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このブログは企画系創作作品をまとめたブログです。主更新はオリキャラRPG企画になっております。
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ヘルメスの話です。
特に山もオチもないです…。

現状この幼馴染のガールフレンドと再び何かが起こる予定はありませんが、ヒュー国のどっかの町に居るかもしれません。



真っ白な病室の壁には、花の鮮やかさがよく映える。雪はまだだがもう秋も中ごろ。この王都でこれほど新鮮な花を調達するのは大変だっただろう。
窓にはレースのカーテンがかかり、西日を柔らかく受け入れていた。初めて見舞いに来たときに、部屋に光を入れようと備え付けの分厚いカーテンを開けると窓に鉄格子が嵌っていたものだから、彼女が持ってきたものだ。光は入れたいが鉄格子は見えぬようにと、目の細かいレースが使われている。
花にも負けぬ明るい調子で、彼女はずっと喋っている。早口というわけではなく、ゆっくりと、穏やかだが暖かく響く声で。普段は人が居ないのではないかと錯覚するほど病棟は静かだから、彼女一人で喋っていても賑やかに聞こえた。内容は他愛の無いものだ。日常のことや、昔のこと。好きなものや嫌いなもののこと。何度か繰り返して喋ってる話題もある。いつか、何かの拍子に私がその話題に反応するかもしれないからと。
花もカーテンもそして彼女も、全ては自分のために彼女が気を遣ってくれたものだ。
いや、正確には『私』にではない。かつて『私だった者』にだ。
いずれ来るかもしれない奇跡の時を待つのは、こんなにも暖かく優しいのだから、人は奇跡に縋りたくもなるのだろう。
だが、彼女の待つ奇跡は決して起こらない。
だから、


病室に一人の男と少年が訪ねて来たときには、窓から射す光は青みを帯び始めていた。
彼女が部屋を出て行ってどれほどの時間が経っただろう。そんなことをふと思っていると、男の薄気味悪い微笑みと入ってくるなり発した言葉で、つかの間も経っていないことを知る。
「泣いていたよ、彼女。よく見舞いに来てくれる女性を泣かすだなんて、君は酷い男だな」
「彼女、まだ居たのですか?」
「まだも何も、ここから出てくるところから見ていたよ。我々には気付かなかったようだ。よっぽどショックなことがあったんじゃないかい?」
「そのショックな出来事をずっと隠し立てていることのほうが、よほど残酷でしょう」
サイドテーブルの上で見舞いの果物をかじるハリネズミをぼんやり見つめながらヘルメスは呟く。
「『イトムカの記憶は二度と戻ることはない。あなたは私にとってはただの他人なのだから、もう見舞いには来なくていい』―――――そう、言いました」
「この上なく直球だね」
「他にどんな言葉を飾れと言うのです。記憶が戻らない理由など、魔術師でなければ理解出来ないこと。実際彼女とは会ってまだ1年と経っていない他人です。幼馴染だったイトムカは、私ではない」
「君は違うと思っていても、彼女にとっては君はイトムカと同じものなんだよ」
イトムカの記憶喪失は単に頭を打ったからなどとは次元が違う。強力な魔術を使った副作用で『記憶の存在そのものが消滅してしまっている』のだ。本来なら腕と同じようにイトムカ自身が消滅していてもおかしくは無かったのだが、存在消滅の呪いが真っ先に記憶を消したことにより反動を受けるべき魔術師の人格が消失したため、命までは落とさなかったのである。
ヘルメスはそれを理解しているからこそ、献身的な彼女の態度が辛かった。彼女はいつかイトムカの記憶が戻ることを信じている。信じて、見舞いに来てくれている。過去のことや自分のことを何度も話すのも、病室の片隅に積まれたかつてイトムカが書いていた日記や士官学校時代の行動記録書の山も、全てはイトムカを愛する故の彼女の行動だ。
「…羨ましかったりするのかな? イトムカが自分ではないことが」
「別に。ただ、イトムカは彼女にこんな仕打ちをしてまで禁術を使う必要があったのかとは思います」
「恐らくは、必要だったのだろうよ。かの禁術は君の身に降りかかった反動からも解る通り、非実体や概念にも作用する。敵が広範囲攻撃魔術でも発動させた後だったら、たとえ術者を殺害しても発動した術は止まらない。術自体を消しでもしない限りはね。彼は守りたかったのさ。彼女や、周りの人々を」
「……そう、でしょうね。彼女を傷つけることになっても、せめて生きていて欲しかったのでしょう。私でも、きっと同じ状況に立ったら同じことをします」
「それは…」
「私がイトムカだからではない。私が誰であって誰でなくても抱くありふれた感情です」
「…そう悲観することも無いと思うがね。君たちはまだまだ若いのだから、これからまた新たな関係を築くことも出来るだろう」
「若いからこそ、彼女は私と居るべきではありません。イトムカの記憶は万に一つも戻ることは無い。彼女のような方が戻ることも無いもののために時間を無駄にすることは……私が嫌です」
ヘルメスと大して歳が変わらぬように見える男は、年寄りのような調子で言う。ヘルメスも、もはやその言動に違和感を覚えることは無かった。
この男は―――――王従クウォン・シュバルツシュタインは『そういうもの』なのだと、ヘルメスは納得していた。
所属していた騎士団の人間と、イトムカの幼馴染だった彼女と、それ以外で来た唯一の見舞いがクウォンだった。正確には見舞いではないが。

―――――腕の無い君を見込んで頼みたいことがある。私の開発する義肢のモニターになってくれないかな?

入ってくるなりそう切り出した男を、ヘルメスは後生忘れないだろう。常識の無さと、ヘルメスの人生の意味を与えた者として。


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