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06 2008 / 10
ぼちぼち書いていきたいディタの過去話。
多分闘技場のシステム的なアレの参考にはならんです。




自分の名前が高らかに呼ばれた。
突然放り込まれた舞台には、巨大な猫に似たモンスターが居た。
モンスターは舞台に散らばる人間だったもので赤く化粧をしながらも、まだ足りないというように新たな獲物を睨み据える。
周りを取り巻く者たちは、思い思いに同じようなことを叫んでいた。
「戦え」「殺せ」と響く音に、ディタはようやく此処が闘技場のステージであることを思い出した。それと同時に久しく忘れていた笑いと云う表情が口元に浮かぶ。
ディタの笑みに不安を覚えたのか、猫のようなモンスターはじわじわとした歩みを止めて一足で飛びかかってきた。
一瞬大きくなった歓声を聞き届けながら、ディタは心の中で呟く。
戦うのも殺すのも、俺じゃない。


「ここが、おまえの部屋だ」
案内、いや連行してきた男は扉の鍵を閉めると逃げるように立ち去った。
先の戦いを見れば当然なのかもしれない。彼の目にはさぞかし恐ろしい妖術を使う魔女に映ったのだろう。たとえそれが今は使えなかったとしても。
ディタは今しがた閉ざされた扉に手を置いた。触れただけで厚みが分かりそうな重い鉄の扉。格子の周囲の傷跡や磨り減った跡は、かつてここに閉じ込められた者の抵抗の跡だろうか。
ため息を一つ吐いてディタは振り返った。安めの宿と大して変わらないような調度品とベッドがある。鉄格子が嵌ってはいるが、窓もあった。そういえばここに来るまでの廊下も今まで見てきた城などと大して変わらなかった。元々牢屋のような設備ではなかったのかも知れない。
そんなことを考えながら部屋に視線を巡らせて、ぴたとある一点で止まった。そこには簡素な装飾の机と対になっている一脚の木椅子があった。
いや、椅子だけだったならそこで視線を止める意味は無い。デザインが気に入ったからと云って、視線と共に表情まで止める必要はないからだ。たとえ今のディタが限りなく無表情に近しい表情しか持ち合わせていなかったとしても。
『それ』はディタが固まってからようやく気づいたようにこちらを見、優雅な所作でハードカバーの本に透かし彫りの栞を挟んで閉じた。
たっぷりと間を置いてから、『それ』は色も厚みも薄い唇を開く。
「…誰だね、君は?」
「こっちの科白だ」
一切の間も無く、ディタは反射的にそう返した。



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