががんばり過ぎてるし。そっちこそ、全然全力出してないじゃん?」
「局内方針なものでな」
作ったような笑顔を向け合う百足とセレディア、ヘルメットの奥でにやついているらしい蜻蛉を、クーロンはサングラス越しでも解る氷の眼差しで言い捨てた。
「ご心配なくお二方。ここは僕達が引き受けます。双方の謀は、後ろでどうぞ」
言い合う情報局員と宰相私兵の横を抜けて、トリス=トリスが前に出る。身の丈よりも幾らか短いバスタードソードを両手で構え、真正面から振り下ろした。何度も何度も、軌道こそ違えど攻撃は一点に集中している。
可視化術の効果ではなく氷壁の実体にわずかに罅が入ると、トリスは汗と顔にかかった氷壁の破片を軽く拭い、剣の持ち方を変えた。剣を片手に持ち、扉に対して正中を隠すように斜めに立つ。本来なら両手で持つべき長剣を突剣形式で構えると、罅に向かって剣を突き出した。
「リブル!!」
一閃と同時に、トリス=トリスは使役する桜花精の名を呼んだ。空間断絶の力を宿した刃は深々と氷壁に突き刺さり、結界に決定的な隙を作る。与えた一撃は重かったが、それは技を繰り出すトリスにとっても支えるには重いものだった。
「後は頼みました、あおいさん、ルミナスさん」
「おっけーい、任せてっ!」
引き抜いた剣の重量によろめくように数歩下がったトリスの両脇を、エンチャントの輝きをまとった武器を手にした少女達が駆け抜けていく。
先に何度もそうしたように、あおいとルミナスはぴったりと息を合わせて結界に向かって武器を振り抜いた。棍と手鎌が、そこに付与された結界解除の術式が、トリスが穿った氷壁の隙に突き刺さる。これまでで最も大きな波紋が氷壁を渡り、扉を覆う氷が音を立てて崩れ去った。
「やったぁ!」
「まだだ。表面の氷が無くなっても、中に入れなければ意味がない」
ファーレンハイトは城扉に近づくと、静かに扉を引いた。開けたとたんに城内から漏れ出した冷気は携えた宝典で中和する。やはり、この結界を張った術者の目的は“これ”なのだろう。
加えられた力に従い、扉はゆっくりと開いた。最初に見えたのは氷漬けになった城の正面ホール、城扉と同じように凍りついた中央への扉。
そして、その前で驚きに目を丸くしてこちらを見ている見知った臣下達と、見知った冒険者達だった。
数瞬の間。彼らの並び方と場の空気から瞬時に状況を理解し、ファーレンハイトはとっさに浮かんだ言葉をそのまま口にした。
「………邪魔したか? アーダルヘイル」
更に数瞬の間の後。
「……陛下、一言目にそれですか…」
今にも崩れ落ちそうな声音で、アーダルヘイルは搾り出すようにそう呟いた。

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