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このブログは企画系創作作品をまとめたブログです。主更新はオリキャラRPG企画になっております。
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■ ヒューフロスト王城、城外更に人の外


開かれた扉から城内へ流れ込む人々を遠巻きに眺めるように、クーロンとセレディアは佇んでいた。結界解除の際に居た陣からは、離脱している。
その二人に情報局長・タングレイが歩み寄る。騎士団はようやく開いた城扉とその中に居た彼らの団長に気をとられ、情報局の動きには気付かない。
「これからのことは解ってるよね、二人とも?」
「理解しております」
「心配しなくても大丈夫ですよ局長。あんま無理しないで、休んでてください」
タングレイが来た方向には、先までの結界解除でファーレンハイトの術使用負担を肩代わりしグロッキー状態になった情報局員の一団が居る。同じ事をやっていたタングレイ自身だって立つのもやっとな程消耗しているはずだ。
「もちろんそうさせてもらうよ。そのために君たちをあっちから外したんだしね?」
後ろに控えている部下の一団を見、周囲に居る騎士や宰相私兵を見渡して、そしてタングレイは城を見上げた。話す声が一段、低く潜まれる。
「君たちが中で見聞きする『情報』は、あらゆる騎士や祭務官の命よりも重く、尊い。それが損なわれることを何よりも忌め」
言葉を受けるクーロンとセレディアは静かに頭を下げる。
「我らは『情報局』。いずれかの時にヒューフロストを救うもの。いずれかが来るまでは我らは影であり、永遠に国の影である。影は主を支えることは出来ない。でも影は在る事によって主の存在を保障する。行っておいでディール、ユナ。いずれ訪れる時のために。……そんな日は来ないほうがいいんだけどね」
「御意に、局長猊下」
「“我らが杯に懸けまして”」
情報局お決まりの文句を口にして、二人は城内に消えた。


情報局長とその部下が何らかのやりとりをしているのを、蚕蛾とトリス=トリスは城門に近い場所で休憩しながら眺めていた。何度かの会話の後、2人の情報局員は行き来する騎士に混じって王城に入っていく。距離が離れているせいで何を言っていたのかは聞き取れなかったが、大方の予想はついた。
「初めからこのためにあの二人を突破役に推したんでしょうね」
『そうでしょう。突破の術に攻撃バリエーションを増やすことも、目的ではあったのでしょうが』
同兵種で集団を作る騎士団では、武器の持つ意味に広い幅を持たせることは出来ない。それを理解していたからこそ、それを利用してタングレイは結界解除後に自在に動ける手駒を用意し得たのだ。
そして手駒が城内へ入っていくことを隠しもしない。
何を企んでいるのかは分からないが、何かを企んでいることは確かだった。
「企むと言えば、蚕蛾さんも何を考えてらっしゃるんですか?」
『…なんのことだか分かりかねます。トリス=トリス王甥殿下』
普段と変わらぬ様子で蚕蛾は返す。その様子にトリスは微笑んだ。そして独り言を言うような調子で続ける。
「この場に居る私兵の最上位は蚕蛾さんでしょ。だったら、“確実にミッドガルド様が居るであろう城に”入っていかないのは何故ですか?」
『先の結界突破に必要なエンチャントで力を使いすぎました。今は城の中に入っても、足手まといになるだけです』
「確かに。でもそれは元々する必要の無い負担ではありませんか? 解析者と構築者が違う状態で解析とエンチャントを並行するのは難しい。でも、不可能という程ではないはずです。現にあの青マントの冒険者の方は、初対面の情報局員さんのエンチャントをしてました。では何のために?」
『その言葉、そっくりそのまま殿下にお返しいたします。蜻蛉たちや情報局員は露骨に手を抜いていましたが、トリス殿下も全力を出す必要は無かったはず。せっかく善意で協力してくれる冒険者が居るのですから』
会話をしながらも、互いの視線が交差することは無かった。周囲の者には気付かれない程度に、辺りを見回す。氷刃騎士団服を着ている者や、祭務官聖服を着ている者が行き交っていた。閉ざされた城門の向こうには雪盾騎士団服の者も居るだろう。
『あの方ならば今何を優先するのか、“城の中に居るミッドガルド様だからこそ必要とすること”を成すのがこの場に居る私兵の最上位としてのわたしのやるべきことです』
宰相私兵を示す黒い兵装をした女は、呆れたように嘆息した。
『よもやそれを、蜻蛉たちよりも先にトリス=トリス王甥殿下が理解されるとは』
「ぼくはペルシス兄様のように政には向いていません。ならばせめてこちらを頑張ろうと思いまして」
笑うトリス=トリスもまた黒い騎士服を着ている。
雪に沈むように溶け込むその黒は、城の周辺に居る者達の視界に確かに入り込んでいた。



■ ヒューフロスト王城、再び城内


「陛下、今なんと仰いました?」
「だから、お前はついてこなくていい。アーダルヘイル」
城の内外に居た者達の情報交換が終わりこれからのことを話し合う段になってから、アーダルヘイルはその言が予想外であるように苦い表情で問いかけた。
平然と返すファーレンハイトの背後には、ペルシスとカレル、百足とミルド達冒険者が居る。
無事にパーティメンバーと合流できた冒険者達は、引き続き助力してくれると申し出てくれた。ファーレンハイトはその好意を受け、冒険者ギルドに事後報告する形で今回の事件を彼らに依頼することにした。
目指す先はただ一つ。ファーレンハイトが宣言した通り、この城を取り戻すこと―――すなわち、玉座のある謁見の間である。
「いけません陛下! ヒューフロストの国王たるあなたが動くならば、護衛は私が―――」
「お前には氷刃騎士団の指揮を執り、中央棟以外の場所に居る者達の捜索救助を行って欲しい。氷刃の長たるお前がすべきはそちらだろう」
「そもそも陛下御自らが動く必要は―――」
「無いとでも? ここは俺の城だぞ? 俺のものを取り返すのに俺が動かないでどうする。そんな様式的なことじゃなくても、俺以外にこの結界に対抗出来る者が居るのか?」
「ぐっ……」
反論が浮かばず言葉を詰まらせるアーダルヘイルに、ファーレンハイトは小さく息を吐き告げた。
「…俺はこの城に居る者は全て識っている。祭務官も騎士も、城にて働く者の顔と名前は皆記憶している」
「存じ上げております」
「彼らは今もこの城に居る、……はずなんだ。今はこの場に居る者しか見えなくても。それを助け出して欲しい」
「……御意に、国王陛下」
アーダルヘイルはまだ何か言いたげに表情を歪めていたが、それを飲み込み、静かに頭を垂れた。
「普段は仕事を押し付けたりしないのに、すまない」
「いえ、陛下から命令を賜れるならば、光栄の極み。陛下の『命令』は、普段は我々には向けられませんから」
「国の剣たるお前達を煩わせるわけにはいかないからな」
「それをするのが我々の役目です」
アーダルヘイルの視線に気付いた百足は、白々しく首を傾げる。
「私が護衛になれぬならば、せめて我が部隊から供の者を付けさせてください。…ゲンジュ、ペイル」
傍らで話を聞いていた二人の騎士は、呼ばれると頷き、敬礼をした。
「二人とも、陛下に従うように。俺はグレフの部隊と共に行動する。何かあれば、弓兵部隊の伝令官に連絡してくれ」
「…了解」
「了解しました、団長」
ファーレンハイトの元へ向かう二人の部下を見送りながら、アーダルヘイルは冒険者からも騎士団からも一歩引いた場所にたたずんでいる騎士に呼びかけた。
「お前も行くか、ヘキサス・イセイル?」
彼はアーダルヘイル達よりも先に、冒険者と共に行動していた。“不可視の竜”を一番最初に目撃した者としても、竜が逃げ込んだ中央棟に向かう一向に同行するのは、自然な成り行きではある。
「いいえ、あの面子ならば私の出番は無いでしょう。私は衛生兵として、凍った人々を助けることに尽力しますよ」
諦めたような、困ったような笑顔でイセイルは中央棟の扉の前に集まるファーレンハイト達を見た。
「僕が知る限りの竜のことは、もう冒険者の皆さんにお伝えしてますしね。あとは…あちらの同行するルーガル殿とピーコック殿に1つ2つ、言づてるくらいですか」
言い終えると同時に、中央棟の扉を覆っていた氷壁が砕け散った。扉の前に集まっていた国王や冒険者達から歓声が上がる。“不可視の竜”への道は開かれたようだ。
「お互い、やらねばならぬことをやりましょう。団長殿に言うことではないでしょうが」
では、と略式の礼をしてイセイルはゲンジュ達のほうへ歩き出す。
入れ替わりに、ベールを被った女祭務官がアーダルヘイルの元に来た。動作は静々とした淑女の形で、やや高い男声を弾ませベリルは喋りだす。
「結界解除の式は問題なく使用できた。城扉と、中央棟への扉がこの城では最も大きいからね。あれらが開けられるならば他の結界も問題ないだろう」
「そうか。それは陛下のお力が無くても使えるのだな?」
「無論だ。陛下の術式をトレースするために国中のモノリスを一時停止しているのだから。出力出来るのがベリル一体だけなのが残念だが」
「陛下お一人にしか使えない状況よりはマシだ」
「その通りだね。では参ろうか、友よ。我らが王と雪の女神のために」
「本音は?」
「せっかくモノリス総出でトレースした結界解除術と、全力で戦うベリルの性能を試してみたくてね。そうそう刺客なんて我が家には来ないから」
「そんなことだろうとは思っていた」
「我が友よ…最近先先代のワイスシュタイン当主に受け答えが似てきたね」
「なんとでも言ってくれ」
「その疲れたような投げやりな感じがそっくりだね。懐かしい」
「陛下と雪の女神のために行くんだろう、早くしろ」
嘆息する気も起きないというようにアーダルヘイルは首を振り、城内の探索部隊を編成している弓兵隊長の元へ向かった。



外の扉を破る行程を知っている者から見れば拍子抜けするほどに、中央棟への扉はあっけなく開いた。
外に居たときには方陣を張るだけだったベリルが「まあ見ていたまえ」と手をかざすと、たちまち無数の呪紋が疾り氷壁を砕いたのだ。
「解除術の記録は問題ないようだな。流石はシュバルツシュタインだ」
「もったいないお言葉です、我が王よ。これで我が王への負担が少しでも減れば良いのですが」
「十分だ。ここから謁見室までの廊下には、あと一つしか扉は無い」
「ご武運を、我が王よ。お傍に居れぬ不甲斐ない従僕をお赦しください」
「俺が居ない場面で働いてこそ優秀な臣下だ。アーダルヘイルと一緒に、この城の人々を頼む」
「御意に、我が王よ」
ベリルは深々と礼をして、氷刃騎士たちに合流していった。
氷壁の無くなった扉に手を置き、ファーレンハイトは集まった者達を見回した。
「…ああは言っても俺には結界を解くくらいしか出来ることが無いんだがな。俺が先頭に居れば《スノウエンプレス》の力で冷気はどうにかなるだろう。だが“不可視の竜”と鉢合わせたときは…お前達が頼りだ」
一同が頷いたのを認め、ファーレンハイトはゆっくりと中央棟へ続く扉を押し開けた。正面ホールよりも濃い魔力の冷気が、開け放たれた扉から溢れる。
ファーレンハイトを先頭にして冒険者達が次々と中央棟への廊下へ踏み込んで行くなか、自然としんがりを務める形となったゲンジュとペイルグリーンに、イセイルが近づいてきた。
「ちょいちょい、団長殿直属の方々」
「! 貴方は先程の…ヘキサス・イセイル殿でしたか。どうしましたか?」
声をかけられ首を傾げるペイルグリーンに、イセイルはコートのポケットから何かを取り出し、手渡す。ペイルグリーンの手を取り、掌にガラス瓶を乗せ、その手を包み込むように握って。
「………何のつもりでしょう?」
「“不可視の竜”への対抗策。騎士殿にお渡ししようと思いまして」
「…はあ。」
「恐らく、位置取りとしてはあなた方が使うのが一番良い。それに国立騎士団として、最低限私兵や冒険者に負けぬよう仕事しなくてはね」
「………ありがとうございます」
手が離されたので、ペイルグリーンは手渡された瓶をまじまじと見る。透明な瓶に濃いオレンジ色の液体が入っている。それと、マッチ箱。
「それを使えば、竜の冷気を退けることが出来るでしょう。効果は一回きりでしょうけど」
「なんだそれは?」
「高濃度の液体燃料です。魔力の火では発動前に気配で打ち消されますが、マッチの火なら消されるのは燃え上がってからになります。実はこれを探すために城内を歩き回っていましてね」
それではご武運を、と言い残し、イセイルは騎士の集団に戻っていった。
「…どうしたペイル?」
「えっ、あ、いえ…」
瓶を見たまま硬直しているペイルグリーンに、ゲンジュが不思議そうに尋ねた。慌てて返事をしたペイルグリーンは、瓶とイセイルの後姿を交互に見ながら、小さく呟く。
「あの人、どうして自分でやらないんでしょう…」
「…さあな」
ゲンジュの適当な返事で会話を打ち切ると、二人は冒険者達の後に続いた。




■ 城内最奥、或いは城外


眠りは静謐であった。
廊下を響き渡る音は自身の靴音のみで、他に音を立てるものも、動くものも無い。眠っている女中や騎士は周囲にまばらに居るが、皆氷漬けになっているため息遣いも聞こえては来ない。
(死んでいないだけマシですがね)
すれ違う氷柱を横目で見ながら、ミッドガルドは声に出さずに呟いた。
足元を向かい風が吹き抜ける。ミッドガルドが向かう先は玉座のある中央棟だった。宰相執務室のある西棟から、正面ホールを通らずに玉座に向かうことの出来る専用通路。中央棟でも謁見の間があるフロアは開く窓が一切無いため、“そこから風が吹いてくることなどありえない”のだが。
「ご指名いただいたからには参りませんとね」
城内丸ごと氷漬けにして、風上になることのない場所から風を吹かす。首謀者はこの先に居ると見て間違いないだろう。
そしてこの冷気は『氷妖を凍らせることはない』。風が宰相執務室まで吹き込んだときにはミッドガルドも肝を冷やしたが、冷気に含まれる見知った気配を感じ取り、防御結界を解いた。次々に氷柱に閉じ込められる人々を先に見ているにも関わらず危険なことをしているとは思ったが、この冷気と気配の主に確信があったからこそだ。
扉を開けて、謁見の間に入る。戸を隠すために張られた飾り布の隙間をぬって、直ぐに部屋の下座を見た。何がしかの術式を使っているのなら、玉座や装飾のある上座ではなく見通しの良い広い場所が必要だと思ったからだ。下座に人影は無い。
わずかに安堵するミッドガルドの首筋に、細く冷たい息が吹きぬけた。
驚き振り返ると、目の前には青く透き通る眼があった。玉座に巻きつくように佇む“不可視の竜”は鎌首をもたげ、反射的に後ずさろうとしたミッドガルドの退路を透明な尻尾で阻んだ。
「グレイスドラゴン…やはり、貴女達でしたか。我々を『ヒューフロスト』と呼ぶのは、もう貴女達くらいなものですから」
『お久しぶりね、ヒューフロスト。ようやくまともに話すことが出来る』
ミッドガルドの背後に回していた尻尾をどけ、“不可視の竜”はゆるりと首を持ち上げた。
『目が覚めるなり余所者が多く居たから、とっさに結界を張ってしまったわ。あなたたちが無事でなによりよ』
“竜”は周囲を見回すような仕草をする。
『その額の紋章―――――あなたはマセルスの血の者ね。リィカマキナの弟かしら? あの子にこんな大きな弟が出来るなんてね…アウグスティアンナやステラマリーはお元気?』
声を弾ませ喋る“竜”を見つめ、押し黙っていたミッドガルドは意を決したように口を開いた。
「私は………その、リィカマキナの息子です。名はマリオ・マセルス。アウグスティアンナは名前しか聞いたことがありませんが、私の祖母に当たります」
今度は“竜”が黙る番だった。深い青の目でミッドガルドを見つめ、その顔に見知った人々の面影を重ねるように。
『あなたが、リィカマキナの息子……? あの小さなリィカが、………私は、どれ程眠っていたと言うの?』
「少なくとも、100年や200年では済まないでしょうね。私が生まれ育った頃には、もう祖母は眠りについて久しかったから」
『そんな……だからあんなに余所者が多かったの? 私達が眠っていたせいであなたたちが辛い目に……!』
“不可視の竜”の怒りに呼応するように、部屋の温度が一段下がった。かすかに吹いた風がミッドガルドの髪を揺らす。
「どうか聞いてくださいグレイス。我々は侵略など受けていません。貴女が眠っている間に、ここは彼らのものになったのです。ヒューフロストの名を継ぎ、この地に人間の国を建てた。…いいえ、我々が明け渡したと言った方が正しいでしょうね。彼らは滅びの寸前にあった我々を救ってくれたのですから」
『そんなこと、とても信じられないわ』
「その気持ちはよく解ります。かつての…貴女達の知っているヒューフロストは、他者を寄せ付けられない臆病者だったから。古くから親交のあった貴女達以外を受け入れられず、その貴女達すらも自らの技術で変質させなければ傍に置けなかった。その貴女達を差し置いて、別のものと共生しているなど」
『じゃあ、さっき会ったあの娘も、心からあの人間を守ろうとしていたのね…』
「私以外のヒューフロストに会ったのですか?」
“竜”は静かに頷いた。そして、ゆっくりと首を横に振る。
『そうね…、あなたたちは一度受け入れた相手を裏切ることは決して無い。それと、私たちはこの姿になったことを、恨んだりはしていない。選びたくてこの姿を選んだ―――――あなたたちを助けたくて、あなたたちが受け入れてくれるならどんな姿でも良かった。だから、氷河の中でしか存在出来なかった私達を、こうして外に出してくれたことを感謝しているわ』
「そう思っていただけたなら何よりです。我々は、貴女達の気持ちすら理解できなかったから滅びかけたのでしょうね」
『仕方ないわ、あなたたちは冬の孤独を良く知っている。白く埋まった世界のなかで、幾百の生死と、幾千の逢離を見続ける者だから。得なければ失うことも無いと………それも、間違いではないのだから』
「せっかくの眠りを妨げてしまって申し訳ありません」
『いいえ、リィカマキナの子マリオ。あなたに会うことが出来てよかったと思っています。まだ私が知る者の直下の子孫が居るときに目覚められたことを』
竜の嘴が、ミッドガルドの額の紋章に小さく口付けた。
「事情を理解していただけたなら、どうか結界を解いてください。今のこの地の主たる、彼らに城を返して差し上げてください」
寄せた顔を引き、グレイスドラゴンは深青の眼でミッドガルドを見た。揺らぐことの無い穏やかなまなざしは、決意に静まった者のそれだった。願いを聞き入れてもらえるだろうと、ミッドガルドは安堵したが。
“不可視の竜”が顎を開くと同時に、ミッドガルドが背後にしていた扉が甲高い破砕音と共に開いた。音は実物の扉が爆破されたものではなく、扉を覆う結界を破壊した音だ。部屋に滞在していた冷気が、幾分暖かな外気に流され動く。
爆音の原因は解らなかった。もしかしたら自分や、この城に関わる禍事かもしれない。
だが、正体不明の爆音よりも確かに絶望的な音を、ミッドガルドは同時に聞いていた。爆音に驚き振り返った直後。それもまた、爆音と同じく背後から聞こえた。
『それはまだ出来ないわリィカマキナの子マリオ。マセルスのヒューフロストよ』


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