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このブログは企画系創作作品をまとめたブログです。主更新はオリキャラRPG企画になっております。
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ヒューフロストのモブの話、下巻です。
一つの記事にまとめたいと思ったんですが、まとめたら投稿サイズの規制に引っ掛かりました。
仕方なく分割しました。

吸血鬼の設定は多大に独自解釈が含まれているので、ユナギリアスはそういうタイプの吸血鬼なんだーくらいに思っていただけると幸いです。
いやどう考えても他の吸血鬼の方々とは同系統とは思えませんからね…愛の魔物って。
ちなみにここで言う真祖は、誰かに血を吸われて成ったのではない吸血鬼のことです。生まれながらに吸血鬼。たぶん突然変異みたいなものなんじゃないでしょうか。

そしてこの話を書きながら調べたんですが、軍隊の部隊の人数をかなり誤っておりました…;;
雪盾騎士団は基本単位が小隊ですが、これ人数にすると30人とかになるんですよね。10~15人くらいだと思っておりまして…。
氷刃・雪盾両騎士団では、部隊の単位は1ランク下がる感じでとらえていただけると幸いです。

前篇に引き続き、びぃえる時空注意報、発令中です。今回は言い訳できません。
むしろこっちこそ言い訳できません。





夕闇から逃げるように家に帰ってくると、リビングにヴォイニッチの姿が無かった。ここのところ彼はよく寝室に居る。恐らくは寝室の窓の方が空がよく見えるからだろう。
ユナギリアスは帰りの挨拶も言わずに寝室に向かった。挨拶どころか、板張りの床を歩く足音すら発していない。これがユナギリアスの本来の歩き方なのだが、平時から足音を出さずに歩いていては怪しまれるため普段はわざと足音が出るように歩いていた。
短い廊下を進み、寝室の戸を開ける。戸の真向かいにある窓には、レースのカーテン越しに外を眺めるヴォイニッチの後姿があった。
足音が無くても、戸を開ける音で気付いたのだろう。振り返ることは無かったが、ヴォイニッチはユナギリアスに話しかけてきた。
「ねえ。ユナの生まれたところってどんなところ? ユナはさ、何を見たら故郷のことを思い出す?」
ユナギリアスは応えなかった。何も答えずに歩み寄る。だが、構わずにヴォイニッチは喋り続けた。うわ言のようなものなのだろう。変わらず、空を見ながら。
「最近、空を見ているとすごく懐かしい気分になるんだ。胸がざわつくみたいなのに、気持ちはとても落ち着いていて……俺がここに来る前に暮らしていた場所は、ここよりもっと空の広いところだったのかもしれない」
歩み寄る。
「でもさ、図書館の挿絵で見たような平原とか、そういう空ともちょっと違う感じがするんだ。こうして窓から見上げて、視界一面に広がるような空………そんな場所、あるのかな?」
歩み寄る。
「……………ユナ?」
ようやくヴォイニッチは振り返った。何も言わぬまま自身の後ろに立っていたユナギリアスを見つめる。
その不思議そうな表情を見て、ユナギリアスは自然とヴォイニッチを抱きしめていた。
「ど、どうしたのユナ? 何か嫌なことでもあった?」
こちらの様子をうかがうように尋ねるヴォイニッチを、ユナギリアスは愛しく、嬉しく思った。何も言わなくてもヴォイニッチは自分の気持ちを察してくれている。これから自分のすることが、とてもとても嬉しくて、とても嫌なことであると。
「ごめんね、ビオ君」
呆けたように薄く開かれたヴォイニッチの唇をそっとなぞり、自らの唇を落とす。
ほんの一瞬、最初で最後。
そんなユナギリアスの想いも知らず、ヴォイニッチは動揺もせずきょとんとしている。彼はこの行為の意味を知らないのだから、当然か。
「ごめんね、」
再度唱える。その謝罪に応えが返ってくる前に。
ヴォイニッチの口を押え付け、身体を壁に縫い付けて。
ユナギリアスは長く伸びた爪で彼の喉を切り裂いた。


雪盾騎士団第050小隊隊長ハリー・ハーベストとその部下二名が現場に駆け付けた時には、現場は静まり返っていた。最も、通報時点で大騒ぎになっていたという訳でもないのだが。
場所は居住区の変哲のないアパートの一室。この頃隣の地区で不審者騒ぎが出ていること以外は取り立てて目立った場所でもない。そのアパートの窓に、大量の血がついていると通行人から通報があったのだ。
出動直前に軽く調べた限りでは、問題の部屋には数年前からインテグラに定住している青年が暮らしているようだった。近所の人の話では、最近親戚が同居しているとのこと。
通報があったとはいえ、現状住人が居るアパートに強行することは出来ない。万一のために部下に武装の用意をさせて、ハリーは部屋の戸を叩いた。
「お忙しいところすみません。私は雪盾騎士団第050小隊隊長、ハーベストと申します。セレディアさん、いらっしゃいますか?」
返事が無い。再度ハリーはノックをしてみたが、やはり反応は無かった。
しばし息をひそめ、部屋の内部の様子をうかがう。住人が居そうな物音などは聞き取れなかった。
部下二人に順に視線を向けた後、ハリーはゆっくりとドアノブを回す。何の抵抗も無く扉は開いた。
「セレディアさん、いらっしゃいませんか? 我々は雪盾騎士団第050小隊です。近隣の方から通報があったので、この部屋を検めさせて貰います」
室内に響き渡るように、ハリーは宣言しながら部屋に入った。部屋に一歩入った時点でハリーは眉をひそめた。続く部下二人も、部屋を進んで顔を嫌悪に歪ませる。室内には血の匂いが充満していた。
出入り口に近い部屋から順に、ハリー達は検めて行った。どの部屋も何の変哲もない適度な生活感のある部屋だった。
最後に残った扉の一つ。間取りを考えれば、ここが通報があった血の付いた窓のある部屋のはずだ。
アパートに入った時と同様、部下二人に目配せをしてから扉を開けた。
「…!!」
「ひっ…!!」
扉を開けた途端に目に飛び込んできた光景に、女性騎士のシレナが思わず声を上げる。
血に染まった窓のすぐ下に座り込むように、同じく血に染まった少年が座り込んでいた。その喉は無残に引き裂かれており、一目見て息が無いことが解る。
(ここの契約住人は確か金髪だったな。…ということは、この子は最近来たという親戚か?)
ハリーは遺体に近づき頬に触れる。まだわずかに体温があった。そう古い死体でもないが、まさに直後という鮮度でもない。それに関しては通報から自分たちが駆け付けるまでの時間を考えると当然か。入口の戸の鍵がかかっていないことからも、ここで何らかのことをした犯人が逃げる時間は十分にあっただろう。
「念のため、警戒を怠るな―――」
付き従う部下に注意を促そうと振り返ったハリーは、部下たちの奥―――今しがた開けはなった戸の影に、沈むようにたたずむ男を見た。このアパートの契約住人と同じ金の髪に碧の目の青年、そう判断するよりも先に、彼の纏う強烈な殺気にハリーの身体は動いていた。
拳を振り上げ突進してきた青年を、ハリーは両腕を交差させ受け止める。見た目とは裏腹に重い衝撃によろめきかけたが、耐えたことに驚いたらしい青年が、後ろに飛び退いた。広まった間合いにすかさず剣を抜いたシレナとクロエが割って入る。
三人を睨みつける青年の瞳が、みるみる赤く染まっていった。
「やはり吸血鬼か。隣地区の不審者騒ぎに関わっている疑いがある。拘束するから、足止めを」
「「はい、隊長」」
左右対称に剣を構え、クロエとシレナは青年の前に躍り出た。青年の周囲を回るように、交互に打ち込む二人の斬撃を、しかし青年はすべて爪先で受け流していた。どころか時折流した剣の腹を蹴り上げ、二人の連携を崩そうとしてくる。
均衡に焦れたシレナが保った間合いを一歩踏み込み、斬りかかった。これならば避けられまいと斬り込んだ一撃は確かに避けられはしなかった。
青年は片腕を頭上にかざし、シレナの剣を止めていた。気圧されるように腕を下げ、青年の赤い瞳が、シレナの視線と交わる。
殺人者の狂気か、悪魔の異端か、あるいは追い詰められたものの恐怖か。何がしかの感情が見えるのかもしれないと青年の顔を凝視したシレナの目に、小さく動いた青年の口が映った。唇がごく小さく、意味を紡いで動く。
それを見てはじかれたように剣を振り上げたシレナに、青年を挟んで向かいにいたクロエが驚く。
「どうした、シレナ?」
「―――クロエ、」
恐怖に目を見開くシレナの様子に尋常ではないものを感じ、クロエは問いかけた。そしてシレナがその答えを言う前に、異常を悟る。シレナは振り上げた剣をゆっくりと下ろし、その切っ先を自らの喉に向けた。
「シレナ!?」
青年の横を押しのけるように抜け、クロエは素早く剣の石突でシレナの手を打ちシレナの剣をはたき落した。そのまま反転し、青年の胸倉を掴みあげる。
「シレナに何をした?」
「………僕は今、君たちと遊ぶ気分じゃないんだ。だから、」
青年は真っ直ぐにクロエを見つめた。
「"自分の始末は自分でつけるんだね"」
逆らい難い呪いの言葉が、クロエの意識に突き刺さる。頭は言葉の意味を理解しかねているのに、身体は忠実にその命令を実行しようとしていた。シレナと同様、手にした剣を自身に向けて―――。
「しっかりしろ、クロエ!!」
叫びと共にハリーのコートの両袖から鎖鞭が飛び出し、片方がクロエの腕と剣に絡みついた。もう片方の鞭は、部屋を立ち去ろうとする青年の行く手を遮る。犯人捕縛用の装備だが、今はこれが限界だった。ハリーの視界の端で、シレナがよろめく足取りではたき落された剣を拾うのが見える。
「僕なんかよりも、あっちに使ったほうがいいかもね?」
「くっ…!」
青年の言葉に従うように、ハリーは青年に向けていた鎖でシレナを拘束した。どんな術を使っているのか解らないため、迂闊に近づくことも出来ない。
「お前がユナギリアス・セレディアで相違ないな?」
「…そうだよ。僕がユナギリアスだ」
「ではユナギリアス・セレディア、この部屋の死体と、隣地区の不審者騒ぎの重要参考人として同行願おう。断るならば力づくで連れて行く」
「―――はは、この状況じゃあ面白くもない冗談だね。悪いが同行する気も連行される気も無い。この子たち、しっかり押さえておけばしばらくしたら正気に戻るから。それまではそうしてるんだね」
嘲るように笑うユナギリアスの顔が、不意に険しくなった。視線を見るにハリーに対してではない。背後にある少年の死体か、窓か、振り向くことも出来ないハリーにはわからなかったが。
直後、轟音と共にハリーの背後が爆ぜ飛んだ。
わけが解らぬまま爆発の衝撃で床に転がったハリーの頭上を、風妖精が舞う。
『貴殿がこの場の責任者だな。私は氷刃騎士団弓騎士部隊副隊長イリヤ・グレフ。市街の巡回中にこちらの異変を見つけて、勝手ながら助勢させてもらった。両騎士団には連絡を入れたので、しばらくすれば駆け付けてくれるはずだ』
騎士団では通信用としてよく用いられる風妖精が、役割通りに言葉を伝える。
「それはありがたい。が、なぜ部屋を吹き飛ばす必要が…」
『我々は"弓騎士"だからな。直接そちらに出向いての戦闘は不得手なんだ。緊急を要するようだったから、こちらに有利な戦場を作らせてもらった』
「事前に一言欲しいものだな」
『すまない。そちらの二人が危なそうだったから、ついな』
ハリーは倒れたはずみで緩みかけていた鎖鞭を握り直した。同じく倒れたクロエとシレナは鎖から逃れようともがいている。
「…いや、感謝している。で、私はどうすればいい?」
『君の部下二人が射線に出ないよう、抑えていてくれ』
言葉と共に銃声が響いた。同時に、爆発。ユナギリアスが立っていた場所が、閃光に包まれる。その爆炎から跳んで避けたユナギリアスの後を追うように、銃声と爆音が数度起こる。
アパートの1区画を吹っ飛ばす初撃に比べれば随分と威力が抑えられているのは、同じ場に居るハリーたちへの配慮なのだろうが。
ハリーは身を低く保ったまま二人の部下に近づき、起き上がろうともがいている二人の頭を押さえつけた。いまだ自らを死なせようとする自身への抵抗と、その殺意に対する恐怖に震えながら、クロエは小さく「ごめんなさい、隊長…」とこぼした。ハリーは「気にするな、」とクロエの頭を押さえる手に力を込める。
「……これはずいぶんな大役だな」
見やったユナギリアスに数十という輝く魔術の矢が降り注ぐ様子に、ハリーは独りごちた。


逃げまわる吸血鬼に面の攻撃として降り注いだ光の矢は、効果的に吸血鬼を射抜いた。もとより全てを当てるつもりはない。5,6本の命中という期待通りの結果にイリヤは微笑んだ。一撃でも当たれば回避力は格段に落ちる。間髪入れずに放たれた第二陣の攻撃が吸血鬼に向かうまで、そう思っていた。
矢の刺さった肩口を押え、棒立ちの吸血鬼に再び光の矢が降り注ごうとしている。
その矢が、当たる直前に四散した。
「!?」
風妖精の視覚を通して状況を見ていたイリヤは、隣に居る光の矢を放った当人である部下を見やった。自らの術を破られても、彼は冷静だった。
「どうなってるんだ、フィッシャーマン」
フィッシャーマンはフィッシャーマンで自前の使い魔の視覚から吸血鬼を観察していた。わずかな黙考の後、口を開く。
「副隊長、あれは恐らく『魅了の魔眼』です。吸血鬼であれば大なり小なり備わっているという瞳術。吸血鬼の真祖が持つ最上級のものともなれば、その魅了は概念すらも従えると言われています」
「っつーってと何か? お前の魔法弾も魅了されて消されたってーのか?」
「恐らくは」
「滅茶苦茶だな、吸血鬼」
「だから危険な魔物なんですよ」
部下の見解に苦笑しながら、イリヤは真上に向かって長銃を向け発砲した。操作の呪紋が刻まれた弾丸は、空を昇りきる前にイリヤの意思にて吸血鬼へと向かう。着弾と同時に爆発する弾ならば、操作により衰える弾速はさほど問題にならない。
「こんなことならもっと装備を整えておくべきだったな」
「買い出しに武装していく方がおかしいんですよ」
またも撃った弾が避けられるのを妖精からの受信で見つつ、イリヤは嘆息する。
ハリーとの通信で言った通り、イリヤ達は今回の件で出向いてきた訳ではない。弓騎士部隊で使用する弾薬の買い付けにインテグラに来ただけだった。たまたまハリー達が通報を受けたアパートの異変に気づき、駆け付けたハリー達の様子をうかがっていたところ予想外に苦戦をしていたため手を貸したのだ。近頃インテグラの居住区に出没しているという吸血鬼の噂を聞いていたため、それに関する事件だろうと見当をつけて。
兵種の都合上直接攻撃には向かないため、アパートからは見えない向かいの建物の屋根の裏手に二人は居た。使い魔の監視力と軌道を操作できる魔術の弾を使えばこちらの位置を悟られずに攻撃を仕掛けられる。アパートの壁を吹っ飛ばしたのもそのためだ。
「にしても俺の弾は弾速が遅いし、お前の弾じゃあ当たる前に消されるんじゃ埒が明かんぞ」
「少々、試したいことがあります」
言ってフィッシャーマンは新たな魔法矢を作り出し、放つ。先ほどの半分ほどしかない本数の矢が吸血鬼に向かって飛び、当たる直前に消されるだろうと思われたそれは、しかし、命中した。
「…どうなってるんだ?」
「術構成を少々変えました。幾ら真祖の魅了と云えど、魔術のように実体の無いものとなればきちんと組成を把握していなければ消せないでしょう」
腕を振り、フィッシャーマンは再度魔術矢を生み出した。
「毎度構成を変えなければならないので、時間がかかるうえに量も出せないのが難点ですが」
手を翻し放たれた矢は、今度も吸血鬼に当たる。
次手の矢を編み出していると、頭上をアパートの瓦礫が飛んで行った。肉眼で吸血鬼の様子を見ようと屋根から頭を出しかけたイリヤが、あわてて引っ込む。吸血鬼が周囲の瓦礫を『魅了』し、礫にしているようだ。辺り構わず瓦礫を飛ばしているあたり、こちらの位置に気づいてはいないらしい。
吸血鬼の攻勢に嫌な予感を覚えつつ、フィッシャーマンは編み上がった魔術矢を撃った。吸血鬼が襲いくる魔術矢を認めた瞬間、周囲の瓦礫が浮かび上がり、そのことごとくを迎え撃った。消されはしなかったが、当たらない。
「防御法を変えられましたね。物量で押せないだけに、あれは突破できない」
一旦言葉を切って、フィッシャーマンはイリヤをうかがうように顔を向けた。
「いっそ、討伐任務ならばもっと思いっきり出来るのですが」
「倒すのはナシだ。ここの主導はあの場に居る雪盾騎士、彼らは討伐ではなく拘束が目的なんだから」
「あれだけ強力な吸血鬼なら、騒動の元凶でまず間違いないと思うんですがね。そうでなくても、あの部屋に転がってるの、窓の血痕の主の死体に相違ないでしょう。現行犯みたいなもんじゃないですか」
「例えこの場の殺人の現行犯であっても、グール発生騒動の犯人とは限らん。それに、騒動の主が一人とは限らない以上、今あの吸血鬼を討つのは早計だ」
部下を諌めておきながら、イリヤ自身あの吸血鬼を生け捕りというのは難しい注文だとは思っていた。こちらの戦力が偏っていることを差し引いても、あれは分隊一つ二つ連れてきても文句は言われないレベルだ。
「………ああ、くそっ。やっぱり使うしかないのか」
イリヤは愚痴りながらベルトのポーチを探り、緑の包装紙に包まれた弾を取り出した。見慣れない弾薬にフィッシャーマンが首をかしげる。
「副隊長、それは?」
「時飛び兎の耳羽を触媒にした時間操作弾だ。被弾した対象の時間を止める。抗魔力の高い魔族では、止めるのは2時間が限度だろうが」
「そんな便利なものがあるのになぜ今まで使わなかったんです?」
「材料が貴重だから今あるのがこの7発きりなんだよ。…これ一発でヒラ騎士だったら1か月分の給料が飛ぶくらい高価でな。通常兵装に登録されてないから、当たった弾数分だけ後日会計計上だし…」
「外れた分は向こうに居る雪盾騎士にツケておきましょう。1か月分の給料振るとして、一生を振るよりはマシでしょうよ」
「そうさせてもらうよ。…外れないように援護しろよ、フィッシャーマン」
「イエス、サー。グレフ副隊長」
フィッシャーマンはにやりと笑うと両手を掲げ、七色に輝く矢を編んだ。


迫り来る魔術矢を一瞥し、ユナギリアスはすぐに視線を下に落とした。
ユナギリアス自身に魔術を扱う技術はほとんど無かったが、魔性を含む吸血鬼という存在柄魔力を見ることに関しては並の魔術師に劣らぬ力があった。二度目の攻撃を『魅了』により分解して以降、飛んでくる矢は毎回・一つ一つ微妙に構成を書き換えられている。一つ一つを読み解き魅了をかけるよりも、辺りの瓦礫を魅了し自身を守らせる方が効率的であると判断したユナギリアスは、周りを転がる建材を見回し、命じる。
「"僕を守って、"」
幾度目かに来た魔術矢も、瓦礫はユナギリアスの周りを浮遊し迎え撃った。矢が当たるたびに瓦礫は小さく砕けてどんどんユナギリアスを守る壁は薄くなったが、さして気にはならなかった。盾になるものは周りにいくらでもあるし、全て違う術式で作られた魔術の矢など長く作り続けられるものではない。少し離れたところに居る騎士達もこちらに手出し出来るような状態でもないのだから、次に矢が途絶えた時、十分に逃げる隙はあるだろう。
ちらりと、横目で壊れなかった部屋の一角を見る。
爆発の衝撃で吹き飛ばされたヴォイニッチが居た。うまく転がったのか、目立った破損は見当たらない。その事実にユナギリアスは胸をなでおろす。殺した自分がしていい心配ではないが。
少し目を離した隙に、瓦礫の砕ける音が一段と激しくなった。再び魔術矢を見たユナギリアスは目を見開く。
一本一本が微妙に色の違う光の矢が頭上を埋めるように向かってきていた。これが、あるだけの魔力を振り絞った最終攻撃いうことだろうか。
「"僕を守って"」
再び唱えた守護の命令に、爆発で壊れなかった壁材や床板が音を立てて剥がれ、ひしゃげて空中に浮く。ユナギリアスの姿を隠すように漂い出した。
波状に時間を置いて降り注ぐ魔術矢を、浮遊する瓦礫が受け止める。
瓦礫の数が多いため迎え撃って相殺する必要も無かったが、それでも顔に向かって来た矢に反射的に板材を顔に翳すように移動させ、防いだ。
一瞬。視界を覆ったユナギリアスは、向かいの建物の屋根から顔を出した騎士に気づくのに遅れた。騎士が構える筒がこちらを向いているのを認め。
胸元に、騎士が放った銃弾が迫っているのを認めた。
銃声が聞こえたのは、その後だった。


いつでも撃てるように長銃を構え、イリヤは好機を待った。
隣に居るフィッシャーマンはその好機を作り出すために、魔術矢での狙撃に集中している。空気中の魔力を吸収する全身の『目』を展開し、そのすべての瞳孔を狙撃力向上用の『安定剤』にて針先のように細め、魔術矢を放つことに全力を注いでいた。
吸血鬼に本意を悟られぬように慎重に、的確に、フィッシャーマンは矢を撃ち続ける。
吸血鬼の顔に向けて放った魔術矢に吸血鬼が瓦礫の一つを翳して防ごうとしたとき、イリヤは屋根に預けていた身を翻した。
まともに肉眼で吸血鬼を捉えたのはこの瞬間が初めてである。だが熟練の射手であるイリヤにとって、道路を挟んだ向かいの建物など手の届く程度の範囲でしかない。
「―――――奏でろ、《歌姫》」
術式解放の鍵文を唱え、イリヤは愛用の魔導式旋条銃《歌姫》の引き金を引いた。

 
銃声が聞こえた時には、すでに決着はついていたのだろう。
ハリーの目には、音と同時にユナギリアスの胸の上に現れた銃弾が"止まって見えた"。
青白い呪紋を帯びたそれは、一瞬の瞬きの後、自らが走り抜けるはずであった軌道上に呪紋と同じ輝きの杭を作り出した。
胸を魔術の杭で貫かれたユナギリアスは、声を上げることもなく仰け反り、倒れてぴくりとも動かなくなった。杭の刺さった傷口から、彼を拘束するように青白い呪紋が身体の表面に広がっていた。
終わったのだろうか、ハリーがユナギリアスを警戒しながら見つめていると、抑えていた部下二人の抵抗が無くなっていたことに気づく。まずはクロエの戒めを解き、無事であることを確認すると次にシレナの鎖を解いた。
そうしているうちに玄関の方から足音が近づいてきた。むき出しの長銃を担いだ中年の男と、それに従う少年。共に緑の氷刃騎士団服を着ていた。
誰か、などと問う必要もないだろう。ハリーが立ち上がり敬礼すると、クロエとシレナも倣って敬礼をした。
「助太刀感謝致します、グレフ殿」
「礼には及ばないさ。まさか、あれほどの吸血鬼が出るとは思わんだろう。あれは、貴殿らに引き渡す形でいいのかな?」
「はい。こちらにて取り調べを行います。この場の殺人事件と…巷を騒がせているグールの事件について」
「そうか。今あの吸血鬼は時間停止の魔術にて拘束してある。動かしても問題はないが、魔術は持って2時間ほどだから、処置は早めにな」
話していると、イリヤの連絡を受けた両騎士団が到着した。






拘束された吸血鬼ユナギリアス・セレディアは、2日かけて同居人ヴォイニッチ・セレディアの殺害を自供した。が、住居の隣地区で起こっていたグールの発生騒動に関してはかたくなに否定していた。
「だーかーら。何度言ったら解るのさ。そっちの事件は僕関係ない。僕がやったなら、足がつきかねないグールなんて残さないよ」
「お前自身がやらずとも、お前に仲間がいるということもある」
ユナギリアスは目隠しされた目で向かいに座る雪盾騎士を睨んだようだった。ユナギリアスの拘束は対魔族用のミスリル製の継ぎ目のない手錠とミスリル製の針金を編み込んだ全身拘束に加え、魅了の魔眼防止に厳重に目隠しをされていた。
「残念ながら僕に血を吸われて吸血鬼になった奴は一人も居ない。みんな、グールになって陽の光で灰になって消えたよ」
それまで会話をする姿勢で樫材の椅子に座っていたユナギリアスが、急に力尽きたように深く、椅子に座りこんだ。
「…いい加減にしてくれないかな。僕には、本来ならこんなことを言う義理なんて無いんだよ」
固定されていない首だけで天井を仰ぐ。
「僕にはもう生きることに未練はない。ビオ君の居ない世界に居ても仕方ないもの。どんな刑罰も甘んじて受けるよ。だから、早く取り調べを終わらせるために見ず知らずの吸血鬼の罪を被ってやっても良かったんだ。でもそれじゃあ事件自体は解決しないだろう。他に犯人が居るんだからさ。あの辺には見知った顔の人もいっぱい居るから、出来ればグールの事件は早めに解決してほしいんだけど」
仰いだ顔を下げたが、机の向かいに居る雪盾騎士のほうを向くことはなかったか。これ以上話すことも無い、というように。
取調室にはユナギリアスと交戦した騎士達が立ち会っていた。交戦時の状況に関しては拘束直後にあらかた調査しつくしたが、その後ユナギリアスの取り調べが進まなくなったため、今日改めて招集されたのだ。
ユナギリアスの様子を見、考え込んでいたハリーが尋ねる。交戦時ユナギリアスと同じ場に居たハリーは、実質戦っていた氷刃騎士達よりもユナギリアスの様子をよく見ていた。
「そこまで想っておきながら、なぜ殺したんだ? 食事のための吸血なら、彼でやる必要もないだろう」
「そんなこと、君たちに言っても解らない」
拒絶というよりは、ただ事実を述べると言った調子でユナギリアスは言い捨てた。
しばらく黙った後、静かに続ける。
「僕たちは唯一の食糧源として血を吸ってる訳じゃない。血を媒介にして"愛を吸っている"のさ。
心から愛しいと思ったものが現れた時、吸血衝動がくる。今回みたいにね」
次句が出るまでには、更に間があった。
「…そして、吸われた相手が吸血鬼に真の愛を持っていた時、吸われた者は吸血鬼になる。それが吸血鬼の『繁殖』。相手が心から吸血鬼のことを思っていなければ、みんなグールになるよ。例え処女童貞であってもね」
「え、よくある処女じゃないと吸血鬼にならないって嘘なんですか?」
「おいシレナ、」
「愛を量る指標の一つみたいなもんだよ。経験がなければ他を想ってる確率が少ないとかその程度。そんなの気にしてるのは成って日の浅い吸血鬼か、人間くらいなもんじゃない?」
つい軽い調子で尋ねてしまったシレナをクロエが諌めたが、ユナギリアスは気にせず答えた。
「ここまで話したならもういいでしょう? 愛したものを殺さずには居られないモノなんて、在っても仕方ないでしょう。僕も、気がつくまでだいぶかかっちゃったけど。……もう疲れたんだ。愛することも、愛するものを壊すことも、愛するものが居なくなることも―――――愛されない現実を目の当たりにすることも」
いよいよ語ることもなくなって、取調室に沈黙が落ちる。
役割は終わったというように部屋から出ようとしたイリヤが、ドアノブに手をかけようとする直前で動きを止めた。後ろにしたがっていたフィッシャーマンを手で促しながら、ドアの脇に移動する。
タイミング良く取調室のドアが開いた。伝令官の腕章をした雪盾騎士が、息を切らして部屋を見渡す。取り調べをしている騎士を見つけると、あわてて駆け寄った。
「どうしたフォンテーヌ?」
「大変です、隊長。安置所から死体が消えました…!!」
「なんだと?」
言われた意味が解らず、騎士は疑問符を浮かべた。この部屋に来たということは、消えた死体はここの犯人が殺害したものに違いは無いだろうが。
場の全員が伝令の意味を理解しようとしている中、拘束されているユナギリアスが、わずかに顔を上げた。だが伝令が聞こえている様子ではない。
ユナギリアスの動きに気づいたクロエが彼を見、そして目を見開く。
「たいちょ―――――!!」
クロエの叫びと音は同時だった。二枚分の硝子が砕ける音と、鉄格子が切断される金属の摩擦音。破壊されたのはユナギリアスの後ろにある取調室の窓だった。
硝子を踏み砕く着地音と共に音の主が取調室に降り立った。ここが3階であることや、金属の格子をやすやす引き裂く力など、驚くべき点はいくらでもある。だが、場に居た誰もがそれらを忘れるほどに驚いたのは、侵入者の容姿だった。
曇りガラスが除けられた窓から差し込む光が、彼の黒く染まった翼の輪郭を照らす。ゆったりとした患者服のような形の服の襟元は開いて、彼の死因たる傷の跡が生々しく覗いている。浅黒い肌に落ち着いた砂色のブロンド、鋭くきらめくような橄欖石の目は。
誰がその名を呼ぶよりも早く、彼はユナギリアスに歩み寄った。椅子に拘束されたままのユナギリアスを、後ろから抱きしめる。
「ユナ、どこ行ってたの? うちに帰ろう」
「……―――――ビオ、君?」
気が抜けたような、信じられないというユナギリアスの声が取調室に響いた。
「なんで…ビオ君が………?」
「ちょっと見ない間に面白い感じになってるね、ユナ。苦しくないの?」
ヴォイニッチがユナギリアスの頭に両手をかざすと、目隠しが風化したようにボロボロと崩れ落ちた。その手をそのまま身体の拘束にかざそうとして、手を止める。
「―――ヒューメラス、アルナ、クラヴィクル、スキャピュラ、《小剣成形》」
ヴォイニッチが唱えるたびに、白い骨が掌に現れ、それが組み上がって短剣になった。剣を一振りすると、ユナギリアスを抑えていた拘束が全て解かれた。
「はい、解けた」
「本当にビオ君なのかい? 君は…僕が、殺したはずなのに…」
ユナギリアスは立ち上がり、ヴォイニッチをまじまじと見つめた。いまだに信じられないという表情をしている。
「真の愛があれば血を吸われた者は吸血鬼になる。そういうルールなんでしょ? 俺はユナのことが好きだった。それだけだよ」
「でも、ごめんね…っ! ビオ君の羽のことも黙ってて…言ったら居なくなっちゃうんじゃないかって、心配で…。僕のせいで翼が黒くなっちゃったし……、ビオ君天使なのに…」
「泣かないでよユナ。俺、忘れてたこと全部思い出したんだ。自分のことも、ここに来た目的も、何もかも。確かに俺は天使だったよ。死神に使え、死を代行する役目を持ってウィンクルムに来た。その役目を思い出しても、それでも俺はユナを選んだんだ。ユナと一緒に居たいと思った。その想いがあったから、吸血鬼に成れたんだと思う。だから泣かないで、ね」
「ビオ君っ!!」
抱き着いてきたユナギリアスに、ヴォイニッチはあやすようによしよしと背中を叩いた。
その二人を冷静に眺め、沈黙以上に居心地が悪そうにたたずんでいたイリヤが話しかける。
「…そろそろいいかな、お二人さん?」
「そのまま帰れるとでも思っているのか?」
疲れた顔で長銃の包みを解くイリヤとは対照的に、フィッシャーマンは二人の様子など気にもかけていないのか戦時に望む不敵な笑みを浮かべている。ハリーやクロエ・シレナ、そして取り調べをしていた雪盾騎士も同様に戦闘態勢に入っていた。
今になってようやく彼らに気づいたようで、ヴォイニッチはあたりを見回し首をかしげる。
「誰この人たち?」
「ヒューフロストの騎士さんだよ。僕がビオ君殺しちゃったから、僕犯罪者になってんだよね」
「え、別に俺は困ってないけど?」
「ビオ君の感情の問題じゃないんだよねえ…」
ユナギリアスは苦笑しつつ、ヴォイニッチを庇うように立った。
「この人たち倒さなきゃ帰れないんなら、手伝うよ。―――ヴァーテブラル、スターナム、リブス、ペルヴィス、フィーマ、ティビア、フィビュラ、《大鎌成形》」
詠唱と共に骨が大鎌を形作り、ヴォイニッチはそれを構えた。
にらみ合いの、一触即発の空気を崩したのはやはり取調室の入口から来たものだった。
誰もが完全に気の外に置いていた部屋の入口に現れた聖服の男は、室内の様子を認めてなお笑いながら入ってきた。彼に従って二人の祭務官も入室する。
「はいはい、ストップ。みんな武器を収めてね。ボクの話を聞いて欲しいなあ」
何がおかしいのかクスクス笑う男の顔に、思い当たったイリヤとハリーが敬礼をする。二人の部下も、上司に倣った。
「初めまして、ボクは情報局長のヴェルゼル・タングレイ。その二人の身柄を引き取りに来た。情報局員としてスカウトにね。疾く引き渡してもらえるかな、ええと、ここの責任者は…」
「お言葉ですがタングレイ情報局長猊下、この吸血鬼は殺人事件の容疑者であり、居住区のグール騒動の重要参考人で…」
食って掛かった取り調べを主導している雪盾騎士に、タングレイは手にしていたファイルを突きつけた。
「タダでとは言わないよ。今回のグール騒動の主犯の居場所、これと彼らの身柄を交換だ。ねえ、雪盾騎士団長?」
振り向かないまま、タングレイが呼びかける。呼ばれて、雪盾騎士団長が入口から姿を見せた。
「この資料が無いと、今の君達じゃあすぐには見つけられないだろうね。情報局でも2日かかったんだから。受けるの? 受けないの? 犯罪者を野放しに~なんて見当違いな文句は受け付けないよ。重犯罪者であっても、管理と始末の責任を負う条件で情報局への引き渡しは法的に認められている」
「……………」
「もう被害者が吸血鬼として復活しちゃってる時点で殺人として立件も難しいでしょー? ボクらにくれた方がいいと思うんだけど?」
「勝手に話を進めないでもらえるかな?」
無言の雪盾騎士に話続けるタングレイというやり取りに、ユナギリアスが割って入った。
「ああ、君が殺人犯のユナギリアス・セレディア君、後ろのが被害者のヴォイニッチ君だっけ。悪いけど君達の意思は特に聞いていないから。身柄の所在交渉は、情報局と雪盾騎士団の問題だ」
「僕らの身柄なのに僕らが無関係ってことは無いじゃない?」
「君達も、解ってないね」
やはりユナギリアスの方を向かずに、タングレイは笑った。
「事件として立件できないなんて、正攻法としてってことでしかない。君達は二人とも旅客だから、今この場で始末してでっち上げなんていくらでも出来るんだよ? 君が取り調べ中に暴れたとでも言えば、裁判の必要すらない。よーく弁えるんだね」
不穏な発言に、ヴォイニッチの敵意は周りの騎士からタングレイに集中した。ハリー達雪盾騎士にも動揺が走る。
だが、タングレイの発言に何かを理解したユナギリアスは、わずかに目を見開き、そして笑った。同じく意図に気づいたイリヤは肩を落として嘆息する。
「なるほど…。それで、僕らがそちらに行くメリットは何かな?」
「この場の命の保障はしてあげよう。さっきも言ったように、君達の状況は限りなく悪い。こちらに来たら、君達は祭務官見習い扱いでボクの保護下に置かれる。見習いでも祭務官は国家公務員だからね、騎士でも迂闊に手出しは出来ないよ。例え魔族であってもね」
「メリットを聞いているんだ」
「情報局員の見習いは専門の学校に通うことになる。君達なら戦闘面では申し分ないから、この国の歴史とか法律とか、そういうことを習うだろうね。たぶん2年くらいで終わるんじゃないかな…もっと早いかもしれないけど」
ようやくタングレイはユナギリアス達を見た。
「ボクは芸術方面のことは疎いけどさ、学校に通いながらでも、2年もあれば教会の壁画は完成するんじゃない?」
「…上等じゃないか」
「ユナ、この人信じて大丈夫なの?」
「性悪だけど、こちらの利はあるよ。たぶん大丈夫」
「酷い言われようだ。でも正直者は好ましいね。あとは君だけだよ、雪盾騎士団長?」
やり取りを見ていた雪盾騎士団長は、深くため息を吐いて首を横に振った。
最初から雪盾騎士団には選びようのない選択肢だった。確かに今の段階でユナギリアスとヴォイニッチの両名を始末して殺人事件を無理やり解決させることは出来るだろう。人道的な問題があるにせよ、ユナギリアスは確かに殺人を犯したし、ヴォイニッチは確かに死んだ者なのだ。
だが、例えその企みを彼らに知られていなかったとしても、彼らを始末すること自体がまず無理だった。倒そうとすれば彼らは抵抗することだろう。この場の戦力は少なくはないが、相手は真祖の吸血鬼と元告死の天使。討ち取らねばならぬこちらと違い、逃走するだけでいい彼らに勝つのは至難の業だ。
そして、彼らに逃げられてデメリットがあるのは、ただ雪盾騎士団だけなのだ。
「貴方の好きなようにしてください、タングレイ猊下」
「話が解る人で助かるよ。閣下」
タングレイは持っていたファイルを雪盾騎士団長に渡すと、ユナギリアス達に歩み寄った。受け取ったファイルを見ながらハリー達を呼び寄せグール騒動の鎮静に乗り出した雪盾騎士団長をしり目に、タングレイはユナギリアスに手を差し出す。
「じゃあ改めてよろしくね、ユナギリアス・セレディア君、ヴォイニッチ・セレディア君。―――この後ろに居るのが君達が編入する養成所のクラス長ヴァルハール君とミクシー講師。アンセル、二人を情報局へ案内してあげて」
「はい、局長猊下」
命じられると、アンセルは一歩前に出てお辞儀をした。
アンセルの案内で、ユナギリアスとヴォイニッチは取調室を出た。情報局本部へ向かうというアンセルに二人はついていく。
後ろをくっつくように歩いてきたヴォイニッチが、不意にユナギリアスの手を掴んだ。そして歩きやすいように横に並ぶ。ユナギリアスが横を見ると、こちらを伺うように見上げるユナギリアスと目が合った。無性に笑みがこぼれる。
掴んできた手を、ユナギリアスは握り返した。もう二度と離すことは無いと言うように。


ユナギリアス達が出て行ってからしばらくして、タングレイとミクシーも取調室を出た。
ハリー達に命令を終えた雪盾騎士団長に礼を言ったが、取り調べを主導していた騎士と共に冷たい視線を返されただけだった。立ち会っていた氷刃騎士にも、微妙な目線を浴びせられた。
「あまり強行な手段は推奨しかねますね」
「んー? でもあれくらいしないと、雪盾は絶対ボクらの情報なんて受け取らないっしょ。事件調査は彼らの役目の一つなんだし。情報局は、尋ねられない限り他機関に情報を出さないのがルールだし?」
後ろに従うミクシーは、淡々とした口調で意見を示す。
「まあ面白い手駒が欲しかったのは事実だけどね。吸血鬼と元天使なんてレアカード、なかなか手に入らないもの。センパイに対抗するには出来る限り強いのをたくさん集めないと、倒せない」
「…不穏当な発言は、局員の前でも控えて欲しいですね」
タングレイがセンパイと呼ぶのは、元情報局員にして現在はヒューフロストの宰相位に着く男のことだ。タングレイは彼を目標として、そして倒すべき対象として見ていた。
「まあ、今回は丸く収まったからいいじゃない」
「丸く、ねえ…」
出かけた言葉を、ミクシーは飲み込む。振り返ったタングレイが、こちらに笑いかけてきた。毒のような鈍い水銀色の目を向けて。
誇り高き氷刃騎士団長や、国の外観を第一に考える外務局局長、そして言わずと知れたヒューフロスト王国宰相。誰にも厳しいとか冷酷だとか云う噂は数あるが。
(私は、この情報局長が一番恐ろしい)
ミクシーは胸の内でそう唱えた。





一か月後。
ユナギリアスが壁画制作を請け負った教会には、制作に必要な足場が組み上げられ、必要な画材が運び込まれていた。見慣れない道具や作業に、教会の孤児たちが集まっている。
「作業、始まるんですね」
「はい。ようやく、描きたいものが固まったので」
カンバスとなる壁の前で、壁全体が見渡せるように足場から離れたところで構想図を広げて立つユナギリアスにシスターは話しかけた。
「ねえユナ、中心線の終点はこのあたりでいいかな?」
「うん、そのあたりー」
足場の下で、基準となる線を引くための点を定めているヴォイニッチに、ユナギリアスは応える。
ヴォイニッチだけではなく、足場の上の方には同じく基準の点を打とうとしている者や足場の組み上げをしている者が居た。アンセルや、他にもユナギリアスと同じ教室で学んでいる情報局員見習いの学生だった。
「レェテちゃんは一歩左、ロックス君はもうちょい下かな?」
「ミスタ・ユナギリアス、足場はどの程度まで組めばいいですか?」
「あと二段は欲しいな」
「楽しそうですね、セレディアさん」
「え?」
指示を出していたユナギリアスを眺めて、シスターは微笑んで言った。
「セレディアさんって、明るくて人当たりがいいけどもいつも人と距離を置いているような感じがしていたので…。ヴォイニッチさんが一緒に来るようになったときも、どこかよそよそしいところがあるように見えていたので。こんなに大勢の人を連れてくるなんて、なんだかほっとしちゃったんです」
「え、僕そんな風に見えてたんですか?」
「…はい。一人で渡っている旅人さんだって聞いたから、もしかしたら人と関わりたくない事情でもあるのかと思っていたのですが…そんなことは無かったんですね」
「―――――いえ、無かったわけじゃないんです。それを乗り越えることが出来たから…こうして、絵が描けるようになったのかも知れません」
「どちらにせよ、良かったわ」
微笑むシスターに、つられてユナギリアスも笑った。
「あ、しまったっっ!!」
「ちょ、何やってんだよシュラ!」
足場の最上段へ丸太材を運び上げようとしていた学生が、手を滑らせた。落ちた丸太が下に居たヴォイニッチともう一人の学生の頭上に迫る―――。
「ビオ君!!」
「―――ヒューメラス、アルナ、クラヴィクル、スキャピュラ、《小剣成形》」
素早く骨の短剣を出したヴォイニッチが、剣を振り抜く。剣先が丸太をかすめると、風化したように丸太が朽ちた。
「す、すごいなお前。なんでも朽ちさせられるのか?」
「…なんでも、ではない。俺は植物専門の告死天使だから、植物もしくは植物製品しか魂を抜くことは出来ない」
「植物、専門? 死神には分野に専門があるのか?」
「ん。死に仕える天使は石専門とか、水専門とか、虫専門とかいろいろある。人間なんかは死神様じゃないと魂を狩ることは出来ないんだけど」
「へえ…すごいんだな」
丸太の脅威を払いのけ、ヴォイニッチと一人の学生が何やら話をしている。
始終を眺めていたユナギリアスは、胸を撫で下ろした。駆け付けようと一歩踏み出した足は持て余したが。
「あ、僕も向こう行ってきますね」
一歩踏み出した体勢のまま、ユナギリアスはシスターに笑いかけ、足場の下まで走って行った。
「きっと、いい絵が描けますね」
離れるユナギリアスの背中に、シスターは呟いた。楽しそうな彼らを見ると、完成する絵の雰囲気も自然と伝わるようだった。
彼らに後でお茶でも持っていこうか、そんなことを考えながらシスターは聖堂を後にした。



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