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■ ヒューフロスト王城、今度こそ謁見の間

「ミッドガルド!!」
謁見の間に入るなり目に飛び込んできた人影に、ファーレンハイトは思わず叫んだ。直ぐにでも駆け寄りたい気持ちではあったが、人影の背後に歪む景色を認め、足を止める。ファーレンハイトの後ろに続いていた冒険者や騎士達も、“不可視の竜”の姿を見て立ち止まった。
「陛下………」
ミッドガルドは部屋に入ってきた人々を見、呆けたように呟く。ファーレンハイト達を認識してはいるが、関心が向いていないような響きだった。一瞬の行動の空白の後、ミッドガルドは“不可視の竜”に向き直る。
「グレイス―――――…っ!」
叫びが最後まで発せられることは無かった。“竜”の尾がミッドガルドの身体に巻きつき、その身を玉座の背後の壁に投げ飛ばした。壁との衝突で冠が石床に落ち、衝突音よりも派手な音を立てる。
「がっ…は……、グレイス、何を…」
『手荒な真似をしてごめんなさい、リィカマキナの子マリオ。私は、どうしても―――彼らの力が見たい。あなた達を守るに足るか、それを見極めたい』
「グレイス! もう決められたことなのです…我々が……ステラマリーが、ヒューフロストの未来を彼らに託した。我々が、彼らと共に在ることを選んだ。たとえあなた方であっても、その意思は変えられません!」
『…そうね。ヒューフロストは、あなた達は、彼らに運命を託したかもしれない。でも私たちは―――――私たちの役目を彼らに譲ったつもりはない。あなた達から授かったこの身は、あなた達を守るためにある。あなた達を守る義務がある!!』
“不可視の竜”の―――グレイスドラゴンの気迫が、衝撃波となって部屋を吹き抜ける。一段と部屋の温度が下がり―――それだけではなかった。いや、そうではなかった。
がしゃりと大きな音がして、ファーレンハイトが杖を取り落とし、バランスを崩す。その周囲には幾本もの氷柱が出現していた。
「これは…」
ファーレンハイトが氷柱に打たれた手を押さえ、呻く。しゃがみこんで低くなった視線が、足元の揺れと共に再び高くなっていった。謁見室の、天井の近くまで。
「カレル!?」
「殿下、近づいてはいけません!」
「うわぁぁああああっっ!?」
「ペイルっ!!」
上がった悲鳴に、ファーレンハイトは檻のようになった氷柱の隙間から下を見た。カレルベインとペイルグリーンがファーレンハイトと同じように氷柱に囲まれて、更にその氷柱の籠が天井付近まで引き上がってきた。
「グレイス、陛下になんてことを…!」
『あの子がステラマリーの子なのね。ステラに良く似ているわ、あなたにべったりなところも』
壁に打ち据えられたミッドガルドの周囲にも、氷柱が現れた。『あなた達に怪我はさせないから、少しだけ我慢していてちょうだい、リィカマキナの子マリオ』
ミッドガルドに向けていた顔を謁見の間の下座に向け、グレイスドラゴンは大きく身を震わせた。声帯を持たぬ彼女は、その全身を震わせて咆哮を上げる。瞬くこともなく、ただ青い水晶球であるはずの一つ目が、鋭く冒険者達を見据えていた。
『我が名はグレイスドラゴン―――――《氷城の守護者》。新たなる雪と冬を治めしものの子らよ、今一度その力を試させてもらうわ』
グレイスドラゴンの言葉に反応に、それぞれに武器を構える彼女の知らぬ『人』を見て、グレイスドラゴンは震えていた。戦いに臨む緊張と、再びまみえた冬の地と人への憧憬と、その人々が自らを離れていく寂寥と―――――旅立つ彼らへの喜びを感じながら。


もうすでに大怪我ですけど、とミッドガルドは言わないでおいた。全く予想外の攻撃に完全に受身を取り損ねてしまい、強く打った背中の骨と肺が痛む。
人間とグレイスドラゴンに衝突して欲しくはなかった。だが、この戦いは恐らく、本来ならばヒューフロストの建国以前に行われるべきだったのだろう。氷妖が自らの選択に彼らの介入を許さなかったように、氷妖にもまた彼女らの意思を否定することはできない。出来ることがあるとするならば、
「百足、氷刃騎士、それに冒険者達、よくお聞きなさい! グレイスドラゴンは元々精神生命体、その身体は水を媒体に精神の輪郭を模っているに過ぎません。核である水晶に傷をつけられずとも、いかな息吹を吹こうとも『彼女の身体は端の端まで全て精神体』なのです!」
『あら、冷たいのねリィカマキナの子マリオ。私達の弱点をばらすなんて』
「我々は、是非とも彼らに勝っていただきたいものですから」
ミッドガルドは笑ったが、もはや天井付近まで引き上げられた氷の檻の中ではグレイスドラゴンには見えなかっただろう。身体を打ち付けられた衝撃で上体を立て直す気力もないミッドガルドにもグレイスドラゴンの姿は見えなかったが、彼女がその機能を最大限に拡張し翼を広げているであろうことは想像がついた。
これで、あなたにも義理立てしてるんですよ? とミッドガルドは声に出さずに呟いた。その翼の弱点も、言ってしまっても良かったのだが……言ったところで、すでにこの場に来てしまっている彼らではその弱点を突くことはできないのだから無意味だろうが。
さて、雪の女神はどちらに微笑むのか―――ヒューフロストではお決まりの勝負前口上を思い浮かべ、ミッドガルドは自嘲の笑みをこぼした。
そうだ、この戦いに《雪の女神/ヒューフロスト》は関われない。


ファーレンハイトが囚われ冷気の中和術が途絶えたことにより、謁見の間の温度は急速に下がり始めていた。
「精神体がどーのこーの言ったって、所詮戦いは火力よ。どんな寒さも、この『氷の魔女』には敵わないってこと教えてあげるわ!!」
戦いを長引かせることは得策ではないと踏んだアンジェが、杖を構え前へ出る。下手に小細工をかますよりも、最初にありったけの力でもって相手をねじ伏せる。短期決着を目指すならばあながち悪くもない策ではあった。この部屋は大規模魔術を避けきれるほど広くもないし、アンジェの使う魔術ほど強力なものならば、耐え切れるものもそうは居ない。
自分以上に強い冷気の渦をぶつけられ、グレイスドラゴンはひるむように身をくねらせた。力の性質が同じ冷気である以上、威力が強いほうが勝つのは道理である。だが。
力で押し負けながらも、グレイスドラゴンは首を低くもたげた。高く突き出された背中から、4対の白く視認できるもやのような翼が生じる。濃縮された冷気が、この低温下にあってわずかに残る空気中の水分を水滴化させているのだ。
『あなたの魔術、すごい威力ね。ヒューフロストでも私達よりも強い冷気を扱える者は少なかったのに。でも、』
翼を広げたグレイスドラゴンの咆哮、そして、不可視の身を細長く、槍のほうに伸ばしグレイスドラゴンはアンジェに突進してきた。アンジェの放つ氷の魔術の只中を抜け―――――体形を構成するという媒体の水を魔術の冷気で鋭く凍りつかせ、アンジェに体当たりをした。
『あなたの魔術は確かに大したもの。でも、それは《強さ》ではない。どれほど大きな氷を降らせても、凶悪な吹雪を呼んでも、《強さ》無きあなたに私達は決して負けない!』
「なん、ですってぇ…!!?」
アンジェはグレイスドラゴンの体当たりを杖の腹で受け止め、どうにか横に流す。それでも凍った尻尾がかすめ、わき腹をえぐられ吹っ飛ばされた。すぐにリフィルが駆け寄り、傷に治癒に取り掛かる。あおいとルミナスも、治療に専念する二人を守るように近づいて、グレイスドラゴンを警戒していた。すぐにでも立ち上がって反撃するかと思ったアンジェはグレイスドラゴンを睨みつけるように見つめていた。攻撃が当たったこと以上に、グレイスドラゴンの言葉に動揺しているようだった。
「がんばって、ケルベロスー!!」
「行け、ミルド!」
「おうよ!!」
「お行きなさい、ホワイトハウンド!!」
「―――トールハンマー!」
フィーナが呼び出した犬の召還獣が炎を吐き、シオンに火属性のエンチャントを施されたミルドが斬りかかり、ペルシスの使役する白犬が大きく口を開け、ゲンジュが電撃を帯びた槍を振り上げる。それらのことごとくがグレイスドラゴンの翼で防がれた。が、防いだ翼の隙間を縫って、キサラと百足がドラゴンを間合いに捉え、攻撃を仕掛けていた。
透明な身体に深々と刺さった刃に、グレイスドラゴンは数瞬動きを止め、そして2人を翼の一撃にて突き放す。2人は一旦下がっていたミルド達のところまで押し戻された。
「こんな攻撃で、本当に効いているのだろうか?」
血がついていないことは判っていても、癖で血払いをして、キサラが尋ねる。彼女の刀に赤く輝くエンチャントを施したジルはグレイスドラゴンを伺うように眺めて応える。
「外見や手ごたえでは判り難いが、効いているだろうよ。精神体というのはそういうものだ。生きた肉体があれば、胴や頭をやられれば即死することもあるし、逆に皮膚に刃がかすったくらいでは動作は止まらない。だが精神体の操る実体にはそんな区分は無い。“どこを切っても等しく精神体”なのだよ。ダメージの強弱が無い代わりに、彼らには身体に受けるダメージにむらが無い。部位や威力がどうあれ、当たればダメージを与えることができるだろうね」
「問題は、だ。そんな地道な作業をどれだけ続けられるかだな」
皮肉めいて、シオンが笑った。オルセーの弦に添えられた手が、赤みを通り越し血の気を失い始めている。楽器を弾かねばならぬシオンは特に手袋がつけられず手が限界になり始めていたが、ほかの者も身体の状態は似たようなものだった。どんなに着込んでいても寒さは身に染み入るし、激しく動けば凍るような空気でも吸わねばならない。
何より厄介なのが竜の背にある翼だった。狙い済ましたかのように正確に、近接する攻撃も遠距離からの魔術も防いでくる。今はこちらの攻め手が翼の数よりも多いから攻撃が通っているようなものだった。
あおいとルミナスも加わり、誰かが攻撃して翼をひきつけてはその間を縫ってほかの誰かが攻撃する、という波状攻撃を続けている。
その様子を見、ゲンジュはふとひらめいた。吹っ飛ばされて後方へ戻ってきた冒険者達に話しかける。
「次の攻撃、お前達全員で一斉にあの竜にかかって欲しい。翼は、俺がどうにかする」
「ふむ、確かに小さな攻撃で削っていては攻撃と攻撃の間にわずかに回復されるから、やるには高威力を一撃、というほうが良いのはわかるがね、」
「アンタ一人で4枚もの翼をどうにかできるの?」
ゲンジュは冒険者達に向けていた視線をわずかにグレイスドラゴンに向け、戻す。
「ああ。たぶん、…恐らく。出来なかったらすまん」
「…あんたらの国の騎士はみんなこんなんなのか?」
「アタシに聞かれましてもねえ」
不安げに尋ねてくるシオンに、百足は苦笑いで返した。
ゲンジュの提案通り、次の攻撃はいっせいに仕掛けた。まだ傷の癒えきらないアンジェとそれについているリフィルを除き、ゲンジュも走り出した。このまま突撃しても、翼の一振りで全員跳ね除けられてしまうだろうが。
向かっていく人々の中で、ゲンジュがわずかに足を緩めた。懐から瓶を取り出し、《重き槍》の一撃でその瓶を割った。中に入っていた赤味の液体が宙を舞う。イセイルがペイルグリーンに手渡した高濃度の液体燃料である。
頭上で「ちょ、いつの間にそれを!?」と慌てふためくペイルグリーンの声を綺麗に無視して、ゲンジュはマッチに火を点けた。マッチの火は空中に広がる液体燃料に引火し、大きな炎がゲンジュの視界に広がった。
「構うな、行けっ!!」
突如沸き起こった炎に冒険者達はこちらを向きかける。が、ゲンジュがそれを一喝した。
―――あの翼を作る冷気がこの城に充満するものと同じ性質であるならば。
迫りくる冒険者達の攻撃を防ごうと揺らめいていたグレイスドラゴンの翼が、炎に気づいて一瞬、動きを止める。直後、4枚の羽がいっせいにゲンジュの元へ向かった。正確には、ゲンジュが起こした炎に、だ。
―――翼が、狙い済ましたように攻撃を防いでくるのも納得がいく。あの翼は攻撃自体に反応しているのではなく、攻撃者の体温に反応して動いていたのだ。炎の魔術ならば言わずもがな。
より高い温度に反応するものであるならば。
体温よりも高い温度を作り出せばいい。
イセイルが言っていたのはこのことだったのか、と迫りくる4枚の翼を見てゲンジュは納得した。が、ほぼ自身に向かってきていると言って差し支えない翼を、どう凌ぎきるかまでは考えていなかった。よけるられるほどの猶予は無い。
ダメージ覚悟で翼を受け止めるためにゲンジュは槍を構えた。その周囲に、グレイスドラゴンの翼よりも強い冷気の風が巻き起こる。ちょうどゲンジュを覆うように。
驚きに目を丸くするゲンジュに向けて杖を掲げていたのはアンジェだった。傷は完治しているが、まだ違和感があるのか片手はわき腹に添えられている。
「後先考えないで行動してんじゃないわよ、バカ」
「…助勢、感謝する」
アンジェに短く礼を言うと、ゲンジュは竜の方へ向き直った。見ると、翼の妨害を全て振り切った冒険者達の攻撃はグレイスドラゴンに届いていた。
小さく削られるのとは決定的に違う、致命傷となる一撃を受け、グレイスドラゴンは今までとは違う悲鳴を上げ身をよじり―――――その透き通る姿が四散した。風船が破裂するような衝撃が謁見の間を駆け巡り、窓や壁に張り付いていた氷に亀裂が入る。ファーレンハイト達が閉じ込められていた氷の檻も音を立てて砕け散った。ファーレンハイトとペイルグリーンは自力で着地し、カレルベインはペルシスに抱き止められる。ミッドガルドは、
『私の負けね。認めざるを得ないわ』
「平和的に終わって何よりですよ」
四散したグレイスドラゴンの身が集まり、氷の檻から零れ落ちたミッドガルドの身体を支えた。
再び現れた竜の姿に皆が身構えるなか、グレイスドラゴンは落ちたミッドガルドの冠を嘴で拾い、ミッドガルドの頭に乗せる。そして、冒険者達のほうへ向き直った。
『よくぞ我が力を打ち破ってくれました、新たなる雪と冬を治めしものの子たち。これで私達も安心してヒューフロストを任せることが出来る。我が兄弟を、どうかよろしくお願いします』
ぺこり、と竜は頭を下げた。と、周囲の風景をゆがめる不可視の姿が揺らめいた。密度が薄くなった、と言うべきか。
『久しぶりに目覚めて、はしゃぎすぎてしまったみたいね。本当ならもっと話したいこともたくさんあるのだけれど、疲れてしまったわ。久しぶりにあなた達に会えて…元気な姿が見られて、本当によかった』
グレイスドラゴンは、氷の檻に捕らえていた者達を―――かつて彼女と共に在ったもの達を、その子孫達を順に見た。人間に心配され、寄り添いあう者、共に戦う者、そしてかつて交流のあったステラマリーとリィカマキナ、ヒューフロストの最後の王族の面影が見える二人を目に焼き付けて。
『また必要になったならばいつでも呼んでちょうだい。私達はそのためにある―――――姿は無くとも、心が共にあることは変わらない。我が最愛のあなた達よ』
どんどん薄くなるグレイスドラゴンの姿がかき消え、声だけが玉座の間に響く。気配が完全に消え去ると、部屋の冷気がわずかに和らいだ。グレイスドラゴンの出した冷気は徐々に消えていくのだろう。
「ミッドガルド!!」
ここにきて真っ先に出来なかったことをやり直すように、ファーレンハイトはミッドガルドに駆け寄り、その存在を確かめるように飛び付いた。壁に打ち付けられたダメージが残るミッドガルドがよろけると、ファーレンハイトはあわててその身体を支えた。
「そういえば、なぜ陛下がここに?」
本来ならばもっと厳しい咎めの色を含んでしかるべき言葉にも、勢いが無い。だがたとえ勢いがあったとしても、応えたファーレンハイトの言葉に勢いはそがれただろう。
「なぜって、ここが俺の城だからだ。俺自らが取り戻すことに、何の不思議がある?」
「……そう、でしたね。ここはあなたの国ですよ、ファーレンハイト17世陛下」
安堵したように、ミッドガルドは心からの言葉を述べた。ヒューフロストと、そして彼女達―――グレイスドラゴンが認めた、心からの言葉だった。





■ ヒューフロス王城北棟直前

グレイスドラゴンが倒される少し前。人気の無い北棟へと向かう廊下を歩く男がいた。
氷刃騎士団医療騎士、イセイルである。
倉庫や書庫が主である北棟には元々居る人が少ないから、という理由で救助活動が後回しになっている場所へ、イセイルは向かっている。
と、その足元に高く響き渡る音と共に、氷のかけらが転がってきた。
イセイルは不思議そうにかけらが落ちてきた階段を見る。氷柱が折れでもしたのだろうか。
首をかしげながら、イセイルは氷のかけらを蹴って北棟へと入っていった。


「―――――警告はしたぞ、氷刃騎士」
もう見えないイセイルの背中に語りかけるように呟く。折り返すように大きく回りこんだ階段の踊り場のすみに、ぱっと青白い光が灯った。
青白い炎の双眸を瞬かせ、情報局員のクーロンはイセイルの消えた北棟の廊下を見つめる。
戦闘接触の許可さえ出ていれば、クーロンとてイセイルをそのままにはしなかったが。
今の彼は情報局長に『影たること』を命じられている。
影は人に寄り添うが、支えることは決してない。
クーロンは北棟に踵を返した。舞台設定は見届けた。結果は後から来る騎士たちが調べ明かすだろう。
騎士団が見つけるのは、今しがた向かっていったイセイルか、その前に北棟に入っていった件の『襲撃者』だろうか。あるいはどちらも見つかるか・どちらも見つからないのか。
クーロンは振り返ることもなく、次なる寄り添うものを探し歩き出した。


氷柱の無い北棟を歩き回るイセイルが、ふと足を止める。
「居るのは解ってる。出てきてよ」
応えるように背後で靴音が聞こえ、振り返ったイセイルは薄笑いの口角を更に吊り上げた。
はしばみ色のローブ姿、七節が言っていた襲撃者の特徴と一致する。ついでにそのローブの襟首から氷刃騎士の団服の襟も見えた。あれで紛れて侵入・撤退するのだろう。
「さて、まずは自己紹介してもらおっか。あ、僕はイセイル。見ての通り氷刃騎士だよ」
「…お前たちが察しの通りの者だ。お前たちは氷妖至上主義と呼んでいるな」
「そっちじゃなくて。なんで城に居たのかなーって思ってね。大変だったでしょう? 潜伏した当日にこんな騒動鉢合わせちゃって逃げるに逃げらんないもんね」
「貴様、この城の惨状が我々の仕業ではないとでも言うのか?」
「もちろん。氷柱の封印結界を回避した腕は確かにすごいけどさ、“君達にこんなことが出来るはずがない”」
変わらぬ笑顔で断言するイセイルに、襲撃者はわずかに身構えた。
城が丸ごと凍りつくような事態に現れた侵入者、普通に考えれば両者を結び付けるのは無理もない流れだ。だがイセイルは彼が城を凍らせた犯人ではないと言う。
氷刃騎士団が北棟の探索活動を後回しにしているのはそれも理由の一つだった。人気の少ない北棟であれば、襲撃者が潜伏している可能性は高い。だが襲撃者が城を凍らせた犯人及び一味であるならば、術の発生源と思しき中央棟に術解除が可能であるであろうファーレンハイトが向かった時点で彼らの目論見の大半は破られることになる。ファーレンハイトの望みが人々の救出だったこともあり、襲撃者の確保よりも人命救出が優先されたのだ。
おかげでイセイルはこうして独りで襲撃者と相対することが出来た。
「聞かれて、素直に答えるとでも?」
「だよね。ちょっと聞いてみただけだから」
じゃあ、とイセイルは襲撃者に背を向け手を振った。予想外の行動に、襲撃者は警戒を続ける。
「僕の上司が探りたいことはそれだけだからさ、答えてくれないなら仕方ないよね。僕個人としては君には感謝したりない借りがあるから、このまま撤退するだけなら見逃すよ。どーせアイツは僕に監視を付ける余裕もないだろうし」
立ち去ろうと歩き出すイセイル、その背中にどん、と衝撃が走った。倒れるほどではない。ただ軽くバランスを崩しかけ、体勢を立て直そうとして、身体の向きをうまく変えられないことに気が付いた。
どころか、立っていることすらままならないようだ。意思とは裏腹に力の抜けた膝が曲がり、イセイルの視界が前に傾く。何が起こったのか、疑問を抱くと同時に理由に思い当たる。まるで他人事のように“経験を照らし合わせて”状況に判断を下す。
(ああ、僕、死んだな)
地面にぶつかるよりも先に、イセイルの視界は暗転した。


「姿を見られて、生かしておくとでも思ったか」
襲撃者は、イセイルの傍らに短剣を投げ捨てた。心臓を一突きにされたイセイルは白い外套の背中に赤い染みが一点あること以外変わった様子はない。
バカな騎士を見下ろし一つ嘆息すると、襲撃者は踵を返す。こいつを追って他の騎士が来る恐れもある。念のため反対の棟から出られるように迂回して、他の騎士に紛れて外に出ることにしよう。

「―――――あー? それってつまり、ここになんか用があったってことぉ?」

背後から聞こえたわざとらしく呑気な声に、襲撃者は文字通り止まった。歩む足だけではない。身体も呼吸も瞬きも、思考さえも一瞬動きを止める。ありえない、と思いつつも、今しがた聞いた声を声を違えるはずもない。
襲撃者が振り返ると、平常な夢に居座る悪夢のように当然に、イセイルは床に座り込み短剣を弄んでいた。
「この銘はグレフ商会製の短剣? あっこは騎士団用に卸してる両刃剣と同じ型のは一般流通してないけど、それ以外の型は普通に出回ってるから、ヒューフロストならどこでも買えるしなあ」
今しがた自身を貫いた剣を吟味し、イセイルは独り言を言う。こちらを向いて起き上がっているため刺した背後は見えないが、その様子に致命傷を負っている気配は全くない。
「なんで生きてるのか不思議かい? 判断の速さもこの重装の相手に対して一撃で心臓持ってく腕も申し分ないけど、相手が悪かったね。安心したまえ、君の殺人技術は上等だよ。"僕が、殺しても倒せない"というだけの話だ」
「ハッタリを」
立ち上がろうと片膝をついたイセイルに、襲撃者は新たな短剣を取り出し飛びかかった。再び胸をめがけて伸びた刃を、イセイルは後ろに跳んでかわす。
(加速魔術か!?)
イセイルの直前の体勢からのありえない速度の動きに不意を突かれた襲撃者は、突き出した腕を掴まれ投げ伏せられた。床に叩きつけられた衝撃で、二本目の短剣をも取り落とす。床に縫い付けられるように首を掴まれ押さえつけられた襲撃者は、予想外のイセイルの動きや投げられた衝撃以外の事実に驚愕していた。
問いを紡ぐ口がカチカチと震える。驚きと、"単純な冷たさ"に。
そう、首を押さえるイセイルの手が"冷たい"のだ。
「貴様…いや、あなたはまさか…」
「なんで君らは氷妖にそんなに夢見てるんだろうね? 僕たちなんて、一人で生きていくことも出来ない弱い生き物なのにさ」
悲しげな微笑みと、冷たく光る短剣の刃が並列する。それが襲撃者が見た最後の光景だった。


「うっわー、《白蟻》さんおっかなーいvv」
自らがされたのと同じように、襲撃者の心臓を貫いたイセイルに明るく間延びした声が掛けられる。
イセイルが声のする方を見ると、石壁にわずかな波紋が渡ったのち、その中心から小柄な影が這い出てきた。黒い潜水服のような全身を覆うスーツに身を包んだ、《蜻蛉》である。彼に続いて《蟷螂》も廊下の壁から出てきた。
「先に警告はしておいたんだけどね、このまま引き下がれば見逃すと。逃げないのなら仕方ない。君たちが壁から出てきたってことは、結界は完全になくなったようだね」
「そうそう、壁が抜けられるようになったらすぐに侵入者を仕留めろって言われてたんだけど、白蟻さんがもう終わらせてるんだもん。ボクら出る幕ないなー」
「仕事が欲しいならそれを氷刃騎士団の本部に持って行ってくれないかな。死体安置所のとこ。僕が適当に診断書書いて殉職者として処理しておくよ」
「"犯人"を残しておかなくて良いのですか?」
「"軍事訓練"に犯人は要らないだろ?」
にやりと不穏に笑って見せるイセイルは、足元の襲撃者に止めを刺した悲しい顔の男と同一人物とはとても思えない。
「犯人自体が居なくても、氷刃騎士団長とかの目撃証言もあるし氷妖至上主義絡みだとは判断がつく。それで今回は十分だろう。あまり詳細に調べられて、氷妖の遺産が危険だと判断されてしまうのは困るからね」
立ち上がったイセイルは襲撃者の死体から離れ、蜻蛉と蟷螂が入れ替わりに近づく。血の染みの残る白いローブの背を向けて、イセイルは二人に手を振った。
「それじゃあ、また後でね。二人とも」
「はーい。白蟻さんも早く服着替えたほうがいいですよ?」
背後で生じた揺らぎと、二人分の気配が消えたことを確認して、イセイルはその場を後にした。

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