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22 2009 / 11
ミッドガルドの話。





彼をよく知らない人々から見れば、ミッドガルドは胡散臭い人間に見えるでしょう。
確かに彼には掴めぬところが多い。突飛なことをしたり、突然意見を翻したり、長く近くに居た私でさえも理解できぬこともあります。
ですが、それらはすべて彼の深い考えのもと成されたことなのです。いつだって、ミッドガルドは“自身以外の全て”に対して最善でした。たとえ彼自身の評価には最悪になることでも、彼はこの国に対して、私に対して誠実でした。

ミッドガルドはこの国の下流貴族の嫡男でした。兄弟も親戚もなく、次代はミッドガルドのみという消え入りそうな家柄でした。
体格の良かったミッドガルドは騎士となることを期待されていましたが、入団して程なく自主退団しました。
そして、国の二柱と呼ばれる名家の一つシュバルツシュタイン家が出資・運営する教育機関に入学します。これは貴族として、いえ、一般的なヒューフロスト国民としては異例なことでした。シュバルツシュタインは孤児院運営を主体としており、かの家の教育機関はそのような者達に教育を施す場所だったからです。その後機関を出た後も、シュバルツシュタインに関わるものであることを示すように、彼は黒い衣装を好んで着ていました。
ミッドガルドが私の教育係となったのも、シュバルツシュタイン家の当主からの推薦でした。面白い男が居るがどうか? とクウォン・シュバルツシュタイン様は勧められました。当時の私はあまり身体が丈夫ではなく、城に篭りきりで人見知りだったのでなかなか教育係が決まらなかったのですが、彼は他の方々とは違って打ち解けることができました。
身体が丈夫になってからも、どこに行くにも彼の後ろに隠れて行ったように思えます。彼は人見知りを治していこうとは言いましたが、それを咎めることはしませんでした。「いずれ立派な王となれるように」、いつもそう言ってくれました。
学ぶ歳でなくなった後も、侍従の祭務官として彼は私の傍に居てくれました。「立派な王になれるまで居て欲しい」、その私の願いを聞いてくれました。
そして今まで、私の傍に居てくれました。

多くの者が彼を理解できないのは、そういったことを知らないからでしょう。
長く一緒に居た私でも、ミッドガルドのことを知るのに大変な時間を必要としました。そして、それほどの時間をかけても解ったのはたった二つだけ。
彼は彼自身に忠実であること、そして彼が生涯を捧げようとした彼の好奇心。
たった二つの事柄ですが、それは彼の行動の全てを説明するには十分なものでした。
いったん武の道を行きながら学問に鞍替えしたことも、斜陽とはいえ貴族でありながらシュバルツシュタインが出資する教育機関へ行ったことも、私に対する忠誠も。
今更解っても、仕方のないことでしょう。もし最初から解っていても、きっと私に勝ち目はないでしょう。
揺らぐことの無いものだからこそ、彼に惹かれたのかもしれません。だったら、私が愛した彼を知ることが出来たことは、私にとって最善であったと言えるでしょう。
もしかしたら、これは後世にも伝わらないかもしれません。ミッドガルドは優秀ではあったが奇妙な人物だったと言い伝えられるかもしれません。
でも、ミッドガルド自身がそれを訂正する気がないのならば、私から訂正することもないでしょう。私から訂正しても、私とミッドガルドの仲を訝ったものが喜ぶだけでしょうから。


夜の城内は、昼とは違った雰囲気があった。
窓より差し込む光は月のそれである。太陽のような活動的な明るさは無いが、青でありながら冴え冴えとするような冷たさも無い、不思議な光だ。
廊下からふと外を見ると、中庭にミッドガルドの姿があった。
不思議に思い―――――その後、納得のような境地に至り中庭に下りた。こちらに気付いていないようなので近づいていくと、あと数歩の距離で呼び止められた。
「眠れないのですか、殿下?」
ミッドガルドは振り向いてはいない。だが、私であることを断定するような口調で言ってきた。
「あなたこそ、眠れないのですかミッドガルド」
「いえ。今日で見納めかと思うと、自然と足が止まりましてね」
ミッドガルドの視線の先には月明かりで鈍く輝く黒い石柱がある。緊急用に設置されているモノリスだ。このモノリスは普段は使われることがなく、場所が場所なだけあって外のモノリスに比べて幾分か装飾的な外装になっていた。氷妖の遺跡にある装飾を模して飾ってあるという。
ミッドガルドは振り返って、微笑んだ。
「式典に居て、私に何も任じられなければ訝る者も出るでしょう。ならば居ないほうがいい」
「あなたを六人委員に選ばなければ、私があなたと距離を置いたことになります」
「いいえ、殿下。逆ですよ。六人委員に選んでも無いのに式典に居ては、あなたが教育係離れできていないという意味にとられてしまいます。それでは良くない」
いつものように、優しく、諭すようにミッドガルドは語りかけてきた。
いつだってうまく言葉を返すことが出来ない。返す言葉が見つからなかった。自分には、彼を引き止める言葉が無い。
「そのような顔をしないで下さい、セレスト殿下。―――――いえ、セルシウス女王陛下」
立ち尽くしていると、ミッドガルドは寄ってきて、静かに頭を撫でてくれた。
「元より約束をしていたはずです。『あなたが立派な王になるまで』、実際、あなたは立派になられた。知性も精神もこの国の女王に相応しいものを身につけた。支えてくれる多くの臣下や、伴侶となる男性も居ます。もう私の後ろに隠れることも無い―――私を必要としない、女王に」
「まだ…陛下じゃありません」
「今日が終わればあなたは陛下です。…もう間もなく」
ミッドガルドは懐から懐中時計を取り出し、盤面を示した。あと10分もせず『明日』になる。
「せめて出発を明日には出来ませんか? 式典に出なくても、式典を見ることは出来るでしょう?」
「王都を出るなら、明日の式典の喧騒が来る前が一番いい。人に紛れ、王都の外の人気がなくなりますからね。それに…私はこの時を待ち望んで生きてまいりました。それは殿下もご存知でしょう?」
「………はい」
セレストは力無く肯定した。
ミッドガルドはこの国に先住していた氷妖種族の研究者だった。建国史に出る氷妖や、氷妖の技術を研究するものは多く居る。だが人としての氷妖を調べる者は、この国でも極端に少なかった。歴史的に、技術的に、文化的に、あらゆる方面から追求しながら、最終的にミッドガルドが知りたいのは「何を思って氷妖はこの地に暮らしていたのか」ということ。それは調べるものが少なく後ろ盾が無いため、他の研究よりも困難が多い。ミッドガルドがセレストの教育係に志願したのも、王家に伝わる氷妖に関する情報を得るためだった。
つまり全ては研究のため。今までミッドガルドがセレストに接してきてくれたのは、氷妖に関する伝承を得るためだったのだ。
セレストは、動かないでと命令し、ミッドガルドに抱きついた。
「あなたから見合いの話を切り出されたときは、とても悲しい気持ちになりました。本当は、ずっとあなたと一緒に居たいと思っていたから」
「存じております。だからこそ私から言い出したのです」
いずれ消える者に期待を持たせては悪いですから、とミッドガルドは小さく呟いた。
その呟きを聞き届けてから、セレストはゆっくりとミッドガルドから離れた。数歩下がり、先よりも距離を開ける。
互いに真っ直ぐ見つめ合った。もうセレストの目に揺らぎは無かった。
「この国を出るのですか?」
「いいえ、それはありません。氷妖はヒューフロスト独特の種族です。遺跡調査も国内で納まる。まあ、王都では考えもつかないような小村に行くことになりますから、位置的には他国と変わらないかもしれませんね」
「では、私はそのような小村まで名が伝わるほどの女王となります。ルイーズ、あなたにいつでも私の名が伝わるように、必ず」
「…ふふ、期待しておりますよ」
ルイーズ・ミッドガルドはにやりと笑うと、女王に一礼し、女王とすれ違う形で城への入り口に向かって歩き出した。
セレストはミッドガルドを追わなかった。視線を向けることもなく立って、ちょうど彼女自身が中庭に来たときと同じように。
城に入る直前で、ミッドガルドがふと立ち止まる。
「女王陛下もそろそろ中にお入りください。明日のためにも、身体を冷やしては悪い。……婚約者殿も心配しておいでですよ」
えっ、と驚いてセレストは出入り口の方を振り向いた。こちらを向かず手を振るミッドガルドと入れ違うように、婚約者がセレストに駆け寄って来るのが見えた。


翌日のセルシウス9世即位式に、かの女王が信頼を寄せていた教育係の姿は無かった。
ルイーズ・ミッドガルドは自らの私財で立てた奨学金財団《ミッドガルド家》と、初代局長を務めた情報局を残し、王都から姿を消した。



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