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■ ヒューフロスト王城、城内から城外へ


“不可視の竜”の凍てつく風が城内を吹きぬけたとき、ヒューフロスト国王ファーレンハイト17世は王城中央棟3階の廊下を歩いていた。
「…今、誰かに呼ばれた気がする」
「そうですか? ぼくには何も聞こえませんでしたけど」
一緒に歩いていた王甥トリス=トリスは、足を止めて辺りを見回す。先ほどすれ違った女中はもう奥の角を曲がってしまったのか、見通せる範囲に人の影はない。
「宰相様の部屋を追い出されて寂しいんですか?」
「そんなんじゃない。あの声は女のようだったが…」
茶化すように言うトリス=トリスにファーレンハイトは真面目に返した。少し考えてから、やや後方の天井に向かって呼びかけた。
「蚕蛾、居るんだろう。お前ではないな?」
『無論でございます』
辺りに響くような声と共に、呼びかけた天井から小柄な影が落ちてくる。影は長い金の髪をターバンとマフラーの端からこぼしながら、ファーレンハイトに深々と頭を垂れる。そして続けた。
『もちろん、わたくしにも陛下に対して呼びかける声も、そのようなものを発するものの存在も知覚しておりません』
「そうか。ならば気のせいかな」
静かに納得し、再び歩き出そうとしたとき。
風が吹いたのだ。
『陛下、トリス様下がって!』
短く発し、蚕蛾は右腕を振った。ローブを留めるように巻きついていたオレンジ色の布が解け、意思を持つように蚕蛾たちを取り巻く。布の飾り紐が風で乱れるようになびいたが、布が成す結界の内は髪がなびくことすらなかった。だが。
「まずいな」
「どうしました、陛下」
「奥の窓、」
風上を見てファーレンハイトは呟いた。視線の先には廊下の奥の窓がある。その窓を覆うように氷が疾り、床や壁を舐めるように霜が這って来ていた。
ファーレンハイトは直ぐさま自らの影から愛用の杖を取り出すと、横にあった窓を杖先で押し開けた。そのまま杖を窓の外に放り出すと、左右の手でトリス=トリスと蚕蛾の腕を掴む。
『っ! 陛下、何を…』
「飛ぶぞ。トリス、着地は頼んだ」
「…ぇぇぇえええええぇぇえっっ!?」
トリス=トリスの驚愕の叫びだけ残して、ファーレンハイトは窓枠を超えた。外に雪が積もっていると言えど、城の3階だ。
驚きはしたものの、トリス=トリスは冷静に主君の命に従った。引きずられる体勢のまま器用に背中のバスタードソードを抜き放つと、自ら従える魔性のものの名を呼ぶ。
「リブルっ!」
叫びと共に、切っ先は空間を切り裂いた。ゆるく張った布を短剣で切り開くように、切り裂かれた空間の隙間から薄いピンク色の花弁が溢れ出し、3人を包み込む。
花びらと積雪がクッションとなり、ファーレンハイト達は無傷で着地することが出来た。
『陛下、このような無茶はやめてください。ミッドガルド様が嘆かれます』
雪と花びらを払いながら蚕蛾は呆れたように叱責の言葉を口にした。ファーレンハイトは薄く微笑み「すまない」と短く謝る。直後、城を見上げて表情を強張らせた。
「窓がふさがれている…」
3人が飛び出すために開け放たれた窓は、新しく板硝子をはめ込んだようにふさがれていた。もちろんふさいでいるのは硝子などではなく、他の窓を覆った氷と同じものである。トリス=トリスが一階の窓を剣で何度か叩いてみたが、割れる気配はなかった。
『陛下、こちらをご覧ください』
他の窓を覗いていた蚕蛾が一つの窓を示す。ファーレンハイトが示された窓を覗き込むと、驚きに目を見開いた。続いて覗いたトリス=トリスも息を飲む。窓の向こうには、氷柱に閉ざされた騎士や祭務官の姿があった。
「蚕蛾」
『はい、何でしょう』
「六人委員の今日のスケジュールは? 今、あいつらは何処に居る?」
『内政局長、情報局長、雪盾騎士団長は通常通り各局本部に居るでしょう。外政局長は会談のためアリアドネへ、氷刃騎士団長は部隊会議のため城内。……宰相は執務室かと思われます』
「そうか。ならば確実な手隙は情報局長と雪盾騎士団長だな」
蚕蛾の予想よりも淡々と、ファーレンハイトは応えてきた。彼が最も心配しているであろう宰相を―――――ミッドガルドの居場所を最後に言ったのは、彼が取り乱すことを怖れたからだ。それが結果をつかの間先延ばしにするだけのことであるとは解っていても、蚕蛾はその順を無意識に選んでいた。
だがファーレンハイトは冷静だった。恐らく、無意識に彼に気を使っていた蚕蛾自身よりもずっと。そのことに気付き、自らを落ち着けるためにも、この場にミッドガルドが居れば言うであろう言を口にする。
『どうするおつもりですか、陛下』
「取り返すぞ、俺の城を」
宣言と同時に、ファーレンハイトは歩き出していた。視線を王城に向けないのは、奪還のためには眺める間すら惜しいということ。見ている暇があるならば、取り返すために動くという意志だ。
『………』
「先ずは情報局長に掛け合おう。そちらの本部のほうが近いし、何か情報を掴んでいるかもしれない。その間に蚕蛾はミッドガルドと私兵全員、あとシュバルツシュタインに連絡を取ってみてくれ。…蚕蛾?」
『なんでもありません。御意に、ファーレンハイト陛下』
歩きながら指示を出していたファーレンハイトは、立ち止まったままの蚕蛾に気付き背後を振り向いた。
不思議そうな視線を向けてくるファーレンハイトに、蚕蛾は小さく首を振り、後につき従った。



「これが最後だ。気を引き締めろ、器楽」
「…はい、隊長」
遠巻きに呼びかけてくる白髪交じりの中年騎士の言葉に、器楽と呼ばれた青年ははっきりとした口調で答えた。
言葉とは裏腹に器楽の有様は酷い。沈みかけた上体を杖と踏ん張った片足でどうにか支えるように立ち、コートの上に羽織った雪中迷彩のマントからは玉のような汗がびっしりと浮かんだ顔が覗いている。だが眼光だけはぎらぎらと光って城を睨みつけていた。
器楽は杖の頭についた竪琴のような装飾の弦を、弓を弾くような動作で軽く弾いた。弦の音が矢のように引き絞られて、一直線に飛んでいく。矢は城の2階の窓に当たったが、窓硝子を揺らしただけだった。
攻撃結果に悔しさと悲しさと疲労の入り混じった表情を一瞬浮かべ、器楽はその場に崩れ落ちた。彼の身体が地面に着く前に、中年騎士は素早く駆け寄り身体を支える。そして、奥に居る白いケープの一団に向かって叫んだ。
「衛生兵、早くこいつに中和剤を! 安定剤の使用限界が近いぞっ!」
「申し訳ありません…グレフ隊長…」
「喋ってる暇があったら気絶でもしとけ。そんで寝ろ」
グレフは乱暴に言いながら、器楽の頭を小突く。弾みで耳当て付きの帽子がずれて器楽の顔を覆ったが、帽子の下の器楽は笑っているようだった。
担架を担いで来た衛生兵に器楽を引き渡すと、グレフは銀のシガレットケースから紙巻煙草を一本取り出し、火を点けた。一息吐いてから目の前にそびえ立つ城を見上げる。普段は守るべきものとして敬意と畏怖を持って眺めているこの城も、外部から、しかも攻略する対象として見ると印象ががらりと変わる。内部攻略以前の段階で太刀打ちしようが無いという状況は、絶望を通り越していっそ笑えてきた。
一通り試して全滅した策を一旦置いて次の手を考えようとしたとき、背後から部下が呼びかけてくる声が聞こえた。ひどく慌てた様子のその声に振り返ると、そこに居た人物にグレフはわずかに目を見開く。
「グレフ隊長、国王陛下がお見えに…」
「氷刃騎士団弓兵部隊長イリヤ・グレフ。ここの指揮を執っているのはお前で間違いないな?」
報告の定句を言いかけた部下を押し退け、ファーレンハイトがグレフに尋ねた。平時ならば出来る限り臣下にも言葉を正している彼が、今は取り繕うこともしていない。姿を現したことよりも、そちらに軽く驚きながらグレフは国王に敬礼をした。
「はい、私です。騎士団本部に駐留している部隊長クラスが私しか居ないもので。陛下、よくぞご無事でしたね。てっきり城の中に居るものだと思っていましたよ」
「結界が完成する前に窓から逃げたんだ。…それは今どうでもいい。早急に現状の報告をしてくれ。お前達は今何をやっている?」
恐らく同じ場に居たのであろうトリス=トリス王甥殿下と、布の塊のような小柄な人物が消耗した様子でファーレンハイトの後ろに居た。二人の様子を見る限り、脱出時は上階に居たのだろう。普段はぼーっとしている国王がとっさに脱出する判断を下したことに感心した。
そして、その国王陛下の変化ににわかに期待を持ち始めたことをグレフは自覚する。それは事件解決に対する希望などではなく、ただ火事の延焼を嬉々として見る野次馬のような心境なのだが。薄笑いからそれを察した部下が非難と呆れが入り混じった半眼で見つめてくるのを綺麗に無視し、求められた現状の報告を行った。
城内に居ると思しき宰相・内政局長・氷刃騎士団長とは連絡がつかないこと。今日氷刃騎士団本部に居た上級官がグレフだけだったので暫定で現場指揮を執っていること。出入口に居てなんとか脱出できた衛兵達の話と、外から観察し得られた情報にて、城内への侵入を試みていること。それらを説明してから、かわりに城内の様子について城から脱出できたファーレンハイト達に内部の様子を尋ねてみたが、衛兵と同じような返答しか得られなかった。
「物理魔術両面で一通り攻撃は加えてみたのですが、結界を破ることは出来ませんでした。おかげでうちの部下が4人ほど医務室送りになりましたよ」
「命を懸けて職務に取り組んでいてくれることには感謝する。が、後のことを考えるとあまり褒められたことではないな」
「全くです。言っても聞かない奴らばかりでしてね。陛下からのお言葉ならば、多少聞くかもしれません」
「それで。雪盾騎士団はどうしている? 今日は団長は本部に居るのだろう」
ああ、とグレフは城の扉の真向かいにある城門を目で示した。ファーレンハイト達がその視線を追って城門に目を向ける。この時間帯ならば開放されているはずの門扉が、今は閉ざされていた。
「出入口の近くに居て城外へ逃れた数名の者が、各方に連絡を入れていましてね。事件直後に報告を受けた外政局長が、早急に対策を打ったのですよ。外政局は事態の見極めよりも先に事態の拡大を防ぐため、雪盾騎士団に城門と閉鎖と近隣の道路の封鎖を命じました。それと教会各位へモノリス移動の規制。雪盾騎士団長は緊急封鎖への信憑性のため外に居てもらってます」
そこまで言って、グレフはにやりと笑った。
「ついでに外政局はこの件に関してすでに公式発表を終えています。『今件は抜き打ちで行われた王城の警備能力テストを兼ねた軍事演習である』とね。期限は一日、道路の封鎖は一般臣民を演習に巻き込ませないため。これのおかげで我々はおおっぴらに城に向けて攻撃を加えられるのですよ」
「いつものことながら見事な手際だな」
「外面を取り繕うことのエキスパートですからね、彼ら」
多少無茶なことを言っても、それで何も無ければ直ぐに人は忘れてしまう。今回の事件を“無かったことに出来る”猶予は、今日一日しか無いと外政局は判断した。
「なれば、今日中に終わらせねばなるまい」
「その通りです。―――――陛下は、何か策をお持ちで?」
「一応な。協力して欲しくてここに来た」
グレフの問いにファーレンハイトは淡々と答える。協力などと言わずとも、国に仕える騎士ならば命令されれば動く。それでもファーレンハイトが“協力”と言ったのは、彼自身が動くということだ。彼は理解しているのだろう。この結界に流れる魔力が、自身のものとよく似ていることに。
「なんなりと、如何なことでも申しつけください。我々はあなたの剣ですから」
「“国”の剣だ。お前達は」
「あなたの国の剣です」
嘆息するファーレンハイトにグレフが念を入れていると、先ほど報告に来ていた部下が再び慌てて走り寄って来た。騎士は先よりも神妙な面持ちで、グレフに耳打ちをする。
報告を聞いたグレフは、訝しげに眉を寄せた。
「なに、侵入者?」
「あっ、居た! 王様~~~!!」
呼び声とグレフの呟きはほとんど同時だった。声の先には寒冷地用の旅装に身を包んだ一団が居た。毛色がバラバラで武装しているところを見ると冒険者なのだろう。
その内の黒髪の少女が、取り囲む騎士達を意に介さずファーレンハイトに手を振っていた。
「あいつらは、」
「お知り合いですか? 陛下」
「ああ。俺の客だ」
「お前達、剣を下ろせ。陛下の客人だそうだ」
しぶしぶ剣を収める騎士達を割って、冒険者一団はファーレンハイト達の前に来た。城下で買出しを終えたらしく大きな荷物を持っていた彼らは、閉ざされた城の中に居るミルド達の仲間だった。
「“どうしましたか? 冒険者の皆さん”」
「パーティの人とここ待ち合わせしてたんだけど、城門が閉まってたから入ってきちゃった」
「そういえば、そんな方々が来ていましたね」
外用の柔らかく儚げな微笑みを浮かべ、完全に余所行きの態度でファーレンハイトは応答した。そして、続く「何かあったのか?」という冒険者達の問いにも応える。
本来ならば余所者に話すべきではないであろうことを自ら説明しているファーレンハイトに、反応はしたものの止める者は居なかった。
「そんなことが…」
「門の前に来たときおかしいとは思ったよ。ここ、普段は開いてるでしょ」
説明にそれぞれの反応を示す中、集団のやや後ろに居たジルは凍った窓を眺めてから、尋ねる。
「それを私達に話すのはどうしてかな?」
「待っていただくなら、待たねばならぬ理由を言うのは当然です。理由も無しにおとなしくして居られる人達なら、そもそも閉まった城門を越えて入ってはこないでしょうから」
「成る程。……言ってはなんだが、勝算はあるのかね?」
「叶うかどうかは解りませんが、出来ることはあります」
私に、とはっきりと言う事は無かったが、それがファーレンハイト自身に向けられている言葉であると、ジルと、周りに居た臣下達は理解した。
「拙者たちに出来ることは無いか?」
キサラが尋ねる。それに倣うように、あおいやリフィルも申し出た。
「皆さんの手を借りる訳にはいきません」
「率直言ってくれて構わない。私達が手伝うことで、勝算はどれほど確かになる?」
「……我々だけで行うよりは、わずかに。ですが、成功率は上がると思います」
「ならば、十分だね。そちらの準備が終わったら、私達も手伝うよ」
「協力感謝します」
軽く、だが丁寧にファーレンハイトは礼をした。
その場を離れようとした一行に、蚕蛾が呼びかける。
『ちょっと、お前達』
「え、なに?」
『お前達ではない。後ろの、二人』
「やっぱりバレてましたぁ?」
間延びした声と共に、冒険者達の後ろにあった雪山から黒装束の影が二つ現れた。背の高い男と、潜水服のようなものを着込んだ小柄な人物。蚕蛾と同じ宰相私兵である蟷螂と蜻蛉だ。
『念のため訊いておくが、彼らはお前達が引き入れた訳ではあるまいな?』
「ちがいますよぅ! ボクらが城から逃げ出して、庭を歩いていたら見つかっちゃったんです」
『…現場ほっぽって逃走、というのも今回は任務無しの巡回だったから大目に見るが。通信にはちゃんと応答しろ』
「あっ、そうだ通信! ボクら城から出た直後に、今日外に出ている人たちと連絡取ったんです。鍬形さんは外政局長のほうに付きっきりだから来れないそうですけど、百足は来るって言ってました。一緒に情報局長さんと、シュバルツシュタインの使いも連れてくるって」
『シュバルツシュタインの使いが?』
「百足殿はアリアドネから来るから、一緒にと。モノリスで情報局本部を経由して来るそうです」
『…さっきそんなこと言ってなかったが…あのタヌキ男が……。そうか。解った。お前達も準備が終わるまでその辺に居ろ。騎士にはちょっかい出さないようにな』
「は~い」
「了解」
待機のため騎士とは離れた場所に向かう蜻蛉と蟷螂を見送り、蚕蛾はファーレンハイトに言いつけられた準備に取り掛かった。
程なくして百足とシュバルツシュタインの使い、それと部下を多数引き連れた情報局長が城に現れた。中庭のモノリスを介して来たらしく、城門をくぐってはこなかった。
「情報局局長ヴェリゼル・タングレイ。拝命により参りました」
「速かったなタングレイ。頼んでいたものは用意できたのか?」
「かなーりキビシめでしたけどね。必要分は揃ってます。足りないことはないでしょう」
敬礼をしたときのかしこまった表情を崩し、片目を瞑ってタングレイは答えた。視線で背後に並んだ祭務官の集団を示す。20人ほど居る彼らは、聖服を身に着けていながらまとう雰囲気は祭務官のそれではなかった。騎士に近しい…いや、騎士以上にあからさまに剣呑な気配を持っている。
「こんなときに役に立たなきゃ、ぼくら居る意味ないですから。それでも宰相猊下の私兵には劣りますけどね。……おや、そういえばセンパイの姿がありませんねえ」
あったら陛下にこんなことさせないでしょうけど、とわざとらしく周囲を見回してからタングレイは一礼をして下がった。
情報局の集団が去ってから、宰相私兵の一人・百足とシュバルツシュタインの使いのベリルがファーレンハイトの前に出た。
「情報局長猊下がおっしゃる通り、居ないから我々も集まっているんですけどねえ」
こちらを向いているタングレイの背中に冷ややかな視線を送りつつ、百足がこぼす。そして思い出したように続けた。
「そうそう、アリアドネの竜騎士部隊がこちらに向かっているそうですよ。まもなく王都に到着すると思いますが、城には来ないそうです。伝令だけを雪盾騎士団と合流させて、そのまま王都周辺の警戒に当たると言っていました。念のためにと」
「わざわざ百足が報告するということは、外務や雪盾の指示ではないということだな?」
「それはそうだろう。竜騎士隊長とて、本当ならばミッドガルドに直接報告したかっただろうよ。かの隊長はミッドガルド家の者なのだから」
ファーレンハイトと百足のやり取りに、ベリルが口を挟む。発声源は確かに百足の横に立つ祭務官の女だが、発せられる声はやや高いながらまぎれもなく男のそれだった。ベリルはフードを留めている黒い石のブローチを示すように片手を沿え、もう片方の手でスカートの端を掴んで会釈した。男の声は、そのブローチから出ていた。
「こんな姿で失礼、我が王よ。現在モノリスは外政局の通達で運転を停止している…というのは建前だが、これから陛下が行うことのためにシュバルツシュタインは国内全てのモノリスを駆使し補助をする。私の姿を顕現させる余力も惜しい故、現場の実働はこのベリルが担おう」
「その姿で声だけお前だと、妙だな。ライツの方が良かったんじゃないか?」
「彼は戦闘駆動特化、このベリルは情報処理特化の個体なものだからね。本当ならばこの間アップグレードしたばかりのライツを連れて来たかったが、役割が違う。こんなことならベリルを先に改良すべきだった」
「役者不足じゃなければ問題ない」
「その通りだ、我が王よ」
声だけを弾ませ、嬉しそうにシュバルツシュタインは応えた。ベリル自身の動作とシュバルツシュタインの発声は連動してはいないらしく、彼女が表情を変えることは無かった。
城門の内側に集まった人々を見回し、ファーレンハイトは安堵のような息を漏らした。これで揃えられるだけの手札は揃えた。成功するか否かは別として、行動を起こすことは出来るだろう。
足元に落ちた自らの影に杖の先を沈め、呼びかける。ファーレンハイトとミッドガルドは契約により影にて繋がっているため、いつもならばこれで感応が出来るのだが、今は会話はおろか気配を掴むことすら出来なかった。かろうじて死んでいないことは判るが。
「大丈夫ですよファーレンハイト陛下。必ず城を取り戻して、中に居る皆さんも助けられます」
俯くファーレンハイトを見てトリス=トリスは心配するように声をかけた。ファーレンハイトはその心遣いに礼を言い、そして笑い出す。
「へ、陛下…?」
「なんでもない。気にするなトリス」
ひとしきり笑うと、ファーレンハイトは杖の頭で自身の影を叩いた。すると、影から一冊の魔術書が飛び出し、ファーレンハイトの手に収まる。見る角度によって淡く青く見える白い装丁の魔術書は、ヒューフロストの国王に代々受け継がれている宝典《スノウエンプレス》だ。
今の自分は外から見たら、どのように映るのだろう。それを考えるとファーレンハイトは自然と笑みがこぼれた。城を奪われ、取り返そうと率先しているように見えるのだろうか。トリスや蚕蛾のように近しい者ならば、国のためとまではいかなくても、城内に残る親しい者のために行動しているように映っているかもしれない。
そう考えて、考え至った瞬間に即座に否定する。
(あいつらのためにやっているんじゃない…。俺はただ“自分のものが盗られて、取り返したいだけ”だ)
王位が巡ったのはたまたま偶然、場つなぎでしかないと常から言っておきながら、いざ奪われてみれば必死になって取り戻そうとする。他の者ならば責任感と言い訳が出来るかもしれないが、自分自身にはそんな言い訳は通用しない。責任なんて全うな理由など無く、ただ意地を張っているだけ。
いや、それすらも行動の理由ではないだろう。自分の元から消え去ったものなど数知れない。形があろうとなかろうと、あらゆるものが消え去ることそれ自体を受け入れることは出来る。元より自分のものではないと思えば尚のこと。
だが自分のものならば。
消え去る時は、“自らの手で消し去りたい”。
戻ることを期待しない自身の身勝手に苦笑しながら、ファーレンハイトは杖と宝典を携えて、説明を待つ人々のもとへ向かった。

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