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このブログは企画系創作作品をまとめたブログです。主更新はオリキャラRPG企画になっております。
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■ 冬の地の何処か、空の無い場所

「そこ、危ないですよ」
警告に騎士は足を止めた。広い通路の端のほうを、壁画を眺めながら歩いていたらしい騎士の足元を探索用の杖で突くと、薄く雪の積もった床に穴が開き奈落が顔を出した。
「側溝のふたが脆くなっているんでしょうね。気をつけて下さい」
「は、はい…。よく側溝に気がつきますね。遺跡の探索にはよく来るのですか?」
幼さの残る顔の騎士が、感心したように尋ねてきた。
その口調は自分の知らない世界の妙技を見た子供のようで、イセイルは苦笑する。
「来るには来るけど、趣味でですよ。僕は一応君と同じ騎士なんだけどね」
「ええっ!? すみません、同職がわからないなんて…」
「気にしないでくれたまえ。衛生兵なんて、顔を覚えられるほどの出番は無いほうが良いに決まってる」
被っていた白いフードを外すと、イセイルが着ていたコートが氷刃騎士団の制服であることが解る。戦う雰囲気をまとわないイセイルが騎士であるということを不思議に思った少年騎士だったが、衛生兵という言葉に納得した。
氷妖の遺跡を調査する際には、学者団に騎士の護衛がつく。そしてその護衛につく騎士には、必ず衛生兵が含まれている。
もちろん先のように遺跡の調査には危険が伴う故という理由もある。だが、氷妖の遺跡にはそれ以上に…。
「イセイル殿、こちらに来てくださいっ!」
先行していた一団が、慌てた様子で叫んできた。その声を待ちわびたというように、イセイルは駆け足で一団の元へ向かう。
突 き当たりにある祭壇と思しき場所には人だかりが出来ていた。氷妖の祭壇(と、少なくとも人間が呼んでいる物) は面した壁の彫刻と一体になっているものが 多く、パイプオルガンを設えた劇場のような形状をしている。その鍵盤に当たるであろう壁からせり出した台座に、一人の女性が横たわっていた。白い、肌着の ような薄いドレスをまとった、妙齢よりは少し若い女だ。人間であれば1時間と待たず凍死しているであろう衣服だが。
「彼女は氷妖の…?」
「ええ、そうでしょうね」
短く答え、イセイルは手袋を外し女性の鼻先に手のひらをかざした。息は無い。
氷 妖はヒューフロストの先住種族で、極寒の地でも生きれるように体液が不凍液になっている。そして、おそらく高度な文明を持つ前の名残であるのだろう、彼ら は哺乳類の冬眠に近い休眠状態になることが出来た。遺跡の調査を行っていると、時折そのような休眠状態の氷妖が発見されることがある。多くは彼女のように 眠りから覚めることがなくなっているが、ごく稀に生きている者も居る。そのような者を助けるために、必ず衛生兵が同伴しているのだった。
「…残念ながら、彼女はもう亡くなっています」
「そうですか…」
「もう少し早く発見していれば、助けられたでしょうか?」
「………いいえ、」
線の細い学者が無念そうに尋ねる。
それにイセイルは重く返答をした。かざしていた手をゆっくりと、女性の額に持っていく。そして添えるように彼女の額に触れた。
すると、触れた場所から女性の姿に細かな亀裂が走った。罅は瞬く間に全身に広がり、音を立てて女性は砕け散った。祭壇には粗目雪に似た残骸が残った。
「―――――っっ!」
「もう乾いてしまっています。死んだのは、だいぶ昔でしょうね」
「ひょっ、氷妖は皆死んだらこのようになるのですか?」
「まさか。死後長期間乾燥した状態に置かれなければこんな風にはなりませんよ。我々でいうところのミイラでしょうね。彼らは体質上、乾燥しても表面にそれが現れないようです」
「な、なるほど…」
少々の怯えを含んで、学者はうなずいた。そして、自らの分野である遺跡の建造調査に戻っていった。
イセイルは小さくため息を吐く。度々思うが、学者は自分の分野以外のことに疎すぎるのではなかろうか。まったく畑の違うことならばまだしも、彼が専攻しているのは氷妖の建造物だというのに、それを造った者達のことを知らないなんて。
氷妖の形式で『彼女』を弔うため、残骸をかき集める。台座からこぼさないように衣服を傾けて残骸を集めていると、両手の重なっていた部分から、四角い箱が方端を覗かせた。
手のひらの乗る程度の白い石の箱だった。持ち上げてみると、中が空洞なのか思いのほか軽い。底面が段違いになって一回り大きく、上面は面取りされているので天地はこれで合っているのだろう。適当に回しながら眺めていると、かちり、と小さな音と共に、上面が開いた。
蓋の隙間からささやかな音色が流れてくる。箱はオルゴールだった。
「ガーデンクォーツか……。これはまた、ずいぶんと面白い」
蓋 の裏にはめ込まれた石を、イセイルはそっと撫でた。ガーデンクォーツは泥石や角閃石が入り込んだ水晶のことで、それらの茶や緑が大地のように見えるためそ の名が付いている。だがこのオルゴールに飾られた球形の水晶の内部には、深い泉を固めたように透き通った青の石が封じ込められていた。中の石の種類までは わからないが、これほど中まで透明に見えるものは珍しいだろう。それ故にオルゴールの真ん中に配されたのか。
予想外の収穫に微笑みながら、イセイルは歌い続ける箱の口を閉じた。



■ ヒューフロスト王城、城内各所

そ の日、王城にある内政局本部の普段あまり使われていない会議室がにわかに賑わっていた。人の数こそ両の手に収まる程度だが、埃を被った調度品、用途不明の 金属器、建造物のスケッチ等が床や机に並べられている。居合わせた者はそれらを梱包から出したり、点検・手入れをしたり、また丁寧に梱包し直したりしてい る。発掘品の整理が行われているのだ。
小物の種類と特徴をリストに記す学者の前に、調査隊に同行していた衛生兵―――ヘキサス・イセイルは白い箱を差し出した。
「遺跡に眠っていた遺骸が抱いていました。オルゴールのようですよ」
そう言って、イセイルは箱の蓋を開けた。蓋の裏面には金で透かした縁飾りと、中心に青い石を擁したガーデンクォーツが設えられている。学者はオルゴールの特徴を記し、流れる音が終わったら、曲の長さも記録しようと一時書く手を止めた。
曲のテンポが徐々に遅くなっていき、そろそろ終わるかと思われたとき。
まず初めに、イセイルがスケッチを見ていた顔を上げた。何かに呼ばれたように。だが、部屋に居た誰もその様子には気がつかなかった。
そして、次のきっかけで異変に気づく。

『  ―――――… ト 。 ……こへ…――― 居なく… …って……ったの… …?』

かすれた声が、だが確かに室内に響いた。それを保障するように部屋に居た誰もが互いに顔を見合わせた。
そして、声がこの場に居る誰のものでもないことを確認する。

『…―――ヒュー… …ト。 一体…… こへ…? 此処は…―― …あ…り―――危険な…… …所…』

呼びかけるような声。オルゴールの音が弱まっていくのと反比例して、声は徐々に大きく、はっきりと聞こえてくる。

『 … ど…へ…― ってしまったの…? わたしの…―――――ヒューフロストっ!!』

つんざく様な金切り声と共に、リストを記していた学者は“確かにガーデンクォーツが瞬くのを見た”。



その時、氷刃騎士団長アーダルヘイル・ワイスシュタインは部下二人を従え王城内の作戦会議室に向かっていた。
大層な部屋名であるが、用向は彼が直接指揮をしている部隊の定例報告だ。
普段ならば早めに会議室に居るのだが、今日は遺跡の調査団に同行した騎士の報告を聞いていて遅くなってしまった。それでも報告会の開始時間には十分に余裕があるが。
「団長、そんなに急がなくても…」
「面倒ごとはさっさと終わらせたい」
「そんなこと言っても、どうせ会議は定刻まで始まりませんよ?」
「そんなことは分かっている。だが………あいつらは放っておいたら何やらかすか解らんからな」
早 足で進むアーダルヘイルを小走りで追いかけていた伝令官ペイルグリーン・ピーコックは、会議室で待っているであろう『同僚』を思い描き、諦めを含んだため 息を漏らした。確かに放っておいたら不味いだろう。前にアーダルヘイルが遅刻した時には、竜騎士の同僚が室内に竜を呼び込んで―――正確に言えば主人の 『待った』を堪えきれなくなった竜が室内に入ってきて―――窓ガラスと備品を数点破壊するという出来事があった。それを思えば早く会議室に向かいたい気持 ちはよく解る。
そんなアーダルヘイルの焦りを引き止めたのは、もう一人の部下ゲンジュ=セタ・ルーガルだった。ふと背後を振り返り、犬がするようにわずかに鼻先を上に向ける。
数歩遅れてペイルグリーンも足を止めた。彼は、立ち止まった同僚を疑問に思ってだが。停止とほぼ同時に、アーダルヘイルの軍服の袖を掴む。
「どうしたペイル」
「団長、ゲンが…」
アーダルヘイルがゲンジュに呼びかけようとしたとき、足元を風が抜けていった。
分厚い寒冷地仕様の軍靴の上からでも解るような、力有る風が。
「退いてくださいゲンジュ! 跳躍黒壁1種2種3種、召令!!」
「身下にて我らを護り給え―――《ハイスイートプリーステス》!!」
何事かと叫ぶよりも先に、二人はゲンジュを押し退けて、それぞれが持つ結界を展開させていた。
直後、廊下をブリザードが吹き抜ける。
吹き荒れる冷気の風はアーダルヘイルとペイルグリーンの結界に叩きつけるようにぶつかり、横を通り過ぎていった。
風が過ぎ去った後には、霜や雪が降りた廊下と、窓や天井を覆うような氷柱が残った。
結界を解くと刺すような冷気が辺りに満ちていた。外と大差ないような、いや、外以上に悪意のある冷気だ。
「これは…どういうことだ」
「魔術なのでしょう。団長と、ペイルが反射で動いたんだから」
結界を張った二人の後ろに庇われる形で居たゲンジュが、ようやく発言した。至極当たり前な言に、アーダルヘイルは「そういう意味で言ったのではない」と律儀につっこみを入れる。
「誰が、何のために、…何をやったのか。この魔術はまるで―――――」
言いかけて、アーダルヘイルは言葉を止めた。何かに気づいたように、大急ぎで廊下の端にある作戦会議室へ向かう。
扉の開け放たれた会議室に飛び込むと、予想の通りの光景があった。追かけてきたゲンジュとペイルグリーンも数瞬遅れて室内を目視し、そして絶句する。
席に着いている者や、窓辺に立っている者など様々な体勢の者が会議室に居た。彼らは同じ氷刃騎士団の制服を着、そして皆一様に戸口の方を向いて氷漬けになっていた。
「…こんな、ことが……。一体なぜ…っ!?」
「クララベル、ブランド、フィッシャーマン。……遅刻魔のランパートはまだ居ない、が…」
入り口で立ち尽くすペイルグリーンの横を抜け、ゲンジュは会議室に入り氷漬けになった同僚を確認していった。自分たちと遅刻しているらしいランパート以外の全員がこの場に居る。そのランパートも、無事かどうかは微妙なセンだった。
窓 際に目をやると、凍った窓の外で必死に城内に入ろうとする白い翼竜の姿が見えた。燃えるようなマゼンタの瞳が、ゲンジュの横に居る主人を見つめている。今 ばかりは竜の意に沿わせようと窓に近づいたが、凍りついた窓が開かないことを確認する作業に終わった。軽くノックしてみても、びくともしないことが解る。
そこでゲンジュはふと気づき、今しがたノックに使った拳を思い切り窓に叩きつけた。
「何やってんですかゲン!?」
「妙だ」
一言言って踵を返し、今度は自分が座る予定だった赤楢材のイスを窓に投げつけた。だが窓にもそこに張った氷にも、傷ひとつ付くことはなかった。
「窓が頑丈すぎる。人力ならともかく、乗用の竜の力でも破れないなんて」
「…そう言われれば…」
「窓の氷をよく見ろ、ペイル。魔力の流脈が見える筈だ」
本当だ、と慌てるペイルグリーンを背後にしながら、アーダルヘイルは凍りついた部下の一人を観察していた。
彼らを取り巻く氷にも同じような魔力が通っていた。表面を流れる不可侵の魔力、そしてその内に流れる停滞の魔力。これとよく似た―――――いや、ほとんど同質の魔力をアーダルヘイルは知っていた。ヒューフロストに奉られる、大いなる冬の力。
「行くぞ。ゲン、ペイル」
「行くとは、どこに?」
「陛下の御身が心配だ。探さねばなるまい。ついでに、俺達の他にも無事な者が居るかもしれない。自衛が出来るにしろ出来ぬにしろ、ひとまずは集まるのが得策だろう」
「ブランドたちは…」
「今はどうしようもない。先ずは陛下だ。…それに、恐らく“これを解決するためにも陛下に会わねばならない”」
行くぞ、と再び短く言って、アーダルヘイルは会議室を出て行った。ゲンジュも後に続いていく。
ペイルグリーンは迷うように一度室内を見回して、相変わらず窓を叩き続ける翼竜を見て、意を決したようにため息をひとつ吐いてから二人を追って部屋を出た。



その時、内政局中央演算室には内政局長カレルベイン・ワイスシュタインと王甥ペルシス・パル、そして数名の内政局員が居た。
内 政局の中枢と言える中央演算室は、今日は特に業務の少ない日だったこともあり、すでにやるべき仕事の大方は終わって、後は何事もなく終業時間を迎えるだけ だった。そんな状況だったから、ペルシスは自らが秘書として仕事の補佐をしているヒューフロスト王国の宰相に、「今日は人と会う用事があるので少しの間席 を外していてほしい」と頼まれ内政局に来たのだ。必要資料を取る“ついで”に、普段通い慣れ気安く話せる者が居る内政局に。
「…それにしても、ペルシス殿下に席を外してほしいという宰相猊下の『待ち人』ってどんな方なのでしょうね」
「案外これだったりして」
「み、ミッドガルド様が職務中にそんなことするはずありませんっ!」
小指を立てて下世話な笑みを浮かべる司法部門長フリードリヒ・ミスティックに、局長秘書のアラヤ・ミロワールから軽いゲンコツのつっこみが入った。だがミスティックはあからさまに動揺するペルシスが面白かったようで、軽口を続ける。
「あ、女じゃなくて男だったり? どーりでミッドガルド猊下浮いた話が無いと…」
「馬鹿言わないのフリッツ。あなたじゃあるまいし」
ミロワールは手を上げる気力も無いというように肩を落として嘆息した。カレルベインも言葉は出さないものの、3人のやり取りを微笑みながら聞いている。他にもデスクに着いている局員が数名居たが、それぞれ思い思いに雑用をしたりして時間をつぶしていた。
そんなゆったりとした時間の流れる中央演算室の、一箇所しかない出入口の扉が唐突に音を立てて開いた。
部屋に居た者全員の注目が扉に集まる。視線の先に映るものは何もなかった。
“常人の目では”。
「―――――カサブランカっ!!」
「三界幻瀬の淵に立つ者、来たりて見よ―――来い、アイム!」
扉 が開くと同時に演算室に吹き込んだ風に魔力を感じ取ったペルシスとミスティックが、瞬時に結界術を発動させる。結界はそれぞれの近くに居たカレルベインと ミロワールを巻き込むことは出来たが、それ以上の範囲に広げることはできなかった。結界の外では、魔力に取り巻かれた祭務官が見る間に氷柱に閉じ込めらて いくのが見えた。
風が止むと、辺りは息が白む冷気に満ちていた。結界の中でも解るほどに、寒い。
『気をつけて、何かが来ます!』
結界を解き、臨戦の状態にてカサブランカが叫ぶ。ペルシスはカレルベインを庇うように立ち、さらにその前に使い魔を松明の杖に変え携えるミスティックと、魔女の手鏡を持つミロワールが陣取った。騎士程とはいかないまでも、高位祭務官とあれば嗜む程度に戦うことはできる。
廊下から近づいてくる気配に、足音は無かった。ただ、演算室に向かってくる気配はあった。一足ずつ、歩くように、部屋に近づくたびに部屋の温度が下がっていくような感覚を覚える。何故そんな錯覚をしたのか―――――その理由に思い至り、ミロワールは次の行動が遅れた。
開け放たれた扉から、長い首をもたげ覗き込むように“竜”が現れた。
“竜”は滑り込むように演算室に入ると、鼻先で軽くミロワールの額に触れた。
「アラヤっ!」
叫びと同時にミスティックが“竜”に向かって杖を振り下ろした。火を分ける松明の杖が橙色の尾を引き、宙をえぐる。だがその炎は“竜”に届く寸前で凍りついた。
“竜” に触れられ、眠るように崩れ落ちるミロワールを、杖を投げ捨てミスティックは受け止めた。使い魔が敵わなかった時点で、自分では対抗しきれないことはわ かった。受け止めたミロワールを強く抱きしめ、“竜”を睨みすえる。もはや足まで氷柱に埋まり、身動きをとることすら出来ない。
睨みつけるミスティックを、“竜”は透き通った青の瞳で見つめていた。瞳が瞬きをしたように揺れる。実際に瞬きをしているか解らないのは、“まぶたが見えないからだ”。
“竜”に姿は無かった。ただ、竜のシルエットを取り、ゆらゆらと陽炎のように景色を歪ませている。尾の形に、足の形に、翼の形に、胴体の形に、角の形に背景を歪ませ、その姿を現している。そして頭の形に歪んだ空間の額の位置に、瑠璃の玉のような青い目玉が浮いていた。
“竜”は氷に閉ざされた二人を数瞬眺め、ペルシスに首を伸ばした。
それをさえぎるように、カレルベインが前に出る。
「カレル! 下がって…」
「いいえ、ペルシス王甥殿下。戦うならば私が前です」
薄い水色の羽根剣を扇のように開いて構えるカレルベインに、うっ、とペルシスがうめく。確かに兵種的に言えば魔術師のペルシスが後ろで、軽剣士のカレルベインが前に出るのが定型ではあるが。
男としては若干の情けなさがこみ上げる。
「―――立ち去りなさい、“見えざるもの”よ。この方には指一本触れさせません」
静かに、カレルベインが凄んだ。その言葉はいつものように抑揚のない声が発したようで、だが全く違った。失態を犯した部下を叱責するときでも、これほど力の入った調子になることはない。
“竜”の目はカレルベインを舐めるように見ていた。雪のように真っ白い髪に、肌。そして瞳孔までも白い眼。
それらを一通り確認するように眺めた“竜”は、そっと目を閉じ中央演算室から消え去った。気配までもが、完全に。
しばしの間の後、カレルベインは構えていた羽根剣を下ろした。同時にその場にへたり込みそうになるが、ペルシスの支えでどうにか自立する。
「恐ろしい思いをしました。もう二度と遭いたくありません」
「そりゃあ何度も体験したいなんて人間は居ないでしょうよ。怪我などありませんか? カレル」
「問題ありません。ペルシス様こそ大丈夫ですか?」
「私ならば大丈夫です。ですが…」
凍りついたミスティックとミロワールを見やり、ペルシスは言葉を詰まらせた。二人を包む氷に触れると、内部に魔力が流れているのが解る。しばらく触れていても、氷が解ける気配は無かった。
「表層の氷結結界に、深層の眠りの魔術…。死んでいないのが唯一の救いですね。ですが…」
「ペルシス様は、この魔力に覚えがおありですね?」
再び口をつぐんだペルシスに、カレルベインが問いかけた。彼女は魔術を扱う才は無いが、視ることだけなら魔術師にも劣らない。
苦い表情でペルシスはうなずいた。
「この魔力はまるで……―――――陛下のものにそっくりです」



その時、たまたま城に居た冒険者達は、たまたま氷に閉ざされた城の内側に居残ってしまった。
突如として開け放たれた扉に部屋に居た者の視線が一気に注がれる中、アンジェ・オリハルコンは扉に一瞥もくれることなく、お茶を飲む仕草のままテーブルとソファ一式の周囲に結界を張った。
結界を含めて何が起こっているのか解らずあたりを見回す一同の外で、凍てつく魔力が吹き荒れ部屋を霜と氷柱で彩る。
風が止むのとアンジェがお茶を飲み終えるのはほぼ同時だった。ティーカップを置く音を合図に結界が解ける。後に残ったのは凍る客室と凍らずにすんだテーブルとソファ一式。
様変わりした室内を見回して、シオンはため息と共に低く呟いた。驚くことはあきらめたらしい。
「これはまたずいぶんと派手なこった」
「あー…。一応聞くがアンジェ、これは一体何だろうな?」
「さあ」
げんなりした様子で尋ねるミルドに、アンジェは短く返した。
「反射的に防御しただけで、正体が何かなんて分からないわ」
答えながら、テーブルに置かれたティーポットからお茶のおかわりを注ごうとした。が、ポットを傾けてもお茶は出ない。フタを開けて中を見ると、中身が凍っていた。
「結界を解いてからポットを持つまでの間に凍ったみたいね」
「えっ。でも、こっちの花瓶の水は凍ってないですよ?」
大きめの二人掛けソファでアンジェの横に座っていたフィーナは、テーブルに置かれた硝子の花瓶を指差しながら尋ねる。活けられた花には霜が降りているが、花瓶の水は表面に氷が張った程度で、お茶のように芯まで凍ってはいない。
「温度の差じゃないか?」
言いながら、シオンは横にどけておいた弦楽器『オルセー』を引き寄せた。
「ポットの中のお茶は熱いし、花瓶の水は冷たい。この冷気は、より熱を多く持つものを優先的に襲っているんだ」
「それはつまり…」
「ただの炎嫌いと、温もりのある人嫌い。どっちなのかが問題だな」
「人間大好きって様子じゃなさそうだぞ」
部屋の外を様子を伺っていたミルドが、開いた戸口から廊下を覗き込む体勢のまま言い掛ける。その声の険しさにある程度の覚悟を決めて、3人も席を立ち廊下を見た。
客室と同じような氷柱のオブジェが立ち並ぶ廊下に、ところどころ一際大きな氷の柱が立っている。その柱の中には、逃げようと、あるいは立ち向かおうとしたらしい祭務官や騎士が封じ込められていた。
「すっごく捻じ曲がった人間大好きという可能性は」
「捨てろそんな絶望的な期待」
「なんかすまん」
さすがに無理がある冗談だった、とシオンは反省した。
そんな二人の調子に対してではないが、廊下をじっくりと観察したアンジェは嘆息する。心底うんざりしたように。
「これで買出し班と合流するまで、更に待つ羽目になったのね………」


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