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このブログは企画系創作作品をまとめたブログです。主更新はオリキャラRPG企画になっております。
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ヒューフロストのモブの話です。
…モブの話です。
今まで書いてきたものの中で一番長いとか…;;
『我が最愛の人々』が完結すれば、そっちのが長くはなるんですが。
普通にやり過ぎたよね…でも一個話を作ると、だいたいこのくらいの長さになりますよね?()

ほぼ自キャラ(というかヒュー国モブキャラ)100%ですが、ほんの少しだけネメシスさんお借りしてます。
名前は出てませんが姿だけ…。

一人称視点の文章を書く練習にと思ったんですが、やはり自分は苦手なようです。

よもや企画ブログにこんな文言をつける羽目になるとは思ってなかったのですが。
びぃえる時空注意報、発令中です。今回は言い訳できません。




鮮烈な陽の光の下へは出られず。
聖なる祈りを得た銀に触れられず。
この世以外に留まる場所を知らず。
流れる水を渡ることも出来ない。

そんな僕でも彼に触れることは赦されるでしょうか。
僕が触れることで穢れ堕ちる彼に、赦しを乞うことは赦されるでしょうか。
もう決して届くことの無い言葉を唱える傲慢を、何者かに赦されるでしょうか。

或いは誰かが何かが僕を断じてくれるでしょうか。

僕はもう僕を赦すことが出来ないのです。
それでもこの身は、愛無しでは居られないのです。



■ユナギリアス・セレディアの供述調書1


この路地を抜けた先が僕の家。うっすら飾る程度に雪が降るこの街は、雪国の不便も無くとても住み易い場所だった。港が近く、図書館や冒険者ギルドの総本山があるため人の出入りや行き来は盛んだが、居住区までは流石にそのような様子も無い。僕自身も元々はそういうものだったのだけど。3年足らずしか暮らしていなくとも、すれ違う人は大体顔見知りだ。
近所の教会が内装を改修するから壁画を描いて欲しいと頼まれてから、あまり通ることのなかった裏の路地をよく通るようになった。僕のようなものに頼まれること自体が意外だったけど、カンバスを与えられることは絵描きとしては嬉しいことだ。
絵の構想のために教会へ通い、今もその帰り道。
薄い月明かりに小雪がちらつく通り慣れてきた道に、ふとした違和感があった。建築の都合上路地に出来た袋小路。カラスか野良猫がたむろするくらいしか用の無いその場所に、人が倒れている。
こんなことを言うのはどうかと思うけど、運命だと思った。建物の隙間からこぼれる月の光に浮かび上がるように照らされて、彼は眠っていた。御伽噺の眠り姫に逢った気分だったよ。
でもさ、彼の周りは血溜まりでね。頭が割れてたんだ。他にも幾つか目に見えて傷があった。かすかに呻いた息がまだ白くて、雪も血溜まりに溶けて消えていっていたから、まだ生きてると思って急いで担いで家に連れて行ったんだ。誰にも見られないようにね。街のど真ん中でこんな目に遭ってるってことは誰かに追われてたんじゃないかとも思ったけど、そのときにはもう気付いてたんだ。血溜まりに溶け残っているものが、雪じゃないってね。
それからはがんばって手当てをしたよ。家にはろくに救急道具も無かったから、応急処置だけして急いで道具を揃えに走って。
丸一日眠って、そして彼は目を覚ました。文字通りに、それだけだったけど。


「おはよう。行き倒れてたから拾っちゃったけど、大丈夫だったかな? 一体なにがあったんだい?」
「………だれ?」
「僕はユナギリアス。この街に住んでるしがない絵描きだよ」
目覚めた彼は、開口一番に尋ねてきた。
「街? ここは…街?」
「? そうだよ。大陸一の図書館の街インテグラ。君、あんまり分からないで来たおのぼりさん?」
「インテグラ………街……人間がたくさん居る…」
何かをぶつぶつ喋ってる。さっぱり要領を得ないやりとりに不安になった僕は、仕方なく尋ねてみた。本当なら、自分から言い出すまでは聞かないでおこうと思ったのだけど。
「君、名前は?」
「名前?」
そこから疑問なのか。本当にしょうがないので、サイドテーブルに置いておいたドッグタグっぽい金色のプレートを彼の目の前に差し出した。
「『Voynich』ってこれ、君の名前じゃないの?」
首にかけてあげると、ヴォイニッチ君はまじまじとタグを眺めていた。そのうち齧りだすんじゃないかと心配したけど、流石にそんなことはしなかった。
ひとしきりタグを眺めてから、ヴォイニッチ君は顔を上げた。まだ表情に生気は戻りきらないけど、目はしっかりと僕を見てる。そのシャトルーズグリーンの瞳の美しさにどきりとしながら、僕は再び尋ねた。
「でさ、君はどうしてインテグラに来て、街のど真ん中で倒れてたの?」
「……よく、わからない」
「わからないってのが解らないよ」
「…思い出せないんだ。どこかに行こうとしてたのは覚えてる。でも…それはここじゃなかった。そしてたぶん……俺が“元々居た場所も、ここじゃなかった”」
「うーん、要するに記憶喪失?」
「キオクソウシツ…記憶がなくなること……多分、そう」
ヴォイニッチ君は小さく頷いた。
その後も幾つか質問をしてみたけれど、彼の正体に至れそうな答えは出てこなかった。ときおり質問に使った単語自体を認識しないことがあったけど、それが記憶喪失によるものなのか、それとも元々彼が知らなかったのかも判らない。どうにも後者のような気がするけど。
質問の種に詰まって、つかの間部屋に沈黙が流れた。
窓からはオレンジ色の光が差して、まもなく訪れる夜の気配が街に落ちてきてる。綺麗に見える夕焼けに明日は晴れかと思いながら、空に向けていた視線を落とす。アパート前の通りには、家路を急ぐ人がまばらにしか居ない。昨日救急道具を買って帰って来てから外の様子に気を配ってはいたけど、特に変わった様子はなかった。

判っているのは、彼がこの街の人間ではないこと。
判っているのは、彼が只者ではないということ。
判っているのは、彼はとても厄介なことを抱えているであろうこと。

それでも、言わずには居られなかった。
「ねえ、ヴォイニッチ君。今の君は行く宛も無いし、何故ここに居るのかも解らない。だからさ、君が君のことを思い出すまで、うちに居るってのはどうかな?」
「え?」
突然話しかけられたからなのか、意味が理解できなかったからなのか。ヴォイニッチ君は小さく首を傾げる。
「こんな状態の人、ほっとけないでしょ」
「人間って、そんなもの?」
「そうだね。人間って、大体そう」
自分の言ったことに、思わず吹き出す。ヴォイニッチ君は何が面白いのか分からないみたいだけど、それは分からなくてもいいことだから。
「それでね、ヴォイニッチ君。僕にはちょっと君の名前が呼びにくいんだ。だからさ、君の事『ビオ』って呼んでもいいかな?」
「……構わない」
「本当? じゃあよろしくね、ビオ君」
それは今日投げかけた言葉の中で、唯一しっかりとした返事が返ってきた言葉だった。



■ユナギリアス・セレディアの供述調書2


「ビオおにーちゃん遊んでー!」
「はだの色が白じゃない?! どうして? コーヒーいっぱい飲んだのー?!」
「こらこら、ビオお兄ちゃんを困らせちゃダメでしょ」
周囲を子供達に取り囲まれておろおろするビオ君を、僕は教会のシスターと並んで眺めていた。途中で助けに入った子供達の中では一番年上の少女がうまく子供達をいなしているのを見て、ビオ君が目を丸くしてる。
「それにしても…親戚の方とは言え、いきなり同居とは。大変でしょう?」
「いやあ、そうでもありませんよ。ある程度は自分のことも出来る年齢ですし、家は独り暮らしには広すぎますし、何より独りで生活させてるほうが不安ですしね。ど田舎の村から色々なことを学びに来るならインテグラは適所でしょう。それに、壁画を本格的に描く作業に入ったら、助手が必要になりますから」
僕の言葉に教会のシスターは「ああ」と頷いて、壁画が描かれる予定の壁を見上げた。
ビオ君は学業のためにはるばる街にやってきた僕の親戚の子ということで落ち着いた。本当は情報局に名前を言って、入国記録のある旅人と照合したほうが良かったのかも知れないけど、何かに狙われているかも知れないのなら、なるべく彼の存在は隠した方がいい。
かと言って彼の様子では家に独りで置いておくのも不安なので、結局身元を偽らせて僕と一緒に居るのが一番安全という結論に達した。本人は自分のことを知らないのだから、身元を偽るというのもおかしな表現だけどね。
「ユナ、」
ようやく子供達の包囲から脱出したビオ君が走り寄ってきた。
「そろそろ行こう。今日は寝室の花瓶用に新しい花を買うって言ってたろ? 早くしないと、花屋さんが閉まっちゃうよ」
「あ、そういえばそうだったね」
シスターと子供達に別れの挨拶をして教会を立ち去る。と、出て行く直前、シスターに呼び止められた。
「そういえば…近頃この辺りで、夜に出歩いた人が何者かに襲われて大怪我をするという事件が多発しております。セレディアさんもどうかお気をつけて」
「それは恐ろしい。でも、僕の聞いた話では襲われてるのは若い女性ばかりだって聞いてますよ。僕とビオ君じゃあ条件に当てはまらないでしょ」
「念のために、用心しておいたほうが良いと思います。セレディアさんの家は、ここからちょっと歩くでしょう」
「ご心配ありがとうございます。確かに、用心するに越したことはありませんから、気をつけて帰るとしますよ」
手を振る子供達に手を振り返して、僕達は教会を後にした。
それからはさっさと花屋に寄って、家路を急いだ。この時期なら日没まではまだ時間があるけど、明かりがあるうちに家に入っておきたかったから。
最初の頃、足取りがおぼつかなかったから手を繋いで歩いて、後は癖のようになってしまい、今も僕はビオ君の手を引いて歩いている。自然と早まる足の動きに、ビオ君は不思議そうだった。
「ユナ、そんなに急がなくても大丈夫だと思うよ」
「うーん、まあ、念のため、ね。シスターさんも言ってたけど、気をつけるに越したことはないし」
「ユナってさ…」
「なに?」
「何か俺に、言えないことでもあるの?」
思わず、足が止まる。急に立ち止まったものだから、ビオ君が止まりきれずに背中にぶつかってきた。振り返るのが怖かったけど、なるべく平静を装ってビオ君に向き直った。心配していた猜疑の視線などは無く、ビオ君は普段どおりの顔に単純に疑問符を浮かべているだけだった。
「俺は自分のこと、覚えていないから言えないけど、ユナも何か言えないことがあるの? たまにさ、ユナって何かを避けてるみたいに見えるから…」
「……そりゃ、僕にだって他人に言えないことの一つや二つ、あるよ。誰だってそんなもんさ」
「そうなんだ…。……あのさ、ユナ」
「なに?」
「今度、スケッチブック見せてよ。部屋に飾られてるラフは見たことあるけど、その壁画用のスケッチブックはまだ、見たこと無いから」
「………ん、あ、ああ。これ? ビオ君まだ見たこと無かったっけ?」
ようやく、自分の勘違いに気付いた。焦っていたせいで分からなかったけど、ビオ君の視線は僕の持っているスケッチブックに注がれていたのだ。いつの間にか僕は、繋いでいた手を離して拳を握ってる。誤解が解けるのと同時に、握っていた手をゆっくりと開いた。
「さっき、俺に壁画制作の助手をして欲しいって言ってたろ? 教会の皆には完成まで秘密にしておきたいのは解るけど、だったら俺には見せて欲しいなって…駄目かな」
「そ、そんなことは無いよ! でも、今はラフ前みたいなのもあるし構想もまだ固まりきってないから、もうちょっと後にして欲しいかなーなんて…」
「うん、ユナが見せてもいいって時になったらで良いよ。だけど、手伝うのなら俺が一番最初に見たいな」
「それは約束するっ! 絵を見せるのはビオが一番にする。だから、もうちょっと待っててね?」
「うん、待ってる」
ビオ君がうっすらとだけど、微笑む。最初の頃は表情が薄かったけど、最近は感情が表れるようになってきた。それにしてもずいぶん表現の幅が狭い感じがするけど、どうやらそれはビオ君本来の気質のようだ。
思わずビオ君の笑顔に見惚れてしまったけど、我に返って慌ててビオ君の手を取った。
「あ、あんまり立ち話しててもアレだよねっ! 帰ろっか?」
「うん」
返事を聞く前に歩き出していた僕に、ビオ君は素直に返事をしてついてきた。さっきまでの引っ張られるような感じとは違い、今は早歩きにも気にせずついてきてくれた。
「シスターさんに危ないかもって言われてたのにね。引き止めてごめんね」
「ううん、いいんだ。明るいうちなら、大丈夫だから。きっと…」
僕は自分の心配事を気付かれていないことに内心ほっとしながら、家路を急いだ。


******************************


夜。
居住区の路地をさまよう人影があった。
人影は何かを探すように、だが大きな通りは避けてふらふらと歩いている。
動くものは人影と、野良の犬猫くらいだった。不審者の噂が流れているのだから当然と言えば当然か。
だから、ようやく感じ取った犬猫以外の動くものの気配に―――――それが人影の望むものでないとは理解していても、明確に反応を示した。
言葉は無い。代わりに、威嚇にもならない反射のような呻きが響く。なぜなら人影はあくまで『人影』でしかなかったからだ。人の形をしているもの、人のような輪郭をしているもの。人影が人影たるのはただそれだけだった。血で濁った目には何も映さず、頬の片方はもう肉が無い。融けた肉と溢れた血が服を汚し腐らせ、服に開いた穴からは骨まで見え隠れしている。
どう見ても、人影は死体だった。
その死体に見据えられ、ユナギリアスはため息を吐く。
「はあ…。もしかしてと思ったけど、やっぱりとはね。当たって欲しくない勘ほどよく当たるもんだ」
肩をすくめてから、ユナギリアスは人影を睨み据えた。緑青色の虹彩に、微かに赤い光が差す。
「グールになっても襲う人間選別してるあたりそれなりに知性が残ってるんだろうけどね。君に居られちゃ僕の身にも危険が降りかかるかもしれないから、始末させてもらうよ」
両手を下ろしたまま、正中を隠すように体幹を斜めにして立つ。
「…別に、グールに成ったことを責めるつもりは無いよ。ただ、君にとって君をグールにした誰かさんは一番じゃなかったってだけのことだものね」
グールが咆哮を上げて、突進してくる。ユナギリアスは目を細めた。
「………やっぱり君たちも後悔とか、してるのかな?」
自然とこぼれた疑問符は、問い掛けには成らなかった。
疑問を口にする頃には、勝負は決していたからだ。突進してくるグールに向かって半歩、同時に突き出されたユナギリアスの右腕は、グールの胸を貫き、完全に心臓を破壊していた。
「じゃあね、名前も知らないグール君」
グールは日の光に当たれば灰となって消え去る。
ユナギリアスは少し考えてから、グールを朝日の当たりやすそうな場所に引きずって行き、その場を立ち去った。



■ユナギリアス・セレディアの供述調書3


日の光を恐れるようになったがいつの頃からだったのか、もうはっきりとは思い出せない。最近のことだったような気もするし、最初からそうだった気もする。
恐れると言っても、まったく光がダメな訳じゃない。朝焼けや夕暮れは直視できるし、昼間だって、薄曇りくらいなら日傘無しでも出歩ける。直射日光は無理だけれど、今暮らしてるインテグラや、元々僕が暮らしていた場所も、そこまで鮮烈な日の光が差すことは無かった。もっと西の地域には太陽が強い土地もあるようだけど、きっと行くことは無いだろう。
それでも。つい日に背を向けてしまうのは、体質のせいではなく気持ちの問題なんだろうね。
カーテン越しに幽かな朝日が差す窓を背にして、僕は座っていた。どうにも早く起きてしまって、もう一度寝る気にもならなかったから、スケッチブックを開いていた。と、言ってもこの部屋にはベッドとサイドテーブルのセット以外、特に物なんて無いんだけどね。
暫く鉛筆を走らせていると、小さな呻き声と共に毛布が動いた。寝返りかなと思った矢先、枕のある辺りから淡黄緑色の目がこちらを向いた。
「ごめんね、起しちゃったかな?」
「ううん…なんとなく、目が覚めただけ」
「もうちょっと寝ててもいいよ。今日は出かける予定も無いし」
「…大丈夫。そんなに眠くも無いから」
言いつつ、ビオ君は毛布を被ったまま体勢だけ僕のほうを向いて、寝転がってる。起き上がって毛布から出るにはまだ寒い時間だからね。
「ねえユナ、」
「なに?」
「もしかして、俺のこと描いてる?」
図星を突かれて思わず手が止まった。
「…やっぱ、解る?」
「その向きだとベッドしか見えないからさ。もしかして、スケッチ見せられないのって、そういうこともあったりする?」
「ま、まあ。そういうこともあるかな?」
焦る僕の様子が面白かったらしく、ビオ君はくすくすと笑ってる。
「俺なんて描いても仕方ないでしょ」
「そんなこと無いさ。人間の動きを描くときは、実物を見たほうが良いんだから」
「そうなんだ?」
「そうだよ。色々描きとめとけば使えるかもしれないからね」
「もうどんな絵を描くか決まった?」
「今一歩って感じかな…」
何を描くか・どんな感じにしようかというイメージは固まってるんだけど、それを表すのに最適な構図が思いつかない。悩んでる時間は苦しいけど、その分自分で納得できる絵が描けるから嫌いな時間ではない。
「教会壁画って、一般的にはどんなものを描くの?」
「その土地の宗教に則したものなんじゃないかな。僕の生まれ故郷では樹とか…天使とか。あとは聖人かな。ヒューフロストなら国教の雪の女神様だろうけど、この国の教会はどちらかというと役場だからね…。僕が依頼を受けたところは、宗教施設の色が強いところみたいだけど」
ヒューフロストでは国王は雪の女神の末裔とされ、それに仕える公務員は聖騎士や祭務官…要するに聖職者として扱われている。そのためなのか、教会と呼ばれている施設の多くは役所や関所・葬儀場を併設していた。むしろ、それらの公共施設を一括りに教会と読んでいる風だ。宗教国家でもあんまり見ない…というか、宗教国家だと教えは神聖なものだから、冠婚葬祭施設はともかくとして役所や関所のような分かりやすい政治施設とは切り離されてるものなんだけど。
僕が壁画の依頼を受けた教会は役場のような役割はしてはいないけど、公民館と孤児院を兼任しているところを見るに、政治施設なんだろうね。孤児院運営は国策みたいだし。
「というか、この国の神様は訳解らないのが多いからね…。かつてこの地に暮らしていた氷妖の文化が基盤になってるせいなのか知らないけど、自然信仰の形が原始的過ぎるというか…」
「俺にはよくわからないや」
「うん、まあ、ね。僕の個人的な感覚の問題だし、解らなくていいと思うよ」
「そっか…。あ、そろそろ俺も起きる。朝ご飯作らなきゃね」
「ん、もうそんな時間か」
スケッチブックを閉じて、傍らの机に置く。ベッドサイドまで行って、立ち上がろうとするビオ君に手を貸そうとした。
ベッドに座ったビオ君は、その差し出した手を…というか、僕の顔をじっと見ていた。表情は普段と変わらない少し眠たげな無表情。あまりの熱視線に思わずちょっとひるむ。
「ど、どうしたのビオ君…。僕の顔になにか付いてる?」
沈黙に耐え切れず、心にも無いことを言ってみた。そのせいで、唐突に動いたビオ君への反応が遅れてしまった。
一瞬で、視界の半分が砂色に埋まった。それがビオ君の髪の毛だと気付いたと同時に、頬に軽く触れるものを感じた。
「………どうしたの、ユナ?」
一瞬の思考の空白の後、ビオ君が僕の顔を覗き込んでいるのが見えた。顔の高さは僕よりもちょっと下くらい。いつの間にかベッドからは立ち上がっていたようだ。
「び、ビ、ビオ君っ…、今、何を…!!」
「何って、」
「言わなくていい! むしろ今は言わないで!! ちょっと気持ちの整理をつけるから!!」
変なユナ、とビオ君は首を傾げている。僕は急いでビオ君に背を向けて、動悸を治めるためにゆっくり深呼吸をした。無意識に顔を覆うように当てた手が、熱い。今鏡を見たら、顔が赤くなってるに違いない。
今、ビオ君にキスされたよね…?
「えっと、教会のシスターさんと子供達が教えてくれたんだけど、親しい人への親愛の情を、こうやって示すって。…迷惑だったかな?」
「そ、そんなこと無いよ! むしろすっごく嬉しいしビオ君からなら大歓迎っていうか…じゃなくて! いきなりでちょっとビックリしただけだから…」
落ち込むビオ君の手を握って、かなり力いっぱいまくし立ててしまった。落ち込んでるビオ君って、雨に濡れてる犬みたいでなんか無性にほっとけなくなるというか…どうにか抱きしめることは自制できた。
「…そう、良かった」
若干引かれるんじゃないかとも思ったけど、ビオ君は微笑みで返してくれた。というか、ふっ、と吹いたようだった。
「ど、どうしたのビオ君?」
「いや、前もユナが同じようなこと言ってたのを思い出して、なんだかおかしくって…」
「前? …あ、ああ。そういえば前にも、似たようなこと言ってたっけ」
「ユナってば、面白いね」
「僕には、ビオ君のほうがよっぽど不思議で面白いよ」
笑うビオ君につられるように、僕も笑った。つられなくても、ビオ君の愛おしくなる動作を見れば、自然と口元が緩む。
でも、笑顔の裏で、先程とは別の理由で僕の鼓動が速まるのを感じていた。
あの時抱いた不安を、今再び思い出してしまったから。そしてその不安は、あの時よりももっとずっと大きくなっていることを、理解できたから。


******************************


「はあ……この頃多いなぁ…。ほんと、こいつらの親玉は何を考えてるんだろ」
レンガ造りの壁の背を預け、上がった息を整えながら、ユナギリアスは呟いた。
ユナギリアスの全身は血で濡れていた。自身から出たものではないとはいえ、気持ちの良い状態ではない。
彼の居る路地の奥、月の光が届かない陰には血の持ち主であったグール達が折り重なって倒れていた。
「新人さんなのか、現実逃避なのか、単に大食いなのか…。なんにせよ、困ったさんだね」
頬に着いた血を拭い、指先を少し舐める。「まずっ」っとユナギリアスは顔をしかめた。
ユナギリアスの住む居住区付近に出現するグールの数が、このところ増えてきていた。相変わらず襲われたという人の話しか聞かないところを見ると、付近の住民がグール化している訳では無さそうだが、それでもこの街に彼らをグール化させている親玉が居るのは間違いない。
もしかすると自分が先手を打ってグールを倒してしまっているから街の騎士団が事態を把握していないのではないかと思い、最近は倒したグールを陽の光の当たらないところに放置して死体が消えないように努めてはいるが、目立ったグール対策の動きなどは市民の目線からは察知できていない。親玉がここに居なから、別地区で騎士達が調査をしていることはあるのかもしれないが。
息が落ち着いて、ユナギリアスは小さくため息を吐いた。胸に手を置いて。
呼吸は整った。心臓の鼓動も元に戻っている。
だが、頭の奥か胸の奥で、或いは喉の奥でざわめくように騒ぐ『何か』は治まらなかった。
「……………喉、渇いたな」
胸に当てていた手を喉元まで引き寄せて、ユナギリアスは天を仰ぐ。月明かりに照らされた貌は月よりも白く、笑っているようにも泣いているようにも見えた。



■ ユナギリアス・セレディア 最後の供述調書


人が想像しうる全てのことは、起こり得ることなのだという。
そしてどんな事象も、来て欲しくないものほど迅速に、唐突に起こる。
いつも通う教会を出ると、ちょうど通りかかった女性と目が合った。
深い、金色の目。
彼女は僕を気に留めていなかったけど、僕は彼女に釘付けになった。すれ違う誰も気付いていないけど、彼女は、人間ではない。だって、彼女と遭うことにより起こるであろう事象は全てが絶望的な結果に向かうと解ってるのに、彼女から受ける印象は、ビオ君と初めて出逢った瞬間と相違なかったんだから。
なぜ神族がこんなところに、なんて考えてる暇も無かった。この人とビオ君を会わせちゃいけないと思ったから。まだ教会の中に居るはずのビオ君を引きとめようと踵を返すと、運が悪いことに、ちょうど出てきたビオ君と鉢合わせた。
「どうしたのユナ、そんなに慌てて?」
不思議そうに尋ねてくるビオ君に、うまく場をやり過ごすような言がとっさに出てこなかった。最も、ビオ君が外に出てきてしまった時点で、何を言っても手遅れだったんだろうけど。
僕を見ていたビオ君の視線が、僕の肩の奥へ向く。振り返ると、女性は既にこちらに背を向け歩き去ろうとしていた。でも、確かにビオ君の視線は彼女を見ていた。
呆然としているように見えるビオ君に、恐る恐る声をかける。
「どうかしたの、ビオ君?」
何か、あの女性に対して反応があるかもしれない。あったらどうしよう。そう思ったけど、返ってきた返事は意外にそっけなく、
「…ううん、なんでもないよ。帰ろうユナ」
小さく首を横に振ってから、ビオ君は僕と手を繋いできた。
何もあって欲しくないと思っているのに、なぜか僕はその反応に落胆していた。
それから、ビオ君は何か考えてるみたいにぼーっとすることが多くなった。暇があると窓辺に行って、外を見てる。元々反応が控えめではあったけど、今までとは明らかに雰囲気が違った。
僕も、ビオ君に尋ねる言葉が上手く出てこなくて、静かな日々が2、3日続いた。


後は、皆さんも知っての通り。
きっと、僕が語る必要は無いと思うよ。騎士さんが見て、騎士さん達が調べたことが、事の全て。それ以外はきっと知る必要の無いことさ。

もう、いいんだ。本当にね。


……どこで、間違ったんだろうね。
こうして取調べを受けて終わって、部屋に戻るとさ。
何も見えないからどうしても昔のことを思い出しちゃうんだよね。ビオ君と過ごした時のことも、もっと昔の時のことも。
あの時、上の空だったビオ君に無理にでも話を聞いておけばこうならなかったのかも知れない。
あの時、あの女性が通りかからなかったらこうならなかったのかも知れない。
あの時、僕がビオ君のこと、正直に話していたらこうならなかったのかも知れない。

…あの時、僕がビオ君を好きにならなければこうはならなかった。
あの時、僕がビオ君を拾わなければこうはならなかった。
あの時、僕があの日記を見つけなければこうはならなかった。

―――――あの時、僕が生まれなければこうはならなかった。


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