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03 2009 / 01
若干長い気がしたので分割しました。
自分で考えておいてなんですが、七節は暖かい地域の虫なんですよね…。
それを言い出すと私兵連中の虫はほとんどヒュー国に居なさそうですが。
一応言っておくと、セリスの由来はセリシンという絹糸の原料となるタンパク質から。

私兵の話しなので百足さんをお借りしました。上編では名前だけ、下編ではちょっと出てきてます。
つうかこんな役回りで…なんかすみません。





いつのことだったか。
蚕蛾がまだ現陛下に紹介される前のことだ。
珍しく仕事が無かったミッドガルド様に連れられて、王族の誕生式典を見に行った。…ファーレンハイト様のものではなかったと思う。
「私の出る幕は無い、と言われてしまいましてね。他の奴らに邪険に扱われてなければいいのですが…」
人ごみで見えない式典の中心部に目を向け、ミッドガルド様は独り言のように仰られていた。
まだ教育係として就任した直後で、ファーレンハイト様の式典ではないのだから教育係まで参加する必要は無いと城から追い出されてしまったらしい。
当時は他のことに気をとられていて気づかなかったが、あの時のミッドガルド様はとても哀しげな目をしていた。教育係になって間もなくではあったが、きっと城に居た誰よりもミッドガルド様はファーレンハイト様を案じていたのだろう。
だからこそ、自分も全身全霊を込めてファーレンハイト様に仕えようと思ったのだ。ミッドガルド様が思うあの方を。
ふとミッドガルド様がこちらを向いて、少し困った顔をした。
「…ああ、ごめんなさいねセリス。今日は     ことはできないんです」

―――何を言っているのだろうか。
記憶の中のミッドガルド様の一言が、そこだけ抜け落ちてしまったように思い出せなかった。
共に居られる至福のときに、私はこれ以上何を望んだのだろう?
いつかの出来事の再生が、ふと途切れた。

唐突に崩れた上体のバランスを元に戻して、蚕蛾は軽く横に首を振った。
いつの間にか眠りかけていたようだ。この状況で夢まで見るとは暢気なことだと自嘲したが、気を張ってどうにかなることでもないのは確かだ。
身体は固まっていない。むしろ先程よりも温かいくらいだ。七節に貰った薬酒が効いているようだった。
そういえば七節が一緒に居たか。思い至って、蚕蛾は眠る直前まで同僚がもたれかかっていた壁に目を向けた。居眠りなんてしていたら、笑われるかと思ったのだが。
『…七節?』
呼びかけには応じられなかった。蚕蛾の『声』は風の魔法を使って相手の鼓膜を直接震わせて伝えているため、意識がある限り聞き逃すことは無いはずだ。
もう一度呼んでみたが、返事は無かった。珍しいこともあるものだと思いながらも、フードから覗く頬の白さがいつも以上に目について、蚕蛾はゆっくりと七節に近づいた。
身長の関係で普段から七節のフードの中をわずかにだが見ることの多かった蚕蛾は、フードの下の顔がいつも違うことを知っていた。今日は標準的なヒューフロスト人のものである金の髪と白い肌。
その金の髪が規則的に揺れて、彼が呼吸をしていることを示している。
生きてはいるか。見当違いな心配をしたことに苦笑しつつも、安堵の息がこぼれる。
吐き出した自身の息を見て、蚕蛾は凍りついた。七節の息が『白くない』。
『七節っ!?』
蚕蛾は叫び声と共にフードの胸倉を掴み上げる。
直後、目を覚ました七節が蚕蛾の手を払いのけた。
「俺に触るなっ!!」
反射的に振られた手は思いのほか強かったようで蚕蛾は床にしりもちをついて倒れた。
「! 蚕蛾……っ、………すみません…」
振り払ってから状況を思い出したのか、七節は慌てて蚕蛾に駆け寄った。
手を差し伸べようとして、何かに気づいたのか手をひっこめて俯く。
『構わない、一人で立てる』
床に片手をついて蚕蛾は立ち上がった。振り払われた時に触れた七節の手はこの石床のように冷たかった。
『先の酒瓶は―――――、』
「『火酒』と云う、氷妖種族が人間になりすますために飲むものです。体内で燃えて体温を作り出す…。察しの通り、先程私は飲まなかったからこのような状態になりました」
七節は振りぬいた手の平を静かに握り締めた。
「氷妖種族が寒さに強いのは、身体に流れる不凍血液によるものです。この血は決して凍らずに、気温と同調しながら循環する…そうやって氷妖種族はヒューフロストを生き延びてきました」
『なるほど、室温と同調したから息が白まなかったというわけか』
「ええ。ですが―――代わりに、我々は自発的に熱を作り出すことにとても疎い。それを補うために火酒を飲むんです。ミッドガルドも液体でこそありませんが、同じ成分の錠剤を服用していますよ。貴女なら見たことがあるでしょう?」
『ああ…』
蚕蛾は気のない相づちをうった。身近にたくさん居るというのに、どうにも氷妖のことはよく解らない。
大抵の氷妖がそうであるように、七節もまた饒舌な割りに一つのことに関しては話すのを避けているようだった。
『その…七節。氷妖は何故そこまでして氷妖であることを隠す?』
かつては魔法薬の原料になるとして氷妖狩りがあったと聞くが、今ではそんなことは行われない。なのにヒューフロストに居る氷妖の多くは種族を隠して生活している。凍らぬ身体は冬の国では有益なのに、薬を飲んでまで隠して。
七節は必要だからと言った。何のために?
「それは……………人と、手を繋ぐためです」
『…………手を?』
こくりと頷いて、七節は蚕蛾の手を包み込むように握った。その手の冷たさに蚕蛾の腕がさっと粟立つ。
蚕蛾の様子を見て七節は手を離した。
「かつて冬の地にで滅びに瀕していた氷妖種族は、この地を訪れた人間によって滅びを回避しました。孤独で心すら凍る雪原で、差し伸べられた手がとても嬉しかった…。でも冬を身に宿し生きる我々では、彼らに触れれば彼らを凍えさせてしまいます。もう手離されるのも触れられないのも……嫌なんですよ」
淡々と語る七節の目を、蚕蛾はどこかで見た気がした。

(―――――ごめんなさいねセリス。今日は手を繋ぐことはできないんです)

ああ、そうか。
脳裏によぎった光景が音声付で再生された。
式典で、自分は人ごみのなかに居た親子を羨ましそうに見ていた。父親と手を繋いで式典を見る少女を。
それを見てミッドガルド様は申し訳無さそうにしていた。あれは、いつもは出かける前に飲んでいた薬を飲み忘れていたからだったのだ。外気と同じ温度の手を繋ぐわけにはいかないから。
当時は命を拾われた者として、ミッドガルド様に甘えてはいけないから拒否されたのだと思っていた。
あの時のあの目は、寂しさが射した目は今目の前に居る男と同じものだった。

「…蚕蛾?」
『………ああ、なんでもない』
小さく首を横に振り蚕蛾は応えた。
忘れかけていた記憶を思い出し、当時は解らなかった真意を知ることができた。それだけで十分過ぎるほどだ。
七節がやったように蚕蛾も両手で七節の手を包むように握った。七節が驚きに目を見開く。
冷たさはあいかわらずだが、自らの意思で触れた分、冷たさは和らいでいる気がした。
何かを言いたいし、言うべき雰囲気ではあったふさわしいが言葉が出なかった。

「お二人とも、生きてますか~?」

扉が開く音と共に、暢気な声が倉庫内に入ってきた。
慌てて七節と蚕蛾は繋いでいた手を離し、互いに視線を逸らす。
あまりにもベタ過ぎる反応に、扉を開けた百足は下世話な笑みを浮かべた。
「お邪魔でしたかねぇ?」
『断じてそんなことはない』
「口が過ぎますよ、百足」
高速の否定とわざとらしい咳払いが余計に怪しさを引き立てていたが、百足が更に口を開こうとすると、続いて入ってきた男がそれを制止した。
「後にしておけ百足。二人共、無事か?」
鍬形は二人の無事を確認してから、外の状況を告げた。取り逃がしてしまったスパイは、蜻蛉と蟷螂が確保したと。
「ちなみに…ミッドガルド様は蚕蛾がシルフェを飛ばしたあたりから二人が閉じ込められたことに気づいておられたようだ。スパイの確保が迅速だったのも、足止めを手配していたあの方のおかげだ」
「やっぱり………」
沈んだ様子で七節が呟く。これから待ち受けているであろう説教タイムを思い、肩を落とした。
『いいじゃないか。たまにはこういうのも』
かつて見たミッドガルド優しさを思い出し、蚕蛾は柔らかく微笑んだ。
憮然としたままの七節を引きずりながら、《蟲》達は倉庫を後にした。



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