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13 2009 / 06
まともな説明も無いままこんなことを書いてしまっていいものかとも思いますが。
ちょっと踏み込んだ薬の話です。
いや、むしろ謎が深まっているような気がしないでもありません。
自分の記述ミスが無ければ、最初から一貫して薬の正体的なものは書いているはずなんです。
問題は自分で読んでもミスに気づき難い事。

お忘れかと思いますが、レッドアイズは前の薬の話に出てきた紅い薬の創始者ですね。





昔、一度だけ墓を建てたことがある。共に旅をしていた仲間が死んだときだ。亡骸は定められた場所に納めなければならないが、心だけでも彼女が最期を望んだ場所にと標を建てた。
もちろんその仲間も、それが意味の無いことであるということは解っていただろう。薬に関わったものの行き着く先は決まっているのだから。

そして今。
僕は再び墓を建てた。
本当ならば生まれた地や縁のある地に建てるべきなのだろうが、彼のそのような場所はすでに実在していない。
だから亡骸を安置しておく墓所の裏手に建ててみたのだが、あれだけ薬を嫌っていた彼の墓を薬に最も近しい場所に置くのは迷惑だっただろうか。
どちらにせよもう返事は来ない。
「メリッサのときはなんともなかったのに…」
彼が死んだことは認められたのに何故かひどく納得できない。自分はこれからどうすればいい?

「ぼくも意外だよ。まさか君が残るとは」
「…久しぶりですね、消えて下さい」
「呼び出しといてあんまりだなぁ。ぼくはぼくを望むものが居る限り消えない。だってぼくは望むものに与えるものだから」
「僕の望みにも…与えてくれますか?」
「もちろんだとも。ぼくは総ての人に公平さ。特に君は現時点でこの世界に残ったただ一人のぼくの息子だしね」
「公平なものの言い草とは思えませんね」
「君を評価しているんだよ。純粋生命であるメリッサや、神殺しのジョウガを差し置いて生き残った。誰も予想してなかった大穴単勝だよ」
「僕がここに居続けようとしている理由を解ってて言ってます?」
「知ってるよ。君が紅い薬を適度に吹聴して、薬を求める者の注意を引き付けること。実在する物があれば新たに創り出そうとする者も居なくなるから」
「それでも…」
「でも、それは裏を返せば君が薬が在り続けるということだ。誰が創らなくても君の薬は存在し続ける。望む者が居る限り。そして望む者が消えることは無い。
薬の本懐は望む者のために在り続けることだから、在る薬はどんなものであっても構わないんだよ」
「薬の本懐…」
「幸い君はとても薬にふさわしいものになった。歴代最高と言得るほどに。だからこそ残ったんだろうけどさ」
「…あなたは本当に与えるだけですね」
「褒め言葉として受け取っとくよ。そうだなあ…じゃあ大ヒント。薬に一矢報いたいと思うなら、薬の主人を探すことだ。君は所詮君なんだから、君の限界以上のことはできないよ」
「主人…それも、あなたの望みですか?」
「“ぼくら”の望みだ。またね、アップルフィールド。ぼくの7番目の愛しい子」
「これが最後にと望みます。エリクシール・レッドアイズ、我らが紅き薬の父よ」

作ったばかりのジョウガの墓の前で、うたた寝をしていたアップルフィールドは目を覚ました。
やるべきことなど最初から決まっていた。これ以上紅い薬を増やさないこと。今までも、ずっとそのために旅をしてきたじゃないか。
アップルフィールド自身の望みではないが、望むものが死んでしまったのだ。引き継げばいい。どうせ自分には望むものなど無い。
新たに一人で旅を始めるとしたら、今の名前は少々有名になりすぎていた。外見の印象を変えれば気づかれ難くなるだろうが、本格的に薬について調べている者にはすぐにばれてしまうだろう。
新しく名乗る名前を…、少し考えてふと思いついた。
「テオフィル…。うん、テオフィルでいいか」
何度か反芻し、テオフィルは頷いた。


「驚いた。昔の記憶はもうなにも残ってないと思ってたんだけど」
「……………」
異なる世界。黒き空と白き大地と、紅い大河の流れる空間にて。
レッドアイズとジョウガは墓所から立ち去るテオフィルの背中を見ていた。
二人の間には真っ白なワイヤーフレームの丸テーブルがあり、その上には湯気の立つ紅いお茶が二つ置かれていた。レッドアイズのカップにはいくらか減った跡が見受けられるが、ジョウガのカップは口をつけた形跡が無い。
「メリッサを生み出したかの国の悲劇、あの時のショックでアップルフィールドの記憶は完全に失われたと思ったけど違ったんだねえ」
テオフィルと云う名は、ジョウガの妻テレスの養父の名前だ。アップルフィールドを育てていた教会はテレスが養父から受け継いだ物だから名も何度か聞いているはずである。
それが頭の片隅にでも残っていて思い出したのならばアップルフィールドは完全な記憶喪失ではないということだ。
「完全なる高潔、それがあの子の完全たる要素であると貴様は言ったな」
ジョウガはカップを静かに廻しながら、その水面に映った自分の顔を見た。仄紅く輝く虹彩が揺れている。
レッドアイズはより完全な薬を創るためそれぞれの薬に特性を与えた。メリッサの人でも何物でもない生命、ジョウガの不可能に立ち向かう強さ。様々な特性を持った薬が作られ、ことごとくが本懐を遂げられずに潰えた。即ち墓所に眠る薬たちである。
今、唯一生き残った薬は肉体的精神的な清らかさを特性としたもので、それこそが薬に必要なものだったのだとレッドアイズは断言した。

記憶喪失が精神の清らかさの証明と云うならば。
少しでも記憶の残るアップルフィールドはその条件を満たさない。

「完全に消える想いなどありはしない。想いの力をなによりも体現する貴様がそのことに目を背ける限り、薬の貴様の本懐は遂げられない」
バン、とテーブルを叩いてジョウガは立ち上がった。
「人を、嘗めるな」
「神は人を救わない。人を救うのは何時だって人だけだ」
「与えるだけの貴様が言うのか?」
与える事と叶える事は違う。レッドアイズは望みに対して与えはするが、叶えはしない。人を救うために薬を作ったはずなのに、結局薬では人を救えないのだとレッドアイズは言ってしまった。
「あの子もいずれ死ぬ。あの子の薬は滅びる。完全ではないんだからな」
少しでも綻びがあれば、その穴はいずれ大きくなって身を引き裂く。メリッサやジョウガやかつての薬たちと同じように。どんなに時間がかかっても、終わりがあれば永遠ではない。
ジョウガはその場を立ち去った。
その背中にレッドアイズは呟いた。
「確かに、薬が人を救うことは出来ない」
呟きが聞こえたのかジョウガが立ち止まる。が、すぐに歩き出して姿が見えなくなった。
レッドアイズは笑った。もう見えないジョウガに向けて。或いはここには居ない彼の息子に向かって。
「でも、人ならば人を救える。人ならば薬を救える。だって彼の存在は何よりも強く望まれたものだから」
きっとジョウガは気づいていないのだろう。ジョウガの想いがテオフィルを守り、ジョウガの望みがテオフィルを支えていることを。ジョウガが人を自称する限り、“人”は“薬”を救うのだ。
このままテオフィルが居続ければいずれは完全になる。
その事にジョウガが気づき、もしも自らの手で再び薬を斬れたなら、テオフィルに代わってジョウガが完全になるだろう。
「ぼくはどちらでも構わないけどね」
レッドアイズが残ったお茶を一気に飲み干して。
異なる世界は黒き空と白き大地と、紅い大河の流れるだけの空間に戻った。



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