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04 2009 / 12
なんとなく長くなってしまったので、区切りました。
引き続き私兵の話。

百足さんは下っ端で、とのことでしたが、自分も蜻蛉と蟷螂は下のほうかなあと思っていたので、半年の間を取って先輩と後輩にしました。一応差があるけどほとんど変わらないような。
年齢的にも、最年少の蟷螂が20歳、蜻蛉がついで21歳とそこそこ年下なので、この二人にはあまり気を遣わないでいただけると嬉しいです。蜻蛉は先輩風吹かせそうですが。
ちなみにこの話は3年前なので、誕生日気にしなければ蜻蛉18、蟷螂17、百足さん25になりますか。



眩暈にも似た視界の暗転が起こり、直後周囲が一変する。移動系の魔術もそうだがあまり気分のいい代物ではない。特に、移動先が見知らぬ場所ならなおさら。
「ここがシュバルツシュタイン領…?」
事前情報からの警戒と、経験上の予測との違いに蟷螂は思わず疑問をこぼした。
3人が跳んできたモノリスがあった王城の庭と比べると、ここはとても薄暗い。それもそのはず、周囲はモノリスと同じような黒い光沢のある石で覆われていた。石の表面に淡い緑に輝く幾何学模様が走り、辺りを照らす光源となっている。正確には、石造りであると視認できるのは床と背後の壁と点在する柱だけで、天井も左右の壁も薄闇に隠れて確認は出来ない。ただ天井や左右の空間に星のように輝く模様が、ここが屋内であることを物語っていた。背後には今回の転送の着地点であるシュバルツシュタイン領のモノリスがあり、正面には暗がりが広がっていた。天井や左右とは違い、正面は壁があることを示す紋様が無い。恐らくここは、袋小路の廊下のような造りなのだろう。
「…屋内にモノリスがあるなんて、初めて聞いた」
蟷螂が背後のモノリスを見てうめく。モノリスは元々氷妖の遺跡だったが、現在は雪害で街が埋まった時に掘り起こす目印として使われていた。もちろん移動の利便性もあるので、新しい村や町を作る際には手ごろなモノリスがある場所を見つけることが重要な条件となる。それほど需要のあるモノリスが、建造物で覆われているということは…。
「知らなくて当然だ。言ってないのだから」
唐突に響いた声に、モノリスを見ていた蟷螂と蜻蛉が振り返った。モノリスとは真反対の、先が見えない空間の先。
念のためにと正面を警戒していた百足が一番驚いていた。気配は無く、足音も無かった。声が聞こえた瞬間、幕が落ちるようにその姿があるのを認めた。
暗がりに溶け込むか溶け込まないかの境界に、一人の男が居た。黒いウェーブがかった髪の、薄笑いの男。黒い服は、よく見たら聖服だった。フードも袈裟もないものだから、ひと目では判りにくくはある。年の頃は百足と同じか、2,3若いくらいだろう。
不思議なことだが、姿を確認してからは男の足音がはっきりと聞こえた。こちらに近づくたびに、音が近づく。その音が複数のものであると気がついたとき、男の両側から数歩遅れて二人の人影が現れた。折り目正しい格好をした、十代前半の少年と少女だった。
「それはこの国で唯一“人間が”建てたモノリスだ。よく見たまえ、外のモノリスよりも背が低いだろう?」
言いながら、男はモノリスの突端を指し示す。
「大きさにして外のおよそ0.75倍、装飾は出来る限り実在のモノリスや氷妖の住居遺跡の装飾を模倣して作ってある。受信しか出来ない仕様ゆえ制御装置は無い。今の我々ではこれが限界と云うわけだ。まあ、おかげでインテリアとして一定以上の価値は出ていると思う。制御装置があっては、どうしてもシンメトリーが崩れてしまうからね。規模の縮小も室内と云う限定空間で全体を一望出来るという利点を生み出した」
上から下へ、順に指差しながら説明をし、最後に腕を組んでうんうんと頷く。男の言動からは、危険とは別の厄介な雰囲気がにじみ出ていた。言うなれば、相手にするのが面倒くさい。
「失礼ですが、どちら様ですか?」
意を決して百足が尋ねた。必要の無いことかもしれないが、念のため。
その質問に、やはり男は心底不思議という表情で答えてきた。
「私はクウォン・シュバルツシュタインだが? 最初にそこの子が言っていただろう、ここがシュバルツシュタイン領か、と。その通り、ここが境界領シュバルツシュタイン領邸、そして私がヒューフロスト王よりこの地の守護を任されたシュバルツシュタイン家当主。そういう君達はミッドガルドの間者だろう」
「間者って」
「間違っていたかね? 私兵の仕事は大体そんな感じだろう」
首を傾げるクウォンを見て、百足はがっくりと肩を落とした。なんというか…喋り難い。
「ねーねー、クウォン様? ボクたちミッドガルド様に会いに行ってーって言われて来たんですけどぉ」
「…これを。ミッドガルド猊下からです」
百足と入れ替わりに、蜻蛉と蟷螂が前に出る。蟷螂が差し出した包みはクウォンの「オキシー、受け取りなさい」という命令と共に、クウォンの隣に控えていた金髪の少年が引き取った。引き取ると同時に小さく一礼した少年に、蟷螂も小さく頭を下げた。
「マメだねえ、ミッドガルドも」
「脅しまで付けられましたからね」
「ほう?」
感嘆符の語尾が上がり、クウォンは興味を持ったようだった。百足はうっかり口を滑らせたことを後悔した。
「…ここは危険な場所であると聞かされまして。気をつけてお使いをするようにと言われました」
「装備も整えて行けって言われましたー」
「成る程、ミッドガルドはそんなことを…」
クウォンはくつくつと笑いながら、百足たちの言葉を聞いていた。相づちを入れる声色は、自分がいない間に子供がやった悪戯を聞いて微笑む親のようだ。
その笑い声が、消える直前ふと色を変えたように聞こえた。そして唐突に一言、クウォンは問うた。
「試してみるかね?」
「へっ?」
「ミッドガルドが期待するように、私が君たちを試してみようかと思ってね。私もミッドガルドの手駒がどの程度なのか非常に興味がある。君たちもせっかく整えた装備が無駄になるよりはいいだろう?」
「いやあ、できれば穏便に終わって欲しいですけど」
「遠慮しなくていい。好意はありがたく受け取っておくものだよ。…ライツ、ベリル!」
まるで舞台役者のように、クウォンは大きな動作で右手を前に突き出した。真正面にあるモノリスを示すように。その勢いに押されて、反射的に3人はモノリスの方を向いた。
モノリス自体は何が変わっていることもなかった。
ただ、その両脇に先ほどまでは居なかった2つの人影があった。
「なっ!?」
「………!!」
百足と蟷螂に確認できたのは人影が二人、ということだけだった。どんな人物であるのか、交戦の必要性の有無などを判断するよりも先に、目前に迫る殺意に各々の手段で対抗した。蟷螂が両手に持った手鎌を交差させて受け止めた剣の持ち手は、氷刃騎士団の制服を着た赤毛の男。百足が刃盾一体の武器で防いだ魔術の矢は、祭務官服にベールを被った女の放ったもの。初撃をしのいでようやく相手の容姿にまで気が回った。
蟷螂は手鎌を押し切るように払い、赤毛の男を突き放す。男は勢いよく後ろに弾かれ、その勢いのまま背後の壁を3,4メートル駆け上がり、再び剣を振り下ろしてきた。
「なんなんだあの世界びっくり人間」
祭務官服の女の放つ魔術の矢を器用に避けながら、百足は蟷螂のほうを見て呆れ気味に呟いた。赤毛の男だけに言っているのではない。今百足が相対している女も、目を疑いたくなるような動きをしていた。女はモノリスの上に居る。足止め狙いで百足が見舞った攻撃を避け、“一足”で身の丈の3倍はあろうモノリスの上に飛び乗ったのだ。
ひとまず女に手出しできないことを認めると、百足は蟷螂と赤毛の男がつばぜり合いをしている場に駆け寄り、赤毛の男を思い切り蹴り飛ばした。すかさず蟷螂は空いた手鎌の片方をモノリスに向かって投げつける。祭務官服の女は、手鎌を避けるようにモノリスから降りた。女はそのまま、起き上がった赤毛の男の元に歩み寄った。
いきなり現れたり超跳躍を見せたりと、クウォンがライツとベリルと呼んだ男と女は、およそ人間とは思えなかった。
「登場芸に関しては解決しましたけどねえ」
「…?」
「あたしらと一緒ですよ。モノリスでここに移動してきた。こと来る事に関しては、ここは行き止まりでもなんでもないんですから」
「…なるほど」
問題は、百足以上にモノリスの至近距離に居た蜻蛉と蟷螂がモノリスが起動する気配に気づかなかったことだろう。ただ在るだけならいざ知らず、術起動装置ならば移動に使えば多少なりとも魔術の気配を発するはずである。それとも、魔術の気配が出ないのも人間製のモノリス故とでも言うのだろうか。
そこまで考えて、ふと百足はあることに気付いた。何故あの女は、自分を襲ってきたのだろう。
「これで! 王手だっ!!」
百足の疑問に応えるように、頭上から聞き知った声が降ってきた。声だけでなく、声の発生源も含めて。
「…なんで上から」
「………趣味なんだろう、たぶん」
「ボクはお貴族様だからって容赦しないからね! 頭を止めれば手足も止まるでしょう!?」
両手に短剣を構えて、蜻蛉はクウォンに向かって落ちてきた。壁男の末裔である彼は、クウォンがモノリスを示し皆が注目した瞬間に床石に潜り、壁の中を伝って天井に回っていたのである。叫ぶ通り、狙いはクウォンのようだ。
「…ふっ」
クウォンは小さく笑い、髪をかき上げる仕草をした。一直線に向かってくる蜻蛉を見据え、
「君では私に触れられないよ」
宣言の通りに。
蜻蛉はクウォンをすり抜けて、黒い床石に激突した。
「蜻蛉!?」
「ふむ、それぞれ瞬発力や状況判断は悪くないね。だが、あと一歩と言ったところか」
大仰に、手を伸べながらクウォンは宣う。カツカツと足音を立てて歩き回り、蜻蛉の手を蹴って短剣を一本ずつ壁際に追いやった。
「先ずそこの君。何故ライツを斬らなかった? 避けられる可能性があったとしても、絶好のチャンスだったはずだ。人の形をしているから、境界伯の部下だから、というのは理由にはならない。ミッドガルドの一番の敵は皆、人の形をしている。そして、公には出来ないようなことだからこそ君たちが行うのだ。
次に背の高い君。武器は簡単に手放すものではないよ。代わりが無いなら尚更に。見たところ近接戦闘向けの駒のようだが、それは特技とすることだ。それしか出来ないようでは意味がない。
最後にスーツの君。君は戦闘が起こったことを確認する前に動き、躊躇い無く私をターゲットに据えた。そこは評価に値する。だが精神的に大分未熟なようだね。大声で狙いを話しているようじゃ、意表をつくことなんて出来やしないよ」
しゃがんで、蜻蛉の顔を覗き込む。遮光ヘルメットの下でむくれる蜻蛉をなだめるように、クウォンはにっこりと微笑んで言って聞かせた。
「シュバルツシュタイン様、なんでさっきの通り抜けたの? ボクはすり抜けるつもりなかったのに」
「それは国王級で無ければ話せないな」
蜻蛉は彼が望むものを、すり抜けたりすり抜けさせたりすることが出来た。だがそれはあくまで望むものに限る。ただ普通に居るだけならば、すり抜けることなどありえない。
クウォンは含んだ笑みで蜻蛉の問いをかわし、ライツとベリルに戦闘を中止するよう命令した。命令を受けたライツとベリルは、構えを解き、主人と客人に一礼すると最初に居たモノリスの両脇に戻った。
「先も言ったように、そこのモノリスは到着専用だ。帰りはこちらになる」
クウォンの案内を受け、3人は“出口”に向かって歩いていった。クウォンを先頭にして、その直ぐ後に少年と少女が付き従い、その後ろを三人が付いていく。
来たモノリスから遠ざかるように伸びる通路は、時折横道に抜けるように枝分かれしていた。枝分かれした先もやはり幾何学模様の光が見えるだけで、奥までは見通せない。
「今更ですけど、ここ、窓がありませんねえ」
「境界伯領は基本的に山にある。そして我が城も山の中にある。かつての氷妖に倣ってね」
「地下ってこと?」
「標高で見ると王都よりも高い位置だ。洞窟と呼んだ方が適切かな」
そもそもシュバルツシュタインは、ワイスシュタインと並んで建国より王家に仕える古くからの王従だ。ワイスシュタインが王の傍にてそれを守り、その剣となったように、シュバルツシュタインはいち早くモノリスの機能を解析し、ヒューフロストの全国土を掌握することに成功した。その功績を認められ、シュバルツシュタインは“王に最も遠い守護者”として他国と接する地の全てを領土として与えられたのだ。故にシュバルツシュタインは境界伯と呼ばれる。
「境界領は最も早く外敵と衝突する最前線だ。砦は目立たないに越したことはないだろう?」
「普通、逆じゃないのぉ?」
敵と最接近する砦ならば、威嚇できるような派手なものの方が一般的のはずだが。
「森林での篭城戦で、自陣の最も外に張るのは何かね?」
「バリケードですかねえ?」
「…鳴子だろう。……なるほど」
「そういうことだ」
肯定と共に突破されるための砦の主は足を止めた。目の前の2枚扉を、少年と少女がそれぞれ一枚ずつ押し開ける。扉の向こうはこちらと変わらず黒い石造りだったが、窓から差し込む日の光があった。
先ほどの場所よりは生活感のある屋内を抜け、中庭と思しき場所に出た。中央にあるモノリスを囲むように建つ屋敷の造りは王城を髣髴とさせる。
「領土を任される前の…王都に居た頃が恋しくなって造らせたそうだ」
モノリスの起動装置を操作しながら、クウォンは笑って言った。
「…一つ、お訊きしたいことが」
「何かね?」
クウォンがモノリスの設定を終え、後は作動させるだけの状態にして少年に装置を任せてから。
百足は尋ねた。
「何故、このようなことを? シュバルツシュタインはヒューフロストの名家であることは解ります。国を守るというその責務も。ですが、それと宰相の一私兵が面会せねばならないというのは繋がりかねます。それとも、この国の全ての戦力を把握しなければならないとでも?」
「全ての戦力を把握するのは、私の仕事ではないな。……そうだね、理由は、彼がミッドガルドだからだよ」
「……卿の下で教えを受けた、ミッドガルド家に連なる者だからということですか?」
「“ミッドガルド家”は、もう私とはあまり関係ない。あれは氷妖とも関わりない、独立した財団だ」
「? ではどういう…」
「私がミッドガルドと呼ぶのは、ルイーズとマリオだけだからだ。彼らだけが、真にミッドガルドと名乗ることの出来る存在なのさ」
現状ミッドガルドという家名は奨学金財団“ミッドガルド家”に属するものが名乗っている。創始者であるルイーズ=ハイド・ミッドガルドの家名を取って名付けられ、この奨学金を受けて功績を挙げた者は家名を名乗ることが許される。現当主であるマリオ・マセルスも“ミッドガルド家”の奨学金を受け学び、宰相位まで登り詰めたためミッドガルドを名乗っていた。
元々あった貴族家としてのミッドガルドはルイーズの代で途絶えているはずである。
「難しく考えることはない。ミッドガルドは私の下にて教えを受けた。私は今でも彼を我が子のように思っている。子を心配するのは親の性さ。……さあ、お帰り。あまり引き止めていてはあの子に悪い。君たち、ミッドガルドに宜しくと言っておいてくれ」
モノリスでの転移の直前、3人に手を振るクウォンは、自ら言うように子を思う親の顔をしていた。


「―――以上で報告は終了です」
『ご苦労だった。無事に帰ってきてくれてよかった、本当に』
形式的なやりとりの後、調子は変わらないがなにやら感情のこもった一文を付け足して蚕蛾は労った。
無事にお使いを終え戻ってきた3人は、詳細を蚕蛾に報告していた。命令を受けたときとは違い、報告はミッドガルドの執務机の前で行われた。机の前に立つ蚕蛾の他に、机の後ろ、ミッドガルドの背後には鍬形も居た。
「……そんなに危険なことだったのですか? 今までに帰ってこなかった者が居たとか」
『ほとんどの者は帰ってきたよ。私兵にはミッドガルド様の友人知人や、騎士団・情報局出身者も居るからそういう者は問題ないんだが……たまにスパイが入ってくることがある。本人も気付かぬうちに外への情報源にさせられている場合もあるからな、こちらが警戒するにも限界がある。元々これは境界伯からの申し出なんだ。傍に置く者を私からも精査させろとな。外はともかくとして、国内のことならば境界伯が一番よく識っている』
要約すると、魔族の蜻蛉と流れ者の百足がグレーゾーンだったから、シュバルツシュタインが心配したということだった。
「そんなにすごい人なんですかぁ?」
『シュバルツシュタインはヒューフロストにある全てのモノリスの管理・運営を任されているからな。モノリスを介して行われた移動や通信は全て記録されてシュバルツシュタインが保持している。平面的な行動の記録ならば、情報局以上に詳しいはずだ』
「情報保持者としては、話好きなのが難点ですがね」
報告を聞いていたミッドガルドが、書類を書く手を止めずに口を挟んできた。
「よく喋る上に、話し方が独特ですから。喋り難かったでしょう?」
あー…、と3人は最大限遠慮したように反応した。その反応が、シュバルツシュタインに対する感想を如実に表現していた。
「クウォンは普段はずっとあの砦に引き篭もっていますから、たまに来る者をからかう癖があるんですよ。彼の言は話半分で聞いておいたほうがいいですよ」
ミッドガルドはなにやら聞きた気にしている部下に釘を刺す。鍬形が、バツが悪そうにごほんと咳をした。
報告が終わると、半ば追い出される形でお使いに行った3人と鍬形が宰相執務室から離れた。鍬形と百足は次の任務を言い渡され、蜻蛉・蟷螂は私邸の当直に向かうことになっていた。
「さっきの咳って、鍬形は何聞いたのー?」
執務室での出来事を、蜻蛉は抜け目無く尋ねた。ミッドガルドは蜻蛉たちに向かって言っていたのだろうが、一番反応していたのは鍬形だった。彼はシュバルツシュタインの話を真に受けたということか。
鍬形は思い悩んで、その表情は恥ずかしげというよりは青ざめて、一つため息を吐いた。そして廊下を外に向かう道とは逆方向に曲がって行った。
「……鍬形?」
「ちょっと付いて来い。…直ぐに終わるから」
そう言って向かった先は、王城の本部棟にある廊下だった。廊下の先には普段は使われていない礼拝堂があり、もちろん廊下も掃除女中以外ほとんど通る者は無い。直射の差す窓が無いので王家に関する絵画が飾られている場所だった。
「そこの柱から2番目の絵は、セルシウス9世時代の王家に関わる者を描いたものだ」
鍬形は柱で仕切られたある区間で足を止めると、目線よりも高い位置にある一枚の絵を指差した。高い位置にあるため全体を把握するのにやや時間がかかったが、鍬形の解説もあり絵の概要は知れた。
「中央がセルシウス9世女王陛下、すぐ左に立っているのが伴侶であるカルナン・ナファム氏、その横が当時のワイスシュタイン家当主アマーリア・ワイスシュタイン…」
鍬形の説明を、蜻蛉と百足は頷いたり相づちを打ちながら聞いている。
蟷螂は鍬形が言わんとすることに気付き、はっと目を見開いた。
遅れて蜻蛉と百足も気が付く。鍬形が指差す先。
「一番右、初代情報局長ルイーズ・ミッドガルドの後ろ……」
「そんな莫迦な…」
思わず百足が呟いた。
黒い装束に長身のルイーズの横に、隠れるように佇んでいる男は、境界伯領に居た男と寸分違わぬ姿をしていた。いや、実物がこの絵と同じだったというべきだろうか。
「絵に描かれているのは当時の国王とそれに深く関わる者、そして古くから王家を支えていた要石と呼ばれる二家とのことだ。他の者ははっきりと身元が判っているということは、消去法でその絵の男は当時のシュバルツシュタイン家当主だったということになる」
セルシウス9世時代は、今から数えて150年以上前の時代だ。その時代から生きていて、容姿が全く変わらない人間と云うのは常識的には考えられない。
「俺はここの絵が好きで騎士団に居た頃からよく見ていたんだ。お前たちのように境界伯領に使いに行ったとき、どこかで見た顔だとは思っていたが、戻ってきてここの絵を見てぞっとした。…まあ、気にしても仕方ないから諦めたけどな」
嘆息と共に鍬形は肩を落とした。
もしかしたらよく似た子孫なのかもれない。だが、もしも150年前と同一の人物であるならば、彼の不可思議な言動に説明がついた。クウォンはまるでルイーズとマリオ両方のミッドガルドをよく知っているかのように話し、我が子のように思っていると言った。百足は自分と同じか幾らか若く見えるクウォンがそれを口にすることに違和感を覚えていたが、歳を取っていないなら理解できた。
そんな人間が居れば、の話だが。
私兵の通過儀礼であるという『お使い』は、各人の胸に様々な疑問を残したまま終了した。


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