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■ ヒューフロスト王城、いまだ城内各所

東棟1階を端から順に見て周り、アーダルヘイル達は中央棟へ続く廊下のある階段室にたどり着いた。見て回るからには他の階にも立ち寄るべきなのだろうが、今最優先で探している国王ファーレンハイトの居る可能性が高いのは、国王や宰相の執務室のある中央棟だ。寄り道をしている暇はない。
「ペイル」
「…はいっ! どうしましたゲン?」
「驚かせたならばすまん。ここは中庭のモノリスが近かったろう。通信出来るか試してみたらどうだ?」
目の前の階段とその先に居るかもしれない生存者へ、申し訳ないような視線を向けているペイルグリーンにゲンジュは提案した。もしかしたらこの階段から降りてくるかもしれない者を待つ時間を、せめて通信を試みる時間分だけでも与えて欲しいと言外に頼んでいるのだ。
頼まれたアーダルヘイルはため息と共に了承した。というか、階段のほうを向いてそわそわしているペイルグリーンと、寂しげな飼い犬のような目でじっと見つめてくるゲンジュを突っぱねられるような鋼の精神は持ち合わせていない。
では、と構えた左手首に右手を添えてペイルグリーンは精神集中を始めた。モノリスを介した通信は右手の腕輪にはめ込まれた石と定型呪文にて行われるため、構えの形は必要としない。手を添えるのは彼の癖だった。
通信魔術に手の構えを必要としないのは、彼ら騎士を思っての故だ。通信中にも剣が持てるように、あるいは剣で両の手がふさがっていても意思だけは伝えられるように。
もしくは、通信中に奇襲にあってもすぐに対応出来るように。だからペイルグリーンの癖は、騎士としては早くに直すべき悪癖と言える。
突如階上から落ちてきた者は、一直線にペイルグリーンへ向かってきた。3人の中では最も非力そうで、術に精神集中を割いていたのだから当然だ。ペイルグリーンも、当然に襲撃者に対応するのが遅れた。はしばみ色の布の塊から生えた金属の牙が持つ意味を、理解し防ぐのが遅れてしまった。
逆手に振り下ろされる短剣を、受け止めたのはゲンジュだった。短剣自体ではなく、振り下ろされる腕の軌道に自身の腕を突き出すように差し入れ、止める。その行動は仲間を助けるにしてはいささか妙な動作だったが、直後に唱えられた呪文によって別の意味を成した。魔術発動の硬直が解けたペイルグリーンはすぐさま意図を察し場を飛び退く。
「来い、《重き槍》」
言葉と共にゲンジュが掌を握り閉めると、手には槍が携えられていた。名の通り重そうな、シャフト以外は全て方立体で構成されている武骨な槍だ。刃すらも確かな厚みを持つそれを、果たして槍と呼んでいいものか。鎚頭が縦に長い戦闘鎚にも見える。
ゲンジュは呼び寄せた槍を軽々と、舞うように振り回す。間合いを取らす意味を含んだその動きに、流されるように襲撃者は後退した。
「ペイル、通信は失敗したか?」
「い、いえ…。術式は発動しましたが、繋がりませんでした」
「そうか」
短い受け答えの中で、ペイルグリーンは腰に下げていたレイピアを抜いた。アーダルヘイルも薄い紫色の魔術書を開いている。
数の不利を察してか、襲撃者はそのまま南棟のほうへ走り去っていった。
「団長、追いますか?」
「いや、いい」
短く答え、アーダルヘイルは魔術書を閉じた。閉じただけで、手には持ったままにして。
ゲンジュも召喚した槍を戻すことはせず、ペイルグリーンは剣を収めはしたものの、顔にはいつでも抜剣出来る緊張感があった。
「今のは一体…犯人でしょうか」
「違うな」
ペイルグリーンが口にした、誰しもが思うであろう疑問をゲンジュは即座に否定する。
「一味かも知れないが、少なくとも城を凍らせた張本人ではないだろう。魔術師なら、団長かペイルが気付くはずだ」
「確かにそうですね」
「これだけの精度の術を、この範囲で行使するのは一人では難しい。たとえ一人で出来たとしても術にかかりきりになってしまう。犯人が複数人であると考えるのは妥当だ」
「あるいは、今のは犯人とは全く無関係かも知れません。…やはり追ったほうが良かったかも」
「今は陛下のご無事を確認することが先だ。無関係ならば、ますます追う意味が無い」
彼らは一刻も早く国王を見つけ出し、この城を解放しなければならない。それならば犯人一味であろうとも、術者でなければ追いかける価値は無いだろう。無関係ならなおのこと。
中央棟へ歩き出そうとすると、再び階上から人が来る気配がした。
今度は二人。それも、足音を隠す気が無いらしい。カツカツと、ぺたぺたと徐々に音は近づき、階段を下りてきた。
ゲンジュが静かに槍を階段に向かって構えた。踊り場から折り返し、来る者の姿が現れるのを待つ。
「………アーダルヘイル殿?」
「―――お義父様」
騎士達がその姿を確認する前に、二つの人影が同時に声を上げた。
「…ペルシス殿下に、カレルベイン、か? お前達、よくぞ無事だった…! あ、無事で何よりです、殿下」
「気になさらないでください、アーダルヘイル殿。私もあまりかしこまられても困ります」
幼い頃の癖でくだけた口調を訂正したアーダルヘイルに、ペルシスは困ったように笑う。
ペルシスはアーダルヘイルに、これまで遭ったことを話した。“不可視の竜”のことや、凍ってしまった祭務官のこと、そして七節が言ったことも。
「ミッドガルドの私兵も動いているのか…こちらで見ないと云うことは、何かを掴んでいるのかもな」
「もしくは七節の言うように、凍ってしまった者も居るのかもしれません。ミッドガルド様の私兵と言えど、万能ではない。魔術の攻撃なら防げぬ者も居ます」
「もとよりあれは居ないに同じ。こちらに現れることは無いだろう。問題は現れても見えぬ竜だな。どうにか居場所が知れることと、普通の生物と同じように移動に音が伴うのが救いか」
それすらも、もしかしたら消せるものなのかも知れないが。
アーダルヘイルがこの氷の術が国王陛下にならば解けるかもしれないと読んだ通り、ペルシスもまたこの魔力が国王のものによく似ていると分析した。やはり国王を探すべきであると。
人数が増えても変わることなく、彼らは中央棟に向かうことにした。



イセイルに案内されたのは、内政局内にある会議室だった。
道すがら「普段はあんまり使われてないんだよねえ」と言っていた彼の言葉の通り、会議室は広くはあるが窓の無い、頻繁に利用したくはない妙な造りの部屋だった。備え付けの燭台が無いところを見ると、元は倉庫だったのかもしれない。部屋の中央には大きな机が並べられており、その上には木製や銀製の日用品、白い石のレリーフの欠片が乱雑に並んでいる。床には風で吹き飛んだらしい図面や地図が何枚も落ちていた。
机に並べられた物の一つをイセイルは指差す。
「これだよ。犯人の忘れ物」
「なんだこりゃ?」
「オルゴールだよ」
「オルゴール……」
示された物を覗き込む一同は、どこか腰が引けていた。城を凍らせた犯人(と思われる)者が残した物なのだから、当然と言えば当然だが。
アンジェは一同の様子を遠巻きに見て呆れたように嘆息する。すたすたと近づいていって、ためらいもなくオルゴールを手に取った。
「あっ!」
「あ、じゃない。呪物には違いないでしょうけど、ただのオルゴールよこれ」
面取りされた蓋を開け、中を確かめる。蓋の裏は透き通った石と金の透かし細工で飾られており、シンプルだが趣があった。本体側には蓋の内側の飾りに触れない程度にしか容積がないところを見ると、装飾品を入れる類の箱でないことは判る。音を出す装置が隠されているであろう箱の上面には、細やかな流線を描く模様と、小さな文字が刻み込まれていた。
「『か弱くも愛しきわが兄弟よ、わが音が永久にあなた達を守りますように』。和平の記念品かしら?」
「形見の文句にも聞こえるな。シオン、詞に聞き覚えはあるか?」
「ない。オルゴールなら入ってる曲の詞なんじゃないか? 鳴らないのか、それ」
「ハンドルっぽいものは無いわよ」
アンジェが箱をさかさまにしたりして観察するが、音を出すきっかけになりそうなものは無かった。
「おかしいな。僕が見たときは蓋を開けたら音が鳴る仕組みだったはずだ」
「じゃあ蓋の立て付けが悪くなったのか?」
アンジェから手渡されて、ミルドもオルゴールを確認する。イセイルに言われたとおり、なるほど、蓋と箱が合わさる面に仕掛けと思わしき小さな切れ込みがあった。何度か蓋を開け閉めしても手ごたえが変わらなかったので、隣のシオンに回す。
「蓋を開けたらオルゴールの曲が始まって、鳴り終わったら犯人が現れたんだけど」
蓋を開閉する手が止まった。
「あんたな、そういうことは先に言ってくれ」
「え? ああ、ごめんね?」
「謝りついでに先に聞いておく。今の話だと犯人を見たみたいだが、どんなのだった?」
呆れながら尋ねるシオンに、イセイルは「あー…」と笑顔を引きつらせた。
「見た、と言えるかは分からないけど、見るには見たよ。いや、見えなかったんだけどね。居るのは判った」
「どういうことですか?」
フィーナが小首をかしげる。
「なんて言ったらいいか…。透明だったんだ」
「透明?」
聞き返す声が重なる。眉をひそめるシオンとミルドは、言われた犯人の想像がつかなかった。透明なのだから姿の想像は出来ないだろうが。
「なんだかごめん。今のは忘れてくれたまえ」
「むしろ詳しく話しなさいよ。透明なのに居るのは判った、見えたという矛盾は何?」
「“それ”の居る場所は景色が歪んでいたんだ。こう、サイロから出したて牧草山くらいの大きさで、にゅーっと首が長くて、頭に透き通った青い目があって」
「透き通った目か…」
反芻しながら、ふとミルドが机に視線を落とすと、並べられた日用品の中に透明な石か硝子で出来たような色とりどりの球体が幾つかあることに気付いた。それらがイセイルの目撃証言の喩えに使えるような気がして、自然と青い色のものを目で探す。
その様子に気付いたのか、フィーナの一緒になって探し始めた。
「青い目って、こんなのですか?」
「そうそう、こんな感じ」
フィーナが指で示し、それを見たイセイルが同調した。
宙に向かって指されたそれは。
入り口から伸びてもたげた首の形に歪ませた背景の只中に浮いていた。
「―――――っっ!!」
声にならない驚きの叫びをあげながら、それでも剣を構えられたのは経験の賜物だろう。だが、出来たのは構えるまでだった。敵の最も近くに居たミルドには、叫びに驚き、だがすぐさま冷気の風を吐き出そうとする“不可視の竜”が見えた。
(まずいっ!)
耐えられるとは思えないが、来る冷気に備え身構える。そのミルドの視界の横から、白い腕が伸びた。城が凍ってからよく視界に入るその手には、先刻までしていた厚手の手袋が無く、代わりに光り輝く紋様が描かれた呪符があった。呪符を持つ手も符と同じ輝く紋様がある。
イセイルはミルドの肩を掴んで引き寄せ、入れ替わるように前に出た。突き出した腕の先に淡く輝く光の壁が現れ、冷気の風を割る。
「これ、瞬間防衛なんで長くは保ちませんよ」
「上出来っ!」
言うが早いか光の壁は点滅を始めた。弱弱しくはないそれは、燃え尽きる前の蝋燭の火のようである。本人の言う通り、長時間の防御壁ではないようだ。
それでも、アンジェが魔術を編むには十分な時間だった。
「貴方の冷気、お返しするわ!!」
アンジェが大きく袈裟懸けに杖を振ると、光の壁に分断された二筋の風が翻った。風に含まれる魔力にそのまま自らの術を上乗せし、打ち返したのだ。氷の飛礫が混じった風が“不可視の竜”に殺到し、竜が悲鳴を上げる。
「ミルド!」
「おう!」
シオンの呼びかけにミルドが応える。響くオルセーの音色は、ミルドの剣に火の加護を与えていた。本物の火では周囲に満ちる冷気に消されるが、魔力の加護までは打ち消せない。のけぞった竜に立ち向かおうとしたしたその時。
“不可視の竜”は滑るように部屋を出て行った。
現れたときと同じように、あまりに唐突な退場。一同は竜が現れたときよりも長く、思考が停止した。
「待てこのやろーっ!」
真っ先に硬直が解けたミルドが、怒号と共に竜の後を追った。その声はテロリストに対する怒りのそれというよりも、格好つけた戦闘の流れをぶった切られたことに対する羞恥の色があるように聞こえた。
「こらミルド! 迂闊に追うな!」
「多分大丈夫だと思うよ。あれ、話しが通じる相手ならばね」
「はあっ?」
勢いで追いかけたシオンが、思いとどまり呼びかける。それに意味不明な言を言い残して、イセイルはそのままミルドを追っていった。アンジェとフィーナも後に続く。
「早くしないと見失うわよ?」
「結局そのオルゴールは何なんでしょう?」
「…もう、知らん」
半ば諦めかけたようなため息で返事をし、シオンも止めた足を再び動かした。



中央棟の正面ホールに辿り着いたとき、ここを目標にしたことが正しかったと確信した。目の前にあるのはホールと玉座に至る通路を隔てる扉。背後には城門へと続く出入口の扉。そのどちらもが閉ざされ、氷壁で覆われている。これまで通ってきた道にある扉は全て開かれていたのだから、この2枚の扉は例外ということだ。閉ざされた扉が示すもの、それは魔術の象徴も錬金術の隠語も知らぬ者でも解る『拒絶』の意だった。
「外への扉が閉ざされるのは窓の延長に過ぎないだろうがな。こちらの扉は内側のはずだ」
「二段構えの篭城なのでしょう。七節が言っていた内部でも連絡が取れないとは、このことだったんですね」
アーダルヘイルとペルシスが念のために氷壁を確かめたが、他の窓に施されたものと同じく容易に破れるものではなかった。外部への道が閉ざされることは予想できても、内部の一区画が閉鎖されているのは予想外だ。
「団長、どうにかこの結界を破ることは出来ませんか?」
「出来ないことはないだろうが、それは可能性がゼロではないという意味にしかならん。ペルシス殿下がいらっしゃるのは心強いが、それでも魔術師が3人。しかも2人は本職ではない。なによりも“我々はこの術の使い方を知らない”」
ガンガンと槍を扉に叩きつけながら尋ねてくるゲンジュに、アーダルヘイルは嘆息するように呻いた。もちろん槍は扉はおろか表面を覆う氷面にすら傷をつけることは出来ていない。
「今の私たちがこの氷壁を破るのは、公式を持たぬまま数式を解くことに等しいのです。この問題専用の公式が無くても、他の公式から応用して解くことは出来るかも知れません。でもそれには多くの時間が必要になる。魔術である、ということは共通語で書かれている程度の意味でしかないのです」
だからこそ同質の魔力を行使する国王ならば解くことが出来ると思ったのだが、今はその国王にたどり着くことすら危うくなっている。
「でも他に手はないんですよね。物理も魔術も火力足らんのでしょう」
「多分な。試しにお前の雷を撃ってみろ」
「了解。ペイル、防御を頼む」
「はいはい。ペルシス殿下、ワイスシュタイン猊下はちょっと下がっていてください」
ペイルグリーンに言われて下がるペルシス達を横目に見ながら、ゲンジュは中央へ向かう扉に対するように立った。腰のベルトに吊った魔力の蓄積筒を一つ、手に取る。
扉に攻撃を加えようとしたとき、わずかに空気の流れが変わった。この騒ぎの発端となったあの風と同じものが足元を這っていった。再び吹き始めた魔力の風に、皆がいっせいに身構える。
「またですか!?」
「“変えるな”、ペイル!」
編みかけた結界を冷風への防御へ転換させようとしたペイルグリーンに、ゲンジュは叫んだ。それと同時に踵を返し、風上である内政局棟へ通じる廊下に向かって行く。ペイルグリーンは言われた通りに、アーダルヘイルも魔術書を開き術を編み始めた。
ペルシスも騎士達の動きを見ながら、自分のすべきことを読み、精霊に命ずる。
「カサブランカ。この場に居る者全員、守れますね」
『わかりました。…主人様、風上から人間の足音がします。複数です』
「なんですって?」
カサブランカに詳細を尋ねる前に、一段強い風が吹いた。風に混じって、確かに靴音が幾つか聞こえてくる。走って、こちらに向かっているようだ。
人の足音ならば“不可視の竜”ではない、ペルシスがそう思ったとき、廊下から宙を滑るように竜が現れた。
“不可視の竜”は、ホールに居たペルシス達に驚いたように動きを止める。だが、すぐに首をくねらせると、輪郭だけで大きく口を開けた。金切り音と共に凍てつく風が吐き出される。
命令の通りに、カサブランカは風から彼らを守っていた。最も、守りを必要としたのは竜に近づいていたゲンジュ一人。彼はペルシスが冷気を防ぐことを予想していたのかいないのか、風を割るように槍を構え、なおも竜に近づいていた。
「出来ましたよ、ゲンジュ。跳躍黒壁1種2種、ショックレジスト付与、召令!」
「情熱と闘争の力、ペッパー。 ―――――餞別代りだ。思いきりやれ!」
アーダルヘイルの魔術書から飛び出した赤い光がゲンジュの後を追い、周囲を回った。戦意と戦力を与える胡椒精、その見慣れた姿を認めながら、ゲンジュは手にした蓄積筒を槍頭に差し込む。魔力を充填してから初撃を撃つまでには少々のタイムロスがあるが、それでも冷気のブレスが効かず首をもたげる“不可視の竜”が次の攻撃をするよりは速い。
呪を成す紋様が槍頭から石突までを覆い疾ったのを確認すると、ゲンジュは頭上で槍を大きく振って逆手に構えた。
「トルセカンナ」
呟きと共に、《重き槍》が竜の足元を穿つ。石床を突いた槍の切っ先を中心に、周囲に雷がほとばしった。四方八方に飛ぶ雷撃が、ゲンジュ自身や壁に当たる直前に半透明の黒い壁に遮られる。無差別の術が竜以外に被害を与えぬようにペイルグリーンが張った結界の効果だ。
長くはない雷撃の間、ゲンジュは“不可視の竜”の身を雷が貫いているのを見た。避けるように身をよじらせてはいるが、ダメージが与えられているようには見えない。“だが、それでもいい”。
ゲンジュは小さく舌打ちをすると、その場を飛び退いた。着地と雷が止んだのはほぼ同時だった。
光と音が止んだホールにたたずむ“不可視の竜”の、透き通った身体の向こうから剣を構えた青髪の少年の姿が見えた。
「ぅぉおおおおおぉおぉぉおおおっ!!」
気合と共に少年は竜に剣を振り下ろした。刀身が淡く輝き、一目見て魔力の加護を受けていると解る剣は、しかし竜の身をすり抜けるように振り切られた。竜の動きが止まる。
「ケルベロス!!」
間髪いれず幼げな少女の声が響き、青髪の少年の横を抜けて火柱が竜に注がれた。火は竜の輪郭に触れることなくすり抜けているが、竜は苦痛を感じているようだった。
注がれる炎を振り払うように竜が翼を一つ撃つと、冷気が混じった衝撃波が生じた。至近距離に居た青髪の少年とゲンジュは吹っ飛ばされ、離れたところに居た者も数瞬怯む。
その隙に“不可視の竜”は翼をたたみ、陽炎のような身を細長く伸ばしながら、人の合間を縫って中央棟への扉に向かって行った。不意に受けた衝撃波に、横を通り抜けられたペルシスやカレルベインも竜を止めることは叶わない。ぶつかるように竜は扉に向かい、扉をすり抜けて消えた。
「ちくしょう、結局逃げられた!」
しりもちをついた体勢のまま、青髪の少年は床を叩いて憤りをぶつけた。その彼の元に仲間と思しき同じ歳くらいの黒髪の少年が駆け寄り、手を貸す。その後金の髪と茶色の髪の二人の少女も寄っていき、最後にゲンジュ達が見慣れたコート姿の男が姿を現した。
立ち上がるゲンジュにペルシスたちも駆け寄り心配する中、アーダルヘイルが一歩前に出る。様子に気付いたのか少年達もこちらを見た。少年達はアーダルヘイルの険しい表情に身構えたが、それを制するように騎士服の男―――――イセイルが彼らの前に出た。
「クルシュマン隊衛生兵、ヘキサス・イセイル出頭いたしました。彼らは国王の賓客の冒険者です。敵では…」
「解っている。よく生きていてくれたイセイル。―――そして君達も。私の部下に加勢してくれたことに対する感謝と、このような事件に巻き込んでしまったことへの謝罪をしたい。ありがとう、そしてすまない」
ミルド達への弁護を述べるイセイルを手で制し、そしてアーダルヘイルは深々と頭を下げた。
予想外の反応に、ミルド達は戸惑う。
「いや、襲われたのは俺たちも同じだし、頭下げられるようなことはしてないぜ」
「そうです。それに、凍っちゃった人たちも心配です」
「全面的に善意って訳でもないんだ。オレ達にもそれなりに戦う理由はできてる」
それでも城の守護は騎士の役割だから、とアーダルヘイルは繰り返した。暫しの間の後、こう切り出す。
「それで…客人である君達にこんな頼みをするのは心苦しいが、この件の終息のため、力を貸して欲しい」
「アーダルヘイル殿、それは…っ!」
「ペルシス陛下、どうかご理解ください。今の我々では城をかいほうするには圧倒的に力が足りない。“不可視の竜”を倒すにも、中央への扉を開くことすら。外への援軍が呼べぬ以上、内部の者が力を合わせる他はありません」
諭すように言われ、ペルシスはそれ以上食い下がらなかった。体面を考えれば避けたいことではあるが、自分達ではどうにもならないことも事実だ。魔術師のペルシスならば自らの力が及ばぬことは痛いほど理解しているだろう。
ミルド達はアーダルヘイルの申し出を受け、現在の状況を聞いた。
「中央棟への扉か…。アンジェ、お前はあれを破れそうな術持ってるんじゃないか?」
「あるにはあるけど、ホールごと吹っ飛ばすことになるわよ。防御の人員はそろってるから人への被害は出ないでしょうけど」
「出来れば城を破壊するようなことはやめてください」
かなり必死にペルシスは訴えた。
結局扉の開放には結界の解析・解除が最良という結論に至り、アーダルヘイル、ペルシス、ペイルグリーンと、後から合流したフィーナ、アンジェの5人でそれを行うことになった。アーダルヘイルから人間の襲撃者も居る旨を聞いたので、手の空いている者も周囲への警戒をする。
魔術師5人がそれぞれの武器を持ち、中央棟への扉の前に並んだ。その直後。
“背後の扉を覆っていた氷が砕け散った”。
「なにごと!?」
「俺が知るかっ!」
アンジェはすぐさま振り返って後ろで辺りを警戒していたミルドに問うたが、やけくそ気味に叫ぶ返事が返ってきただけだった。氷が砕ける瞬間を見ていたらしいシオンも、困惑の表情で首を横に振る。
「……まさかとは思うが…」
「まさかとは?」
「現状思い当たる結界を解除しうる者が二人だけ、ということでしょう。一人は結界を作り出したもの。もう一人は…」
首を傾げるカレルベインに、ペルシスは吐き出すように説明する。
軽い混乱の中、静かに扉が開く。両開きの扉が、押された慣性に従い半ばほどまで開いたとき、扉の中央に居た人影はホールを見回し控えめに、バツが悪そうに尋ねてきた。
「………邪魔したか? アーダルヘイル」
雪の結晶を模した杖を携え、困ったように眉をひそめる男は、呼びかけられたアーダルヘイルが懸命に探していた国王ファーレンハイトその人だった。



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